スズキ・ハスラー 開発者インタビュー
新種の軽カー 2013.12.24 試乗記 スズキ株式会社第一カーライン チーフエンジニア
沼澤正司(ぬまざわ まさし)さん
軽ワゴンの使い勝手にSUVの魅力をプラスした「スズキ・ハスラー」。軽クロスオーバーというユニークなクルマが誕生した経緯を、開発者に聞いた。
手応えを感じた東京モーターショー
軽ワゴンのユーティリティーの高さとSUVの機動力を兼ね備えたという、新型軽自動車「ハスラー」がスズキより発表された。「東京モーターショー2013」でも注目されていたから、すでにご覧になった方も多いかもしれない。
ニューモデルの発表にあたり、「軽クロスオーバー」という新ジャンルが生まれた理由や開発の経緯をうかがう機会を得た。ただしインタビューのタイミングの関係から、インタビュアーはハスラーに試乗していないことをお断りしておきたい。
質問に答えてくださったのは、チーフエンジニアの沼澤正司氏と、チーフデザイナーの服部守悦氏のふたりである。
――軽自動車の新しいジャンルを開拓することになったきっかけから教えてください。
沼澤:ご存じの通り、軽自動車の市場は年々大きくなっており、2013年は210万台前後と過去最高になる見込みです。これだけ軽自動車のパイが大きくなっている中で、スズキはラインナップが足りないのではないかということになりました。そこで新しいジャンルを追加しようということで、議論が始まったのです。「ワゴンR」と同じものを作っても仕方がありませんので、どんなモデルにしようか、知恵を出し合いました。
――新ジャンルをクロスオーバーにすることは、すんなりと決まったのでしょうか?
沼澤:それは比較的あっさりと決まりましたね。登録車(普通乗用車)でクロスオーバーが人気になっているのも見ていましたから。クロスオーバーは日常の足としての役割もこなしますし、雪国ではむしろ生活のクルマとしてベストマッチ。トータルで考えて、受け入れられやすい車型だという結論に達しました。
――東京モーターショー2013では、かなりの人を集めていました。
沼澤:一般公開日にウチのブースにあれだけ人が集まるのも珍しい、なんて冗談で言いましたが(笑)。若い女性が記念写真を撮っていたり、大学生がこれでスキーに行きたいと言ってくれたり、手応えはありましたね。
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デザインは勢いで仕上げました
東京モーターショー2013で老若男女から支持された最大の理由は、いかにも楽しそうな内外装のデザインだろう。続いて、チーフデザイナーの服部守悦氏に、楽しいデザインが生まれた背景をうかがう。
――デザインの現場はどんな雰囲気だったのか、教えてください。
服部:ワゴンRとは違う、楽しいという世界観を打ち出そうということでスタートしました。やはり、そういうテーマ設定だとデザイナーに気合が入るようで、絵コンテだけでなく動画まで作って10案ぐらいのアイデアを出しました。これを4つに絞りましたが、それぞれに強い思い入れがあってあれこれ悩みました。
――あれこれ悩むなかで、これだけは曲げられない、というテーマは何でしたか?
服部:楽しく、明るく、おしゃれに、というのが基本線ですね。あと、軽自動車の場合は女性ユーザーに振り向かれないと営業的にキツい。おそらく、6〜7割が女性ユーザーなので、そういうことは考えました。
――東京モーターショーでは女性からも支持されているようでした。
服部:おかげさまで、社内の女性からも好評です。従来の軽自動車とは競合しない、ユニークなモデルができたと思っています。
――デザインには、かなり時間をかけたのでしょうか?
服部:いえいえ、実は日程的に厳しくて、一気に勢いでデザインした感じですね。通常、経営陣の認証を何度かもらいながら進めるのですが、今回は一発。レアなケースでした。
普通車と並んでも恥ずかしくない
ここでもう一度、チーフエンジニアの沼澤氏に話を振る。デザイン以外に、いままでの軽自動車とはどこが違うのだろうか。
――プラットフォームはワゴンRと共通とのことですが、デザイン以外に変えたところはどこでしょうか?
沼澤:ショックアブソーバーの減衰力の設定を変えています。遊び道具を積んで出掛けるクルマという位置づけなので、ワゴンRよりロングドライブの機会が多くなると想定しました。市街地をきびきび走るワゴンRに対して、遠くまでゆったり走るハスラー、という位置づけですね。
――四駆モデルにヒルディセントコントロールが備わるなど、かなり本格的だという印象を受けました。つまり、セカンドカーというよりも、これ一台で事足りるファーストカーになりうる。普通乗用車からの乗り換えが多いと予想しますが、沼澤さんはいかがでしょう。
沼澤:面白かったのは年配の方の反応で、これならどんなクルマと並んでも恥ずかしくない、という意見が多かったんです。だから、登録車からの乗り換えは、私としても期待したいですね。
――車中泊やフィッシング、スキーなどに向けたアクセサリーをたくさん用意しているのも印象的です。
沼澤:軽のワンボックスを遊びに使っている人は、みなさん使いやすいように工夫なさっているんですね。棚を付けたり、床をフラットにしたり。「最初からメーカーに付けてほしい」という声もいただいて、いろいろとご用意しました。
ハスラーの一番いいところは、これを買ったら生活が変わるんじゃないかとワクワクするところだ。実際に乗ってみるとどうなのか、試乗をする日が待ち遠しい。
(インタビューとまとめ=サトータケシ/写真=森山良雄、スズキ、webCG)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。