第326回:ジウジアーロの新トリビア! パスタ第2弾&映画にも出演!?
2013.12.13 マッキナ あらモーダ!ついにアウディからディレクター?
ドイツの複数の自動車専門メディアがこのほど伝えたところによると、現アウディのチーフデザイナー、ヴォルフガング・エッガー氏が、フォルクスワーゲン(以下、VW) グループ傘下にあるイタルデザイン-ジウジア-ロのデザイン部長に就任する予定であるという。
エッガー氏は1963年ドイツ生まれ。ミラノで工業デザインを学んだあと、フィアットに入社。アルファ・ロメオ部門に配属された。一時期VWグループのスペイン法人セアトに籍を置いたが、後年フィアットグループに復帰。ランチアに次いで再びアルファ・ロメオを担当した。当時スーパースポーツカー「8Cコンペティツィオーネ」(2006年)を手がけている。
しかし2007年VWグループに移籍し、アウディおよびランボルギーニのデザイン責任者となった。主な仕事に「A6セダン」や「A3」がある。
VWグループは2010年春、イタルデザイン-ジウジアーロ株の90.1%を取得し、傘下に収めた。VWグループデザインを統括するワルター・デ・シルヴァ氏が筆者に語ったところによれば「欧州、米国など世界的に展開するデザイン体制の一拠点として、今後は機能してゆく」という。
今回の報道に関して、目下アウディはコメントを控えている。
だが、もしエッガー氏の移籍が実現すれば、1968年以来続くイタルデザイン-ジウジアーロの歴史で初めて外部からのデザイン責任者を迎えることになり、VWグループデザインによる影響力がさらに高い段階へと達するとみられる。
歴史的パスタメーカーとのコラボレーション
今週は、そのイタルデザイン-ジウジアーロにちなんだ話を少々。それも、近年の知られざるジウジアーロに関するトピックだ。
同社会長のジョルジェット・ジウジアーロ氏は1981年に、自動車以外のプロダクトおよび輸送機器デザインを担当する「ジウジアーロ・デザイン」を設立。
ニコンのカメラ、セイコーのリストウオッチからイタリアの標準型家庭用電話、ミネラルウオーターやモデナのバルサミコ酢ボトルまで、あらゆるアイテムのデザインを手がけてきたことが知られている。
そうした彼の才能を表す好例として採り上げられるもののひとつに、パスタがある。そう、イタリア人の主食である。
彼がデザインしたパスタ第1号「マリッレ」は1983年にヴォイエッロ社から発売された。ヴォイエッロは、世界一のパスタメーカー「バリッラ」の傘下ブランドで、ブロンズの押し出し型を使うことで、そのザラザラ感による独特の舌ざわりを売り物にしている。
ジウジアーロは、ギリシア文字の「ベータ」もしくは波の形に似たパスタをデザインした。それはソースの絡み、ゆであがったときのしっかり感、そして連続生産のしやすさを高い次元で実現していた。
ジョルジェット・ジウジアーロ氏は、当時をこう振り返る。
「1983年にパスタのデザインの依頼が舞い込んだとき、その仕事に私は興奮し、魅了されたものでした。私にはブロンズ型で作る“技術部品”が求められたのです。皿の上にわずかなボリュームでも特徴がある、つまり視覚的に魅せることが重要でした。そうしたフードデザインは今日、流行となっていますね」
そして彼は、こうも回想する。
「当時の『ニューズウィーク』誌は、私のクルマではなく、そのパスタを採り上げたものでした」
その後、マリッレは絶版となったが、今年6月、イタルデザイン-ジウジアーロの従業員向けイベントで、新作パスタが配られた。
「最初のパスタプロジェクトから30年、そして45年にわたる従業員たちとの仕事を記念して、私はもう一度検討し直し、よりアップデートした2作目に挑戦することにしました」ジョルジェット氏自身はこう紹介している。
新作は「グスト」(GUSTO:味覚もしくは審美眼)と名付けられ、そのロゴの「G」は、今日のイタルデザイン-ジウジアーロのロゴマークと同じである。今回のシェイプは、無限大を示す記号、アンフィニを表した。
実際に製作にあたったのは、1895年に歴史をさかのぼるナポリのアフェルトラ社だ。ヴォイエッロ同様ブロンズ型を用いているが、ヴェイエッロ以上に手工業時代の雰囲気が残るメーカーである。
グストは関係者を中心に配られた。実際ゆでて食べてみると、かつてのヴォイエッロ同様、他のパスタでは味わえない不思議な弾力がある。かつ、ヴォイエッロのときよりも、部分によるゆでムラが少ない。
映画『カーズ2』にも出演!?
さらにカルトなジウジアーロの話題をひとつ。2011年に公開されたディズニー/ピクサーによる長編アニメ映画『カーズ2』だ。クルマを擬人化したキャラクターで大ヒットした『カーズ』の続編である。なぜそれが関係あるのかというと、ジウジアーロがデザインしたクルマ(?)が出演しているのだ。イタリアのポルト・コルサと称する町のシーンで登場する、超リッチマンを擬人化したスーパースポーツカーがそれで、マセラティのボディーガード2台をしたがえている。
そのクルマとは、イタルデザイン-ジウジアーロが2009年ジュネーブショーで発表した「フレイザー・ナッシュ ナミール コンセプト」を模したものだ。そして、キャラクター名は何を隠そう「ファブリツィオ」。副社長としてナミールの開発も指揮した、ジョルジェット氏の長男にちなんだものである。
ちなみに写真のように、登場車をかたどった市販モデルカーまで製作されているのは、ご愛嬌(あいきょう)だ。
話はかわるが、レオナルド・ダ・ヴィンチを庇護(ひご)したフィレンツェのメディチ家しかり、リヒャルト・ワーグナーを支えたバイエルン国王ルートヴィヒ2世しかり、欧州の貴族は、公私ともに創作に情熱を傾ける人間を支え続けた。今や欧州各地で圧倒的な力を誇るVWグループは、業務面だけでなく、ジウジアーロが45年にわたって育んだユーモアに満ちたアンビエンテ(風土)も支え続けてほしい。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=ITALDESIGN-GIUGIARO)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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