ポルシェ918スパイダー(4WD/7AT)
スーパースポーツの新たな定義 2013.12.13 試乗記 燃費は3リッター/100km(約33km/リッター)、CO2排出量は70g/kmと、コンパクトカーをもしのぐ環境性能を備えながら、0-100km/hをわずか2.6秒で駆けぬける新時代のスーパースポーツカー「ポルシェ918スパイダー」。そのステアリングを握る日がいよいよやってきた。舞台はスペインのバレンシアサーキット。887psを路面にたたきつける!電気とカーボンの武者
深夜便で羽田をたち、2回の乗り継ぎを経てほぼ24時間をかけてスペインはバレンシアまで来たというのに、天気は朝から大雨。サーキットに着く頃には雨こそ上がっていたものの、ミシュラン・パイロットスポーツ・カップはウエットでのスポーツ走行向きとはいえず、路面が乾くまで出番を待たされることになってしまった。
待つこと約5時間。午後になって日が差しはじめたコースに、いよいよ出撃の時が来た。今回の目的は、「ポルシェ918スパイダー」のテストドライブである。
ニュルブルクリンク北コースでの6分58秒という驚異的なラップタイムが目をひく918スパイダーだが、目的は速さだけではなく、今後の量産車に使用する技術のテストベッドとしての役割も大きい。つまり、かつての「959」や「カレラGT」などと同様の大義を背負って開発されたと言うことができるだろう。
実際、その内容は極めて革新的だ。ボディーは軽量・高剛性のCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)製。パワートレインは最高出力608psを発生するV型8気筒4.6リッターユニットに、156psを発生する電気モーターで後輪を駆動し、さらに前輪駆動用に129psのモーターをも備える。システム最高出力は、実に887psだ。リチウムイオンバッテリーの容量は6.8kWhで、外部電源による充電が可能なプラグインハイブリッドとなっており、0-100km/hを2.6秒で加速する動力性能の一方で、100km走行に必要な燃料はわずか3.1リッターという驚異的な燃費をも両立させているのだ。
レーシーな3連メーターを備える一方、センターパネルはタッチスクリーンとされたサイバーな印象の室内に乗り込み、ポルシェの流儀でステアリングコラム左側に置かれるキーをひねる。しかしエンジンはすぐには目覚めず、眼前のメーターには「E-POWER」そして「READY」の文字が表示される。走行モードはステアリングスイッチで変更可能だが、まずはこの電気走行モードのまま発進する。
アクセルペダルを思い切り踏み込む。すると918スパイダーはエンジンの唸(うな)りを発生させることなく、しかしまさに蹴飛ばされるような勢いで飛び出し、瞬く間に150km/hの高みまで加速していったのだった。この一瞬で、もはや心はわしづかみである。
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限界知らずの加速感
音もなく加速する、わけではない。モーターやインバーターのヒューン、クゥーンという音に、跳ね石などがCFRPにバチバチと当たる音が響き渡り、室内はむしろうるさい。ハイブリッドモードに切り替えて加速を続けると、そこにさらにV8エンジンの咆哮(ほうこう)まで加わる。いきなりすべてをかき消すような爆音、そして振動には「来た!」と反射的に気分が盛り上がる。ギャップすら演出になっている。
冷静になって考えると、モーターだけで走っていてもエンジンがかかっても、加速そのものに変化はないと気付く。始動とともに急加速したり、ブレーキがかかったりすることはない。アクセルを緩めるとエンジンが停止し、再び室内は電気系のノイズと跳ね石の音に支配されるようになるが、それにショックは伴わないのだ。
ブレーキも似たことがいえる。実は回生だけでも減速Gは0.5Gに達し、しかもそのタッチはまさにポルシェのそれ。さらに強いブレーキングでも、あるいは緩くても、途中でバッテリーが満たされて回生が制限されても、利き具合や踏み応えに変化はない。この辺り、さすがポルシェである。
スポーツモードに切り替えるとエンジンが常時掛かるようになる。レースモードではモーターのアシストも含めてさらにパワー重視に。加速は凄(すさ)まじいが、車体が軽いこと、PDKの変速が極めてスムーズなこともあってか荒々しさはない。立ち上がりのトルク感は、おそらくはモーターの力によって非常に頼もしく、そのまま引っ張っていけば、今度はエンジンパワーが、上方排気の採用で、より耳に近いところで鳴る爆音とともに一気に盛り上がっていき、9000rpmオーバーまで到達。吸い込まれるような、限界などなさそうな勢いで突き進んでいく。
タイムを狙うなら、充電された電気がすべて遠慮なしに使われるホットラップモードへ。しかし、レースモードでも速さは十二分で、正直言って数周のうちでは違いはほとんど体感できなかった。
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対話可能な887ps
事前に気掛かりだったのは、このエンジンとモーターが組み合わさっての加速をどれだけの間、楽しめるのかということだった。バッテリーが空に近づいたら失速してしまうのか? などと危惧していたのだが、そんな心配は杞憂(きゆう)に終わった。918スパイダー、回生を中心とする充電効率が素晴らしいのだ。
実際、例のニュルブルクリンクでのタイムアタックの際には、95%の充電でスタートしてゴール時には17%の電気が残っていたという。単純に78%使ったという話ではない。実際には140%相当のエネルギーを使っていたというのだ。要するに電気をたくさん使っても、すぐに取り戻して、また使えるということ。確かに最後、指示に従ってハイブリッドモードでエンジン回転を一定に保って1周のクーリングラップを行うと、バッテリー残量はほぼフルまで戻っていた。
ハンドリングについては、乾いたとはいえまだ路面の温度は低く、限界を垣間見ることができたとは言い難いが、車体の軽さと剛性のおかげで挙動がつかみやすく、クルマが小さく感じられたのは印象的だった。思い切って踏んでいくとリアがじりじりと外に膨らみ始める気配がするが、同時にモーター駆動の前輪が引っ張り出すおかげで、結局は危なげなく、しかし大胆に立ち上がることができる。走らせるごとに自信が増して、887psが物足りなく感じた……とまでは言わないが、臆(おく)することなく踏み込んで楽しんでしまった。9600万円もするクルマだということを忘れて……。
時間が押したこともあり、この日、全長約4kmのこのコースを走れたのはたったの6周。要するに24時間かけて行き、24km乗っただけにすぎない。しかし、その瞬間瞬間は至極充実していて、すべてのラップを思い出せそうなほどだ。まさに、極上の体験をすることができたのである。
この918スパイダーの日本への割り当て分はすでに完売。願わくばオーナー諸氏には、すぐにガレージにしまい込まず、一度は思い切り、そのパフォーマンスを引き出してほしい。最新のハードウエアが醸し出す未来的な感覚と、古き佳(よ)きスポーツカー特有のアドレナリンが交錯した走りの世界は、このクルマでしか味わえないもの。楽しまなくちゃもったいない。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ)
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テスト車のデータ
ポルシェ918スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4643×1940×1167mm
ホイールベース:2730mm
車重:1674kg(標準仕様)、1634kg(ヴァイザッハパッケージ装着車) ※いずれもドイツ工業規格(DIN)値。
駆動方式:4WD
エンジン:4.6リッターV8 DOHC 32バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:608ps(447kW)/8700rpm
エンジン最大トルク:55.1kgm(540Nm)/6700rpm
フロントモーター最高出力:129ps(95kW)
フロントモーター最大トルク:21.4kgm(210Nm)/0-3500rpm
リアモーター最高出力:156ps(115kW)
リアモーター最大トルク:38.2kgm(375Nm)/0-2000rpm
システム最高出力:887ps
システム最大トルク:93.5-130.5kgm(917-1280Nm)
タイヤ:(前)265/35ZR20/(後)325/30ZR21
燃費:3.1リッター/100km(約32.3km/リッター)(標準仕様)、3.0リッター/100km(約33.3km/リッター)(ヴァイザッハパッケージ装着車) ※いずれも新欧州ドライビングサイクル(NEDC)の総合燃費値。
価格:68万4800ユーロ(標準仕様)、74万7800ユーロ(ヴァイザッハパッケージ装着車) ※日本市場での価格。5%消費税込み。価格はユーロ建てのみ。税率変更で上記価格は変更される予定。
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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