フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTSIハイライン(FF/7AT)
走れるワゴン 2013.12.25 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフ」にワゴンモデルの「ゴルフヴァリアント」が加わった。より広いラゲッジスペースを得て実用性が高まった新型の、プラスアルファの魅力とは?ビジネスマンズエクスプレスとしても
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」が7代目の新型に切り替わった時、そのワゴン版である「ゴルフヴァリアント」の発表は見送られた。一挙に全部見せてしまうより五月雨(さみだれ)式に出すほうが、その都度、新型の優位点を繰り返しアピールできていいのだろう。
その新型ゴルフヴァリアントは、従来型と比べて少し長く(+30mm)、少し幅広く(+15mm)、そして低くなって(-45mm)登場した。このクラス(250万~300万円前後)のワゴンの中からライバルを探せば、「プリウスα」や「アテンザワゴン」、「レガシィツーリングワゴン」などが挙げられるが、ゴルフヴァリアントは一見して背が低く、より乗用車感覚の強いワゴンである。
といってもラゲッジスペースが狭いわけではなく、容積の数値を見る限り、ライバル各車より広い。もとよりミニバンもまだまだ流行はすたれておらず活況を呈しているから、ヒトもモノもたくさん積みたい人はそっちを選べばよい。ゴルフヴァリアントはアウトバーンを疾走するエコなスマートワゴンであり、エッチラオッチラ巨体を揺さぶりながら移動するクルマとは異なる。そういう意味ではビジネスマンの速いアシともなりうる。
重心高の高いクルマだって、今や大径タイヤなどでロールセンターを高めて、良好な操縦安定性が確保される時代である。だが、やはり背を低くした、重心高の低いクルマがもつ本質的な安定感には代えがたいものがある。だからコレはスポーツワゴンの仲間に入れてもいい。
随所に洗練の跡
搭載されるエンジンは、1.2リッター105ps(コンフォートライン)と1.4リッター140ps(ハイライン)の2種。社内で「A6」と呼ばれる旧型ゴルフのヴァリアントの1.2リッターエンジンはSOHCだったが、今度は1.4と同じくDOHCになった。
今回試乗したのは1.4リッターの方である。実は旧型ヴァリアントの1.4リッターエンジンはスーパーチャージャーとターボの、2つの過給器を備えていた。しかし、今度のモデルではターボだけになった。それでパワーは160psから140psにダウンしてしまったが、トルクの方は24.5kgmから25.5kgmへと向上している。
そうはいっても、この辺の数字は過給圧のサジ加減でいかようにも変えることができるから、おそらく燃費との兼ね合いで妥協したものと思われる。JC08モード燃費は15.9km/リッターから19.5km/リッターへと目覚ましく改善されている。
ハイブリッド車で遠慮しながらトロトロ発進してリッター20kmを記録するよりも、ゴルフヴァリアントでシューンと気持ちよく走ってリッター15km走れば、という考えもある。
また、スーパーチャージャーの特性として、ターボに期待できない低回転からのリニアなレスポンスという点では確かに効果はあるが、それを回すメカのフリクション感も無視できない。だから右足で感じる回転上昇感覚という観点からは、ターボだけの方が軽く吹け上がる感触があってイイ。
ともあれ、7段DSGと組み合わさった動力性能に不満などあるはずもなく、「大きなボディーにたった1.4リッターか……」という小排気量エンジンに対する懸念など、もはやまったく持たずに済む。DSGも登場初期のややぎこちなかった作動感は払拭(ふっしょく)されて、モデルチェンジを重ねるごとにスムーズになってきた。
ブレーキをリリースしただけで軽いクリープもあるし、左足ブレーキ派にとって乗りにくかった、A/Bペダルの操作がちょっとクロスしただけでエンジンがストールする欠点も解消された。ブレーキシステムの改良でさまざまな異常事態に自動で対処できるようになり、スロットルを閉じなくとも、とにかく止める方向の安心安全技術が充実したためだ。
DSGギアボックスのギア比自体はドイツ的で、上位のギアほど接近しており、アウトバーンでの高速バトル時に段差を少なくして、加速するにしても減速するにしても、エンジン回転を大きく変化させないようにしている。日本で使う場合には、下位のギアほど接近させたフォード流が好ましいとは思うが、7段もあればとりたてて不都合を唱えるにはあたらない。なおシフトパドルはハイラインで標準、コンフォートラインではオプションとなる。
我慢いらずのワゴン
試乗した日は突然の嵐で雨風がひどく、横浜ベイブリッジ通過時には視界も遮られたが、ゴルフヴァリアントは平然としたままで、室内は快適な状態に保たれた。橋の路面をつなぐジョイント部を通過する時も、ちゃんとストロークして上下動を吸収するアシの動きと、しっかり納めるダンパーの仕事ぶりが安心感を生む。
また、シフトパドルを使わなくとも、右足にちょっと力を込めれば即座にシフトダウンして加速力を強め、電動アシストのステアリングもスッと切れて素早くレーンチェンジを完了させる。
そんな日常的で平凡な操作であっても、自然に手足が動く範囲で意のままに流れにのれる。以前ならば、「ドイツ車だから……」とか、「フォルクスワーゲンの特性はこうだったよな……」とか、「ゴルフは、こういうところがやはり……」みたいに、ただし書きのようなものを感じながら乗っていたが、今度のヴァリアントはそんな目立った反応は感じられず、無色透明というか従順で、ドライバーの意思でどうにでもできる大きな包容力を有する。
ことさらワゴンというボディーを意識させず、スイスイと交通の流れをリードできる――そんな軽快な動きは動力性能だけでなく、シャシーチューニングの面でもボディー造りでも、新型ゴルフヴァリアントがひときわ洗練された乗り物であることを実感させる。
大きなボディーにありがちな、余分なイナーシャによって遅れる動き、そこを排除した一体感というかソリッドな動きは、現行「ポロ」で確立されたチューンと記憶している。それが現行ゴルフの登場時にはちょっとまだ消化しきれていないようにも感じられたが、ゴルフヴァリアントでポロのレベルに追い付いた。数を作りなれてくると原価低減に走るメーカーもあるが、フォルクスワーゲンは自動車造りのリーダーたる立場を自覚してドンドン先行し、追っ手との距離を離しつつあるように見える。もはや敵は内部にあり、「シャラン」や「ティグアン」との選択を考える人もいるだろう。
ゴルフヴァリアントは、より身軽で省燃費な大容量ゴルフといえる。ワゴンであってもスポーツカー的な操縦感覚を楽しみたい人にはヴァリアントがおすすめだ。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTSIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4575×1800×1475mm
ホイールベース:2635mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:140ps(103kW)/4500-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91Y/(後)225/45R17 91Y(ブリヂストン・トランザER30)
燃費:19.5km/リッター(JC08モード)
価格:322万5000円/テスト車=381万3000円
オプション装備:Discover Proパッケージ(17万8500円)/DCCパッケージ(14万7000円)/レザーシートパッケージ(26万2500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1908km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |

笹目 二朗
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。