第216回:もうフラフラしない!? 最新「トーヨー・トランパス」シリーズを試す
2013.12.26 エディターから一言2014年の1月から3月にかけてぞくぞく発売される、トーヨータイヤの新商品。そのポイントは? 実際の運転感覚は? 従来モデルとの比較も含め、報告する。
キーワードは「しっかり」
2013年12月にトーヨータイヤが一挙に発表した、3種類の最新アイテムを、サーキットコースと一般路でテストした。
「mpZ」「LuII」「LuK」という、いずれも「トランパス」シリーズに属するニューモデルだ。“ミニバン専用タイヤ”として1995年に立ち上げられたこのブランドが間もなく20年を迎えようというタイミングで、「これまでのノウハウを生かし、さらなる環境性能と安全性能の両立を図りながら、“しっかり走れる”をキーワードに開発した」というのが、これらのニュータイヤである。
14インチから18インチまでの間に全39サイズと、3種の中でもっともワイドな品ぞろえを見せるのが、初代から続く「トランパスmp」シリーズの6代目最新作となるトランパスmpZだ。ひとことで言えば、その最大の狙いどころは、より高度な操縦安定性にある。
そもそもミニバンは、全高や重心高の高さ、重量の大きさなどから、セダンやステーションワゴンに比べ、走行時にふらつく傾向が強まる。さらに近年では、装備の充実やハイブリッドシステムの搭載などが進んで重量増が加速している。一方で、装着されるタイヤのサイズには大きな変化がないため、タイヤの負担は増えるばかり。そんな現状を見据えて、開発が行われたという。
開発のコンセプトはまず、“タイヤの顔”たるトレッドパターンに見てとれる。2011年にデビューした先代モデル「mpF」に対し、周方向の主溝を1本減らして3本に。加えて、同サイズ内でのトレッド幅も広げることで接地面積そのものを増加させ、さらに非対称パターンのアウト側ブロックを大きくし、剛性を上げつつグリップ力を高める工夫が施されている。
従来品とはハッキリ違う
そんなmpZを装着した「日産セレナ」をサーキットコース内、「フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン」を一般路でチェックした。
特にトレッドに対して全高が極端に高いセレナで試走した際の、比較用に用意された従来製品トランパスmpF装着車との走りの違いは、明白なものだった。
タイヤの横剛性アップのために、サイド部でのプライコードの巻き上げ位置を高くする「スーパーハイターンアップ」構造の採用もあってか、まず操舵(そうだ)開始時の応答性が向上している。加えて、レーンチェンジ時にはロールの反転挙動が小さくなって、なるほど安定感も確実にアップしているのだ。
前述トレッドパターンの変更によって排水性は下がる傾向となり、実際に耐ハイドロプレーニング性は「従来品よりわずかに落ちる」とされているが、そこはそもそも十分な性能が確保されていて、「ほとんど問題にはならない」というのが開発陣の見解だ。また、新配合コンパウンドの採用で、ウエット時のグリップ力そのものと耐摩耗性は「いずれも向上している」という。
安心で快適な“欲張りタイヤ”も
一方、“Lu”の名称が与えられた2つのニュータイヤはいずれも、静粛性や快適性などプレミアム性の高さを意識したアイテム。LuIIはトヨタの「アルファード/ヴェルファイア」や「日産エルグランド」といった、いわゆる“高級ミニバン”をターゲットとしたもので、LuKは全高の拡大や装備の充実などにより重量が増しつつある、昨今人気の“ハイトワゴン系軽自動車”向けに開発されたものだ。
従来モデル「Lu」が2005年の発売と、時間の経過が大きいこともあってか、まずはアルファードで行ったLuIIとの比較では、「誰もがすぐに気がつくはず」と思えるほどに、静粛性の差は明確だった。
そうした効果は、主にトレッドパターンの最適化技術が主役と考えられるもの。ストレートグルーブ内のウォール部分に刻まれた細かな凹凸溝が800ヘルツ付近のノイズ(気柱音)を集中的に散らすという「サイレントウォール」を採用したうえ、トレッド部全体の溝の位相をずらして横方向のスリット角も最適設定としたことなどが、「決して無音ではないものの、気になるノイズは巧みに散らされている」という印象につながっているようだ。
さらに、路面凹凸へのアタリも優しくなった。その一方で、操縦安定性そのものについては、従来型から特に向上したという印象を受けなかったのも事実だ。そもそも、インチアップを意識した10種類のサイズ設定とされていることから、「大径シューズの装着でドレスアップはしたいけれど、快適性が低下するのはイヤだ」という、そんな欲張りなユーザーに適したなタイヤといえそうだ。
品質にこだわる軽ユーザーに
いまや日本の新車販売台数の4割ほどを占める軽乗用車。「そのユーザー層の中には小型車以上に遠出の機会を持つ人も増えてきた」という状況に配慮して開発されたのが、“軽自動車専用”をうたう新タイヤ、トランパスLuKだ。
軽自動車特有のトレッドに対する背の高さが生み出すふらつき感や、アウト側ショルダー部の偏摩耗を抑制すべくとられた構造は、基本的にはmpZと同様。同時に、そのトレッドパターンは前出LuIIに類似したもので、静粛性向上にも配慮したアイテムであることが伺える。
このLuKを装着した「日産デイズ」と、従来のmpFを装着したそれを乗り比べると、確かに操舵開始時のコーナリングフォースや、ピーク時の横Gそのものが高まっているのを実感できる。静粛性は同等という印象だが、その一方で、路面の小さな凹凸を拾った際の振動の伝達はやや大きくなったと感じられた。
どうやらこのタイヤは、操縦安定性の向上を図った結果、本来であれば悪化してしまう静粛性を、大型ミニバン用に新開発されたLuIIの技術を採用して現状キープにとどめた、とも受け取れる。
今や軽乗用車は、単純に価格の安さだけを理由に売れているわけではない。となると、「多少高価でも、安心して走れ、しかも長持ちするアイテムを手に入れたい」という、そんな“プレミアム志向”のユーザーからは支持されるニュータイヤといえそうだ。
(文=河村康彦/写真=東洋ゴム工業、webCG)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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