第63回:最強のジジイたちがチャレンジャーで夜を駆け抜ける!
『ミッドナイト・ガイズ』
2013.11.14
読んでますカー、観てますカー
3人で合計200歳超え
ジジイ映画である。それも、超カッコいいやつだ。主演の3人は、アル・パチーノ、クリストファー・ウォーケン、アラン・アーキン。それぞれ73歳、70歳、79歳で、合計すると余裕の200歳超えだ。困ったことに、全員がべらぼうに元気である。だから、しみったれた老い支度映画のわけがない。セックス、ドラッグ、バイオレンスと三拍子そろったアクション・クライム・コメディー映画になってしまった。そしてもちろん、ジジイの夢が詰まったファンタジーである。
刑務所からヴァル(パチーノ)が出所するシーンから始まる。28年ぶりのシャバだ。出迎えるのは昔の仲間のドク(ウォーケン)ひとりだけ。しょぼくれたジジイで、乗ってきたクルマも28年前から変わってないボロだ。ドクの部屋に入ると、置いてあるテレビはブラウン管式。彼らの時計の針は、ずいぶん前から止まっている。
長いムショ生活を終えたヴァルの望みは、お決まりのものだ。酒と女に決まっている。バーに行ってナンパするわけだが、まずはヤクをキメておかなきゃいけない。バーのカウンターに白い粉でラインを引き、鼻からすすりこむ。途中で寄ってきた薬局で手に入れた高血圧と緑内障の薬である。老体には、コカインなんかよりこっちのほうが効く。
エンジンがかからない……
若い女が簡単にジジイになびくわけもなく、次に出掛けたのはなじみの娼館だ。ここでもクスリは必要になる。男の能力を高めるやつだ。ヴァルは初めて使うので勝手がわからず、欲張って何錠も飲んでしまう。原題は『Stand Up Guys』なのはそういうことかと思ったが、違っていた。立つんじゃなくて、“実直な男”という意味なんだそうである。ともあれターボ効果は抜群で大いに楽しむが、効きすぎて元に戻らなくなってしまった。救急車で病院に運び込まれ、直接それに注射を打って柔らかくしてもらうハメになる。ヴァルのやっていることは、28年前のヤンチャだった頃のままだ。
ヴァルは夜の街を満喫するが、ドクは浮かない表情だ。彼はボスのクラップハンド(マーク・マーゴリス)から、「翌朝10時までにヴァルを殺せ」と厳命されていたのである。28年前の事件の時にクラップハンドの息子が殺されていて、彼はそれにヴァルが絡んでいると思って恨んでいたのだ。ヴァルを殺さなければ、今度はドクの命が狙われる。
不自然な様子に、ヴァルも気づく。長い間ギャングとして一緒に仕事をしていた仲間なのだ。わからないはずがない。とにかく朝までの時間は思い切り騒ごうと決めた彼らは、とりあえずクルマを盗むことにした。首尾よく見つかったのは、「ダッジ・チャレンジャーSRT8」である。392 HEMIエンジン(6.4リッターV8)を積んだモンスターマシンだ。ヴァルにとってはクルマの運転も久しぶりで、エンジンすらかけられない。キーシリンダーが見つからないのだ。スタートボタンでエンジンを始動するクルマなんて、28年前にはなかった。
彼らは、もうひとりの仲間のもとへと向かう。すご腕のドライバーだったハーシュ(アーキン)である。認知症気味の彼は、老人ホームに閉じ込められていた。でも、ゴキゲンなクルマを見た途端、昔の記憶がよみがえる。腕は鈍っちゃいない。パトカーに追いかけられても、鼻歌でぶっちぎる。暴走老人が3人集まれば、最強のチームになるのだ。
最期の瞬間はスーツ姿で
クールなジジイを楽しそうに演じている3人だが、大変なキャリアの持ち主だ。パチーノは『セント・オブ・ウーマン』、ウォーケンは『ディア・ハンター』、アーキンは『リトル・ミス・サンシャイン』でアカデミー賞を受賞している。高尚な文芸映画に出ていてもおかしくない名優が、夜中にばかの限りを尽くす演技を真面目な顔でやっているのが素晴らしい。彼らの“男の子の魂”を引き出した監督は、フィッシャー・スティーブンス。悪質なプロパガンダ映画『ザ・コーヴ』のプロデューサーをやっていた人だが、やればできる子なのだ。
ミッドナイトを駆け抜けた老人たちに、朝は容赦なくやってくる。決断の時には、身だしなみが大切だ。ダークなスーツに身を包み、男は自らの美学を貫く。アル・パチーノがトニー・モンタナを演じた『スカーフェイス』は、1983年の作品だ。この映画でヴァルが刑務所に入った時期とほぼ同じである。どうしたって、ヴァルがジジイになったモンタナに見えてしまう。あの時も、彼はスーツ姿で華々しく散ったのだ。
クリストファー・ウォーケンは、『セブン・サイコパス』でも若い世代を助ける老人の役をやっている。アラン・アーキンが『リトル・ミス・サンシャイン』で演じたヘロイン中毒のダメ老人は、死ぬことで家族の絆を取り戻すきっかけとなった。権力にしがみつき命を永らえることに執着する老人は醜いが、死に場所を見つけたジジイはとてつもなくクールだ。『グラン・トリノ』のクリント・イーストウッドは、男なら誰もが憧れる最高の死を見せてくれた。こういう映画を見ると、早くタフなジジイになりたくなる。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第291回: あの衝撃的なラストシーンは2CVで撮影されていた!?
『ヌーヴェルヴァーグ』 2026.7.9 1959年のパリで、ゴダールが『勝手にしやがれ』の撮影を開始。脚本もなく演出はその場で指示するという型破りのスタイルに、俳優もスタッフも困惑し現場は混乱を極める。はたして映画は無事に完成するのか……。 -
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か
『シラート』 2026.6.4 失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
第289回:最強の格闘家は破壊されるクルマに自分を重ねた
『スマッシング・マシーン』 2026.5.14 ドウェイン・ジョンソンが映画化を熱望した伝説の格闘家マーク・ケアーの栄光と没落の人生を描く。東京ドームで行われた総合格闘技イベント、PRIDEグランプリ2000を完全再現! -
第288回:自称詩人は中古車で自由を表現する?
『自然は君に何を語るのか』 2026.3.20 「月刊ホン・サンス」第5弾は『自然は君に何を語るのか』。恋人の両親に初めて会う自称詩人は、気まずい空気の中で次第に感情を抑制できなくなっていく。「キア・プライド」が小道具としていい味! -
第287回:宝石を盗んで西海岸のハイウェイを駆け抜けろ!
『クライム101』 2026.2.12 ハイウェイ101で発生する宝石盗難事件はいつも迷宮入り。「ダッジ・チャレンジャー」で素早く逃走する犯人の犯罪心得は、殺さず、傷つけず、証拠を残さないこと。泥棒、刑事、保険ブローカーが華麗なる頭脳戦を繰り広げる!
-
NEW
ぶしつけ御免! 人気連載「カーデザイン曼荼羅」公開収録を開催
2026.7.29From Our Staff歯に衣着せぬ物言いでカーデザインを深掘りする人気連載「カーデザイン曼荼羅」。その公開収録&懇親交流会を開催します! テーマはずばり「日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの」。自動車の造形に興味のある方、ぜひふるってご参加ください。 -
NEW
2つの工場が持つ性質の違いは何のため? ダイハツが誇る九州の製造拠点を見学
2026.7.29デイリーコラムダイハツといえば大阪……というイメージが強いが、実は全体の50%、軽自動車では77%を生産しているのは九州の大分(中津)工場だ。この一大拠点における最新の取り組みや、ダイハツが推し進める「メイドイン九州」プロジェクトについて紹介する。 -
NEW
ポルシェ・マカンGTS(4WD)【試乗記】
2026.7.29試乗記ポルシェの擁する電動のハイパフォーマンスSUV「マカン エレクトリック」に、さらに走りを磨いた「GTS」が登場。エンジンを積まない電気自動車でも、ポルシェならでは、GTSシリーズならではの走りは楽しめるものなのか? 雨のなかの試乗を通して確かめた。 -
NEW
第122回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(前編) ―すべては計画どおり!? 物議をかもすフロントデザインの正否―
2026.7.29カーデザイン曼荼羅日産が満を持して日本に導入した、コンパクトSUVの新型「キックス」。失敗が許されない量販車種だけにデザインはコンサバかと思いきや、実際にはかなり強烈な“顔”の持ち主だった。物議をかもすその容貌は確信犯の所業か? カーデザインの識者と考えた。 -
NEW
写真で解説する軽規格の電気自動車「BYDラッコ」
2026.7.28画像・写真「BYDラッコ」は、100%電動の軽スーパーハイトワゴン。海外の自動車メーカーで初となる日本の軽規格にあわせた専用設計のBEVで、軽自動車では世界初のSDVとしても注目される。このラッコの内外装や発表イベントの様子を、写真で詳しく紹介する。 -
「クムホ・エクスタ スポーツ」の実力をビーナスラインで解き放つ
2026.7.28クムホの基軸スポーツタイヤが「PS71」から「PS72」へ<AD>クムホの人気スポーツタイヤ「エクスタPS71」が「PS72」へと進化。ドライ&ウエットのグリップ力やハンドリング性能、耐摩耗性などで全方位的な進化を遂げたほか、新たに「エクスタ スポーツ」「エクスタ スポーツS」の名称が与えられた。よりストリート向けの前者を「アルピーヌA110」で試した。