ランドローバー・レンジローバー イヴォーク(4WD/9AT)
「盤石」のさらに上へ 2013.11.28 試乗記 新開発のZF製9段ATを搭載した「レンジローバー イヴォーク」2014年モデルに試乗。最新のトランスミッションがもたらした進化に触れた。ランドローバーブランドのけん引役
現在、ランドローバーブランドの業績は絶好調……というよりも、過去最高を年ごとに塗り替えている。ちなみに12年度の販売台数は対前年比36%増。この分母に対して、2013年度の販売台数も2桁%増がほぼ確実……と、その勢いはとどまる気配がない。
その背景には新興国でのSUVニーズの拡大もあるが、なにより大きな影響を及ぼしているのが「レンジローバー イヴォーク」の大ヒットだ。ここ日本でもその人気が強力な後押しとなり、ジャガー・ランドローバー・ジャパンの12年度販売実績は対前年比で実に77%と飛躍的な増加を達成した。
そのイヴォークは、14年モデルで初の仕様変更が施される。といっても、大人気の主因であろうエクステリアデザインにはほとんど変更はない。あるいはフォードのエコブーストテクノロジーをベースとした、2リッター直噴4気筒ターボエンジンも従来通りのスペックとなっている。
ガラリと変更されたのはドライブトレインだ。6段ATに代わり、ZF社の最新モデルとなる9段AT「9HP」を世界で初めて搭載、加えて、9HPの付加機能となる4WDのトルクオンデマンドシステム「ECOnnect」を併用し、環境性能の向上を図っている。さらに後軸側には電子制御デファレンシャルを採用、ブレーキ制御を併用するアクティブなトルクベクタリング機能も搭載された。これらの作動状況はセンタークラスターの液晶モニターによって確認することができる。
ちなみにZF側の発表では、従来の6段ATに対して9段ATでは最大16%の燃費向上効果があるという。加えて、低負荷時はFFでの走行を可能とするECOnnectは、フルタイム4WDに対して最大5%の燃費向上効果が見込めるという見解だ。実車の搭載では単純に合わせて21%というわけにはいかないわけだが、イヴォークに実装されての日本仕様の燃費はJC08モードでこれまでの9.0km/リッターから14年モデルでは10.6km/リッター……と、実に19%近い改善効果がみられる。
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違和感のないドライバビリティー
その14年モデルに乗ってまず気づくのは、洗練された乗り心地。中低速域ではサスペンションの動きも繊細で、小さなアンジュレーションや細かな入力の続く石畳(いしだたみ)路でもクルマの動きがしっとりしていることが伝わってくる。足まわりに仕様変更はないというから、これはサプライヤーの納入品質やアッセンブリー時の生産精度の向上が効いているのだろう。いわゆる「こなれる」というレベルの話だが、こんなところもイヴォークのヒットがもたらした功(こう)ということだろう。
最大の変化となる9段ATは、段数があがるほどにステップ比が狭まっていく、つまりクロスレシオに振られていて、トップとなる9速でもオーバードライブ感は皆無。一方で、普通のアクセル開度で操る限り、必要以上にそのメカニズムを意識することはない。軽く踏み込んでのキックダウンも、従来が1速落ちだったところが2速落ちになったくらい……と、そのくらい滑らかな変速制御を実現しているし、逆にいえば従来の6段ATでも十分に上質なドライバビリティーを実現できてもいた。
が、用途や速度とギア段数の関係をみると、それが従来とは大きく異なるワイドレシオで組まれていることがわかる。例えば中~高速域の走行状況をみてみると、70km/h程度ではトップギアを用いるまでもなく、そこから9速へとつながって100km/h巡航での回転数は1550rpm付近……と、2リッターエンジンとしては捕まえている回転数が常に異様なまでに低い。これが低燃費の根本になっていることはいうまでもなく、試乗地であるスイスの高速道路法規に合わせて、クルーズコントロールで速度調整しながらの100~120km/h巡航では、平均速度116km/hで約12.5km/リッターという数値を示した。従来型の既納オーナーに聞くと、その領域での燃費は10km/リッターあまりというから、ロングツーリングでは身とお財布をもって9段ATの恩恵を知ることができるだろう。
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目的は燃費だけにあらず
更にイヴォークでは、そのワイドレシオぶりを「ならでは」な場面でも体感できる。1速でカバーする速度域は0~40km/h程度とこちらも異例なほどのローギアード。これが副変速機を持たない4WDとしてはローレンジに近いユーティリティーをもたらしてくれるわけだ。試乗では雨の中、最大37度という急勾配を下る場面もあったが、ヒルディセントコントロールの作動も含めて確実なトラクションを得ることができた。この辺りもまた、ランドローバーがいち早くこのドライブトレインを採用したひとつの理由だろう。
ベクタリング制御によって旋回性を高めたオンロードでのドライバビリティーも含め、リアルワールドでの魅力を大きく広げてきた新しいイヴォーク。世界的な支持はここしばらく、揺らぐことはなさそうだ。
(文=渡辺敏史/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1900×1605mm
ホイールベース:2660mm
車重:1640kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)
最大トルク:34.7kgm(340Nm)
タイヤ:(前)205/55R17/(後)205/55R17
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は本国仕様車のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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