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ジープ・グランドチェロキー ラレード(4WD/8AT)

アメリカとヨーロッパのいいとこ取り 2014.01.06 試乗記 鈴木 真人 マイナーチェンジにより、ZF製の8段ATが搭載された「グランドチェロキー」に試乗。クライスラー、ダイムラー、フィアットと、3人の「親」を持つ合従連衡の申し子は、どんなクルマに成長したのか?
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タッチスクリーンはマセラティと一緒

ドイツ人パパ(ダイムラー)とアメリカ人ママ(クライスラー)の間に、赤ちゃんができた。「グランドチェロキー」と名付けられたこの赤ちゃんが生まれた時、両親はすでにそれぞれ別の道を歩んでいたのだった。赤ちゃんを引き取ったアメリカ人ママは、今度はイタリア人男性(フィアット)と恋に落ちる。
前夫とはまったくキャラの違うイタリア男とうまくやれるのか周囲はやきもきしたけれど、意外と仲良くやっているようで、3歳になったグランドチェロキーも、すくすくと育っている。新しいパパが、赤ちゃんの面倒もよく見てくれるからだ。

1998年から2007年まで続いたダイムラークライスラーの時代には、「クライスラー300C」と「メルセデス・ベンツEクラス」が部品を共用するなど、死が2人を分かつまで愛し慈しむことを誓っていた。
その頃に同じように開発が進んでいたのが、4代目グランドチェロキーとメルセデス・ベンツの3代目「Mクラス」。グランドチェロキーが2010年、メルセデスのMクラスが2011年のデビューだから、グラチェロのほうが数カ月早くこの世に生を受けたお兄さん、ということになる。
時系列がばらばらになってしまいましたが、2009年にクライスラーとフィアットの提携交渉がまとまっている。

といった少し複雑な背景を持つグランドチェロキーがデビューから3年を経てマイナーチェンジを受けた。乗ってみての印象をお伝えする前に、変更を受けたポイントからお伝えしておきたい。

外観では、ヘッドランプがきゅっとスリムになって目つきが鋭くなったことと、立派なリアスポイラーを備えるようになったのが最大の変更点。インテリアを見ると、空調やエアコンを操作するための8.4インチタッチスクリーンを備えるようになり、メーター類がアナログ式から液晶ディスプレイに変わった。どちらの変化も、イマっぽさの演出に一役買っている。
ちなみにタッチして操作する8.4インチのスクリーン、どこかで見たなぁと思ったら、マセラティの新型「クワトロポルテ」に使われているものと同じだった。グラチェロくんは、新しいイタリア人パパとうまくやっているのだ。

現行型「グランドチェロキー」のマイナーチェンジモデルは、2013年11月に日本で販売が開始された。外観では新デザインの前後ランプや大型のリアスポイラー、新デザインのテールゲートなどが特徴。
現行型「グランドチェロキー」のマイナーチェンジモデルは、2013年11月に日本で販売が開始された。外観では新デザインの前後ランプや大型のリアスポイラー、新デザインのテールゲートなどが特徴。
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インテリアでは、タッチスクリーン式の操作インターフェイスの採用にともなってセンターコンソールまわりのデザインを変更したほか、新たにデジタルメーターを採用した。
インテリアでは、タッチスクリーン式の操作インターフェイスの採用にともなってセンターコンソールまわりのデザインを変更したほか、新たにデジタルメーターを採用した。
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シート表皮は「ラレード」ではファブリック、その他のグレードではレザーを採用。なお、同じレザーシートでも「リミテッド」と「サミット」では素材が異なる。


    シート表皮は「ラレード」ではファブリック、その他のグレードではレザーを採用。なお、同じレザーシートでも「リミテッド」と「サミット」では素材が異なる。
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今回のマイナーチェンジではメーターも一新。中央部は7インチディスプレイとなっており、速度計の内側には4WDシステムやクルーズコントロールの作動状況、燃費など、さまざまな情報を表示できる。
今回のマイナーチェンジではメーターも一新。中央部は7インチディスプレイとなっており、速度計の内側には4WDシステムやクルーズコントロールの作動状況、燃費など、さまざまな情報を表示できる。
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オーディオやハンズフリー通話などの機能を操作する「UCONNECT」のタッチスクリーン。8.4インチという大画面が特徴だが、今のところカーナビゲーション機能は備わっていない。
オーディオやハンズフリー通話などの機能を操作する「UCONNECT」のタッチスクリーン。8.4インチという大画面が特徴だが、今のところカーナビゲーション機能は備わっていない。
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秀逸な8段AT

グラチェロのグレードは4つ。3.6リッターV6エンジン搭載の「ラレード」、同じエンジンにレザーシートやエアサスペンションを組み合わせた「リミテッド」、5.7リッターV8エンジンを搭載した「サミット」、そして6.4リッターV8エンジンの「SRT8」で、V8搭載の2モデルはいずれもエアサスを装備する。今回試乗したのはV6エンジンに金属バネを組み合わせるベーシックグレードのラレードだ。
デザインの小変更が新しさを醸していると書いたけれど、乗ってみて「新しくなった!」と感じさせるのは、マイチェンを機に搭載されたZFの8段ATによるところが大きい。

発進から「す、す、す」とシームレスにシフトアップ、ボーッとしているといつ変速したか気付かないほど滑らかに加速する。アクセルペダルを踏み込めばどんぴしゃのタイミングでキックダウン、硬質な手触りの3.6リッターV6“ペンスター”エンジンがカン! と回転を上げて2トン超のボディーを軽々と引っ張る。ZF製8段ATといえばBMWでも感銘を受けたけれど、グラチェロの洗練度をぐっと引き上げた。
このトランスミッションによってV6モデルの燃費は8%向上したとのことで(V8モデルは5%)、実際に、200km以上の距離を極端なエコ運転をすることなく走った燃費は7.8km/リッター(車載燃費計の数値)。これだけの動力性能とサイズと重量を鑑みれば、立派な値だといえる。

インストゥルメントパネルの空調操作ダイヤルの下にある「eco ON」というスイッチを押すと、パワートレインの制御をさらに燃費向上方向に振るエコモードに入る。
「エコモード」では、ここで加速、という瞬間にややもっさりした印象になるのがタマにキズだけれど、高速巡航では気にならない。クルージングでは積極的にスイッチをオンにした。
グラチェロの面白いところは、昔ながらのアメ車のようにまーっすぐな道を鷹揚(おうよう)な気分で走るだけでなく、曲がった道でも楽しめるところだった。

「ラレード」には、走行状況に応じて車高を調整できるエアサスペンションは装備されていないが、それでも地上高は230mmを確保。タイヤのスリップを検知して、駆動力を自動配分する4WDシステム「クォドラトラックII」とも相まって、高い走破性を実現している。
「ラレード」には、走行状況に応じて車高を調整できるエアサスペンションは装備されていないが、それでも地上高は230mmを確保。タイヤのスリップを検知して、駆動力を自動配分する4WDシステム「クォドラトラックII」とも相まって、高い走破性を実現している。
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エンジンに関しては、従来モデルから大きな変更はなし。最高出力286psの3.6リッターV6と、352psの5.7リッターV8、468psの6.4リッターV8の3種類がラインナップされる。
エンジンに関しては、従来モデルから大きな変更はなし。最高出力286psの3.6リッターV6と、352psの5.7リッターV8、468psの6.4リッターV8の3種類がラインナップされる。
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ZF製8段ATのシフトセレクター。その後方に備えられているのは、路面状況に応じて5つの走行モードを選択できる「セレクテレインシステム」の操作ダイヤル。
ZF製8段ATのシフトセレクター。その後方に備えられているのは、路面状況に応じて5つの走行モードを選択できる「セレクテレインシステム」の操作ダイヤル。
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「エコモード」とは、トランスミッションのシフトタイミングを変更することで燃費効率を高めるシステム。エアサスペンション装着車では、空気抵抗を軽減するため、高速走行時に自動で車高を下げる機能も備えられている。
「エコモード」とは、トランスミッションのシフトタイミングを変更することで燃費効率を高めるシステム。エアサスペンション装着車では、空気抵抗を軽減するため、高速走行時に自動で車高を下げる機能も備えられている。
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ほかのタイヤも試してみたい

コーナーへの進入でステアリングホイールを切ると、一瞬の“タメ”の後ですっとコーナリングの体勢に入る。ピキッと曲がるスポーツカーの鋭さとは違うけれど、この一瞬の“タメ”が生き物っぽいというか、非常にナチュラルな印象を与える。
そして切り始めこそやわらかいと感じさせるけれど、そこから先は筋肉質の足まわりがしっかりと支えて、だらしなく傾いたりしない。「一瞬のタメ」→「自然にコーナーに進入」→「しっかりロールを抑える」という一連の動きは、ジャガーやレンジローバーといった英国車を思わせた。

トランスミッションも上出来だから、パドルシフトでシフトしながら気持ちよく回るエンジンの回転数をコントロールして中速コーナーの連続を駆ける、みたいな使い方をすると、しみじみとよくできていると感じる。

ひとつ気になったのは乗り心地だ。路面のいいところでは感じないけれど、首都高速のように荒れていたり継ぎ目があったりする道に入ると、途端にステアリングホイールとシートからザラザラという濁音が入ってくるようになる。
路面状況による乗り心地の差がかなり激しいのは誰のせいか、真っ先に疑ったのはタイヤである。銘柄は「KUMHO(クムホ)」で、サイズは265/60R18。正直なところ、この銘柄についてそれほど経験がないので断定的なことは言えないけれど、ぜひ別銘柄を試してみたい。クライスラーの広報車置き場の駐車場を偵察したところ、グラチェロの広報車両はすべてこのタイヤだった。

後席も荷室も広いし、乗り心地の疑問さえ解決されればクルマ全体が洗練されている。アメ車とヨーロッパ車の“いいとこ取り”をしている、というのが全体の印象だ。運命に翻弄(ほんろう)されたグラチェロであるけれど、逆境にめげずに、良き経験として生かしたようだ。
そういえば、グラチェロをベースに開発するマセラティ初のSUV「クーバン」の開発は着々と進行しているようだ。今度は、イタリアの血が入った弟ができることになる。物語は続く。

(文=サトータケシ/写真=向後一宏)

「グランドチェロキー」のサスペンションには、現行モデルから四輪独立懸架式を採用(従来モデルはリアが固定車軸式だった)。オンロードでの運動性能と乗り心地を改善した。
「グランドチェロキー」のサスペンションには、現行モデルから四輪独立懸架式を採用(従来モデルはリアが固定車軸式だった)。オンロードでの運動性能と乗り心地を改善した。
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「ラレード」のタイヤサイズは265/60R18。テスト車にはオールシーズンタイヤの「クムホ・ソルウスKL21」が装着されていた。
「ラレード」のタイヤサイズは265/60R18。テスト車にはオールシーズンタイヤの「クムホ・ソルウスKL21」が装着されていた。
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ステアリングホイールや左のヘッドランプの内部には、ジープの歴史を表す「SINCE 1941」の文字があしらわれていた。
ステアリングホイールや左のヘッドランプの内部には、ジープの歴史を表す「SINCE 1941」の文字があしらわれていた。
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1027リッター(SAE方式)という広さのラゲッジルームにはグローサリーフックや脱着式の収納ボックスなどを装備。収納ポケットに備えられた充電式フラッシュライトは、取り外して懐中電灯としても使うことができる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
1027リッター(SAE方式)という広さのラゲッジルームにはグローサリーフックや脱着式の収納ボックスなどを装備。収納ポケットに備えられた充電式フラッシュライトは、取り外して懐中電灯としても使うことができる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
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テスト車のデータ

ジープ・グランドチェロキー ラレード

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×1935×1825mm
ホイールベース:2915mm
車重:2160kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:286ps(210kW)/6350rpm
最大トルク:35.4kgm(347Nm)/4300rpm
タイヤ:(前)265/60R18 110H M+S/(後)265/60R18 110H M+S(クムホ・ソルウスKL21)
燃費:8.6km/リッター(JC08モード)
価格:427万3500円/テスト車=432万6000円
オプション装備:パールコート塗装(5万2500円)

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1621km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:249.0km
使用燃料:34.2リッター
参考燃費:7.3km/リッター(満タン法)/12.9リッター/100km(約7.8km/リッター、車載燃費計計測値)
 

ジープ・グランドチェロキー ラレード
ジープ・グランドチェロキー ラレード
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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