レクサスGS300h“バージョンL”(FR/CVT)
売れ筋になる予感 2013.12.03 試乗記 レクサスのミドル級セダン「GS」に、第2のハイブリッドモデル「GS300h」が追加された。その走りは、他のグレードとどう違うのか? じっくりとテストした。動力性能は予想以上
これは、まあ、予想どおりの展開である。この秋の年次改良にあわせて、「レクサスGS」に、「IS」(そして「トヨタ・クラウン」)と同様の2.5リッター直4エンジンベースのハイブリッドモデルが追加された。車名はもちろん「GS300h」である。
ちなみに、既存のパワートレインもすべて継続設定なので、GSに用意される動力源はこれで合計4機種。トヨタブランドのクラウンと同「クラウンマジェスタ」にあるパワートレインはすべて、このレクサスGSでも選ぶことができるようになった。
GS300hの心臓部は、IS300hやクラウンハイブリッドのそれと基本的に同じである。178psの4気筒ガソリンエンジンに143psの電動モーターを組み合わせたシステム総出力は220ps。指定燃料は、GSでは唯一のレギュラーガソリンである。
……といった基本情報を念頭において、GS300hで走ってみる。GS300hは同じパワートレインのクラウンやISより、はっきりと静かである。“300h”という車名はもちろん、自然吸気エンジン3リッター級の動力性能……という意味。ただし、電気動力特有の低速からグイッと効くキック力のおかげもあって、体感的な速さは250と350の中間地点よりも、ハッキリと350寄り。
車重はクラウンやレクサスIS300hよりおおよそ100kg重いのだが、動力不足はまったく感じない。トータルの動力性能は車名のとおり、ベンツ、ビーエムの「E300」や「528i」のプラスアルファ……といった印象。つまり「必要最低限よりちょっと余裕あり」という、ちょうどいいものである。今回は市街地メインの試乗だったこともあるが、動力性能は予想外に活発である。
進化を感じる身のこなし
ただし、パワートレイン以外の、シャシー関連その他の技術や装備内容は、GS350というよりGS250に近い。リアルタイム可変ダンパーのAVSは、今回の「バージョンL」を含めた上級グレードにのみ標準で備わるもので、最も走りを意識したグレードである「Fスポーツ」でも、後輪操舵(そうだ)の「LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)」の設定はない。
今回の一部改良でGS全体に施された改良点の詳細を取材するチャンスはなかったのだが、この取材車の乗り心地は、私の記憶にある初期のGSより少し改善された気がする。まあ、重量配分その他が異なるので断言はできないが、“GS全体”にもそれなりの熟成の手が入っている可能性は高い。
走りはひとことで言って予想以上に軽快である。同じGSの純エンジンモデル(350や250)との比較でも、GS300hの車重は100kg弱重いのだが、前軸荷重は純エンジンのV6と同等で、ウェイト増加分はほぼすべて後軸荷重に集中している。これによって前後重量配分はかぎりなく50:50に近づいており、ターンインでのノーズ反応に重ったるさはまったくなく、それでいて回頭バランスがいい。そうした素直な身のこなしは、市街地での速度域でもけっこう明確に感じ取れる。
動力用のニッケル水素バッテリーは、兄貴分のGS450h同様に後席背後に搭載される。ちなみに、IS300hはニッケル水素をトランク床下に配する低重心構造で、このあたりは設計の新しいISに分がある感はある。
ただ、GSとハイブリッドシステムの組み合わせもすでに2世代目で、しかもディメンションに余裕があるだけに、下りタイトコーナーに果敢に突っ込んでも、かつてのようにテールがふらつくような不安定感は払拭(ふっしょく)されている。
“味付け”が面白い
GSといえば、各部の制御をダイヤルひとつで統合的に変化させる走行モード切り替えシステムを初めて本格導入したレクサスでもある。GS300hのセンターコンソールにも、ECO(エコ)、NORMAL(ノーマル)、SPORT S(スポーツS)、SPORT S+(スポーツSプラス)……と4つのモードに切り替えられるダイヤルが備わり、今回のバージョンLの場合は、モードに応じてパワートレイン、可変ダンパー、パワステなどの制御が変わる。
これまでのGSのモード切り替えは、良くも悪くも生真面目で、それぞれのチューニングでもきちんとバランスさせた結果、「どのモードを選んでもあまり代わり映えしない」といった、なんとも痛しかゆしの仕上がりだったことは否定できない。このあたりはBMWやアウディなどのドイツ勢のほうが割り切った印象で、モードによっては明らかにバランスを崩していても濃厚な味つけになっており、ギミックとしては分かりやすい。
GS300hバージョンLのモード切り替えは、パワートレインがより違いを表現しやすいハイブリッドということもあり、ギミックとしての分かりやすさや面白さは確実に上がっている。またパワートレインだけでなく、シャシー関連の変化の幅も、これまでより大きい感じ。
エコやノーマルモードだと、GS300hは19インチのタイヤをなかなかうまく履きこなしており、低偏平タイヤとは思えない優れた乗り心地と直進性を見せる。そしてスポーツS、スポーツSプラスと切り替えるほどに、パワステは見る見る重くなって、身のこなしは路面にガチッと吸いつく“水平基調”になっていく。
上級モデルに肉薄
スポーツSプラスにすると、パワステはスティックしたかのように“激重”になり、ステアリングレスポンスはスポーツカーはだし。また、ここまでフットワークが引き締まると、いよいよ前後重量バランスの良さがハッキリと味わえるようになる。ただ、パワステだけは、スポーツSプラスだと「細腕の女性だと回せないのでは?」と思えるほど重く、やりすぎ感ありだが、これまでよりは分かりやすい。このセッティングは“確信犯”だろう。
GS300hは前記の動力性能だけでなく、価格も250と350の中間ではなく、どちらかというと350寄り。GS350の15万~35万円安という設定だ。JC08モードの燃費値はもちろんGS300hが最も優秀だが、燃料もレギュラー指定になるので経済的なメリットはさらに大きい。
クラウンやISの売れ行きを見ても、GSでもこの300hが売れ筋になりそうだが、価格帯を考えると、最も大きな影響を受けるのは350だろう。
ただ、GSのなかで最もエンスーな乗り味なのは350である。特に3.5リッターV6の軽快かつドラマテックな味わいはなかなかのもの。個人的には300hは十二分に魅力的な商品だが、これによってGS350が押し出されて廃止……なんてことにはならないように願いたい。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
レクサスGS300h“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4850×1840×1455mm
ホイールベース:2850mm
車重:1770kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:178ps(131kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:22.5kgm(221Nm)/4200-4800rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:30.6kgm(300Nm)
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)235/40R19 92Y(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:21.4km/リッター(JC08モード)
価格:670万円/テスト車=778万3600円
オプション装備:235/40R19 92Y&19×8J“バージョンL”アルミホイール(3万1500円)/プリクラッシュセーフティーシステム+レーダークルーズコントロール+ナイトビュー+ヘッドアップディスプレイ+ブラインドスポットモニター(65万1000円)/クリアランスソナー(5万2500円)/ステアリングヒーター(1万500円)/“マークレビンソン“プレミアムサラウンドサウンドシステム(28万350円)/パワートランクリッド(5万7750円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:940km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:452.3km
使用燃料:35.0リッター
参考燃費:12.9km/リッター(満タン法)/14.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。