レクサスGS200t“Fスポーツ”(FR/8AT)
勝者のスポーツセダン 2016.12.22 試乗記 レクサスのミッドサイズセダン「GS」に、高出力と優れた燃費性能の両立をうたう2リッター直4ターボ搭載モデルが登場。その走りや乗り心地はどのようなものなのか、スポーティーグレードの“Fスポーツ”を駆って確かめた。第一印象から華やか
レクサスのグランドツーリングセダン「GS200t“Fスポーツ”」が何に似ているかというと、筆者の知る限り、「トヨタ・クラウン アスリート」なのだった。
さくら、それを言っちゃぁ、おしめえだよ。おしまいもなにも、おにいちゃん、2850mmのホイールベースが同じで、前ダブルウィッシュボーン、後ろマルチリンクのサスペンションの形式も同じで、8段ATのギアリングも寸分たがわない。そんなこと世間さまはとっくに承知よ。
ま、そんなワケで、新たに2リッター4気筒直噴ターボのD-4STを搭載したGSの印象を以下に記す。試乗車は、内外装にスポーティーなコスメティックを施し、スポーツサスペンションを与えた“Fスポーツ”である。鮮やかな「レッドマイカクリスタルシャイン」なるボディー色は、大仰なスピンドルグリルとよく似合っていて、華やかなスターのムードを醸し出している。
スポーティーかつ豪華なシートに座り、ダッシュボードの丸いスターターボタンを押すと、例によって「♪たららららん」というレクサス共通の、どこかのんびりした電子音がどこかから聞こえてくる。「♪たららららん」という電子音を聞くと、不思議と癒やされるような心持ちになる。「♪ちゃぁ~ん、チャララララン~」という哀愁を帯びた音楽が流れると、いよっ、寅さん! と声に出したくなるのと同じだ。音楽というのは誠にすごい。「今日は◯月×日△曜日……」と、朝一には人工音声が日にちも教えてくれる。親切なことこの上ない。シートにもステアリングにも付いているヒーターは、冬の寒い時期にはありがたい装備だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
スポーティーなのに快適
外装の迫力を決定づけているのがタイヤ&ホイールである。ノーマルが18インチであるのに対して、1サイズ大きな19インチ、前235/40、後ろ265/35という前後異形サイズを履いている。その分、走りだしたときの第一印象はコツコツ感があって、あまりよろしくない。
ところが、一晩置いて翌早朝、清冽(せいれつ)な空気の中ですいた郊外の道を走りだすと、意外と快適である。都内の速度ではピンとこなかったけれど、のびのび走らせると、少々荒れた路面を苦もなく通過していく。電子制御の可変ダンピング、NAVI・AI-AVS(Adaptive Variable Suspension system)は大きな入力に対してせっせと仕事をしているらしい。小さなジャブはあえて受け止めるものの、強烈なパンチはボディーワークで避けてみせる。そんなテクニックを持っている。
首都高速の目地段差もしなやかに通過し、さほどショックを伝えない。路面のいい高速道路ともなれば、得意分野で、スポーツサスペンションといっても安心してください。硬くないです。
山梨・河口湖周辺のちょっとしたワインディングロードで試してみたところ、実によく曲がる。より上級モデルの後輪ステアが付いているのか、とカタログを確認したほどに。おそらく4気筒の搭載で鼻先が軽い。車検証からわかる前後重量配分は53:47ほどで、ステアリングのギア比もクイック。大技、小技の組み合わせで、ボディーの大きさを感じさせない。
テスト車には今回の小改良の目玉のひとつであるトルセンLSD(4万3200円のオプション)が付いていた。
けれども、じつのところ、その効果についてはよくわからなかった。とはいえ、“Fスポーツ”をあえて選ぶタイプのユーザーであれば、付けておくのが賢明……と愚考する。車両価格の1%以下なのだし。
親切や気配りまで感じられる
21世紀の科学により、このクラスで2リッター4気筒ターボはもはやスタンダードである。GS200tの場合も車重1690kgに、最高出力245ps/5800rpm、最大トルク35.7kgm/1650-4400rpmのD-4STユニットは十分スポーティーなレベルの動力性能を実現している。大排気量の暴力的な速さではない。理にかなった範囲の速さと申しましょうか。
8段オートマチックの貢献も大きい。ただし、「8-Speed SPDS(Sport Direct Shift)」とSPDSの4文字が後ろにくっついた進化版で、「Mポジション時に最短0.2秒で変速」し、「MT車のように本格的なスポーツドライビングを楽しむことができる」とカタログにはあるけれど、速さよりもスムーズさが持ち味で、例えばパドルシフトでのダウンシフト時にブリッピングするぐらいの演出が欲しい、と筆者なんぞは思った。
例によって「ドライブモードセレクト」なるデバイスが付いており、エコ→ノーマル→スポーツと走行モードを切り替えることができる。スポーツモードはスポーツ、スポーツS、スポーツS+の3種類に分かれており、センターコンソールのダイヤルをスポーツにするとメーターの照明が赤に変わって、ギアがダウンシフト、エンジンの回転がぴゅんと跳ね上がる。もちろん乗り心地もいっそう硬くなる。
とはいえ、ガチガチではない。あくまで洗練されたスポーティヴネス、というのがGS200t“Fスポーツ”の狙うところであるように思われる。動力性能がスポーツモデルとしては控えめなこともあり、筆者にとって印象的だったのは「スポーティー」ということよりも、「親切」「気配り」だった。
例えば信号待ちの停止時にブレーキを軽く踏んでいると、「ブレーキをもう少し踏み込んでください」とクルマがいきなり話しかけてくる。言われるままにブレーキペダルをグイッと踏み込むと、アイドリングしていたエンジンがストップした。ドライバーにエコを促す健全なアスリート。というのがレクサス“Fスポーツ”の理想像なのだ、たぶん。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
価格に見合った品格
もし筆者が海外に住んでいたりするようなことがあれば、ニッポン男児としてこのクルマに乗ることはわが身の誉れであると考えるかもしれない。事実上同じ中身のクラウン アスリートの2リッター4気筒ターボ+8段ATモデルは396万3600円からで、GS200tは577万円からである。カタログ上、クラウンの200tはGSより10ps低い最高出力235psに抑えられているという数値上の違いはあるものの、基本的にはスーパーと百貨店、トヨタとレクサスの違いがここにはあるわけである。では、あらためて賢い消費者としてはどちらを選ぶべきか。 あなたはクラウン派ですか、GS派ですか?
答えになるかならぬか、某日、筆者は江戸川べりの関宿城というちょっとした観光スポットに行ったおり、そこの駐車場にR32型「日産スカイラインGT-R」の限定500台の「GT-R NISMO」が止まっているのを見た。リアワイパーがないから、おそらく本物だ。昼メシを食べようと思って、その公園の下の茶屋に行くと、こちらの駐車場にはスピンドルグリルのレクサスGSの姿があった。
で、お店を出るとき、たまたま偶然、この2台が駐車場から出て行くところを別々のポイントで見かけた。R32 GT-Rに乗り続けている年配のご夫婦もかっこいいけれど、レクサスGSに乗る年配のご夫婦というのも、モダンでかっこいいな、と私は思った。
GS200t“Fスポーツ”の車両価格は659万9000円。28万8360円のマークレビンソンをはじめ、オプションだけで67万9320円である。人生に成功した人が手に入れる高級車である。「Eクラス」でも「5シリーズ」でもないところはもちろん、同じレクサスでも「LS」や「IS」、「RX」や「NX」でもないところが実にシブい。テスト時の燃費は車載コンピューターで8.1㎞/リッターと理性的な結果となった。V6ではない、4気筒の200tの存在理由がここにある。
レクサスGSは人生の勝利者のセダンである。燃費がリッター1㎞よかろうと、大きな違いではない、というエモーション重視の考え方もある。一番重要なことは、人生の勝利者のセダンである、という雰囲気がこの4気筒モデルにもちゃんとあるということなのだ。
(文=今尾直樹/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也/取材協力=河口湖ステラシアター)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
レクサスGS200t“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4850×1840×1455mm
ホイールベース:2850mm
車重:1690kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245ps(180kW)/5800rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1650-4400rpm
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)265/35R19 94Y(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:659万9000円/テスト車=727万8320円
オプション装備:トルセンLSD(4万3200円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/ブラインドスポットモニター(5万4000円)/後席SRSサイドエアバッグ(2万1600円)/三眼フルLEDヘッドランプ<ロー・ハイビーム>&LEDフロントターンシグナルランプ+アダプティブハイビームシステム<AHS>+ヘッドランプクリーナー(8万8560円)/カラーヘッドアップディスプレイ(8万6400円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(28万8360円)/パワートランクリッド(5万4000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1005km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:324.5km
使用燃料:36.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.9km/リッター(満タン法)/8.1km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。