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第217回:“2.5次元”から飛び出したクルマ、「日産アイディーエックス」を解く

2013.12.27 エディターから一言
往年のBREのマシン風のカラーリングが施された「アイディーエックス ニスモ」。ビス留めのオーバーフェンダー風に拡幅された前後フェンダー、カーボン製のボンネットやエアロパーツ、サイド出しマフラーなどでレーシングライクに装っている。
往年のBREのマシン風のカラーリングが施された「アイディーエックス ニスモ」。ビス留めのオーバーフェンダー風に拡幅された前後フェンダー、カーボン製のボンネットやエアロパーツ、サイド出しマフラーなどでレーシングライクに装っている。
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その独特なスタイリングから、2013年の東京モーターショーで多くの注目を集めたコンセプトモデル「日産アイディーエックス(IDx)」。
単なる“レトロ調のショーカー”では済ませられない魅力が感じられるのは、どうしてなのか? 開発に関わったデザイナーの話も交えながら、その誕生の背景について考察する。

日本のクラシックカーレースに参戦している、BREのカラーリングに倣った「510ブルーバード」。これは4ドアの「SSS」がベースだが、SCCA(スポーツカー・クラブ・オブ・アメリカ)のトランザム2.5シリーズで、1971年、72年と2年連続で王座に輝いた本家BREのマシンは、北米では人気があったが、日本では廉価グレードのみだった2ドアセダンがベースだった。
日本のクラシックカーレースに参戦している、BREのカラーリングに倣った「510ブルーバード」。これは4ドアの「SSS」がベースだが、SCCA(スポーツカー・クラブ・オブ・アメリカ)のトランザム2.5シリーズで、1971年、72年と2年連続で王座に輝いた本家BREのマシンは、北米では人気があったが、日本では廉価グレードのみだった2ドアセダンがベースだった。
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「アイディーエックス フリーフロー」のサイドビュー。こうして見ると、やはり現代のクルマだけにウエストラインが高い。
「アイディーエックス フリーフロー」のサイドビュー。こうして見ると、やはり現代のクルマだけにウエストラインが高い。
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1965年にデビューした初代「シルビア」。「BMW507」などを手がけたドイツ系アメリカ人デザイナー、アルブレヒト・ゲルツをアドバイザーに迎え、日産社内でデザインされたボディーは、宝石をイメージした「クリスプ・カット」と呼ばれるシャープかつ繊細な面構成を持つ。
1965年にデビューした初代「シルビア」。「BMW507」などを手がけたドイツ系アメリカ人デザイナー、アルブレヒト・ゲルツをアドバイザーに迎え、日産社内でデザインされたボディーは、宝石をイメージした「クリスプ・カット」と呼ばれるシャープかつ繊細な面構成を持つ。
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通称ハコスカこと3代目「スカイライン」に、1970年に加えられた「ハードトップ2000GT-R(KPGC10)」。つり上がったマスク、肩をそびやかしたようなショルダーライン、リアフェンダーのサーフィンラインなど、彫刻的で筋肉質なスタイリングだ。
通称ハコスカこと3代目「スカイライン」に、1970年に加えられた「ハードトップ2000GT-R(KPGC10)」。つり上がったマスク、肩をそびやかしたようなショルダーライン、リアフェンダーのサーフィンラインなど、彫刻的で筋肉質なスタイリングだ。
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1964年の第2回日本グランプリで鮮烈なデビューを飾った元祖「スカG」。これは66年にマイナーチェンジした「スカイライン2000GT-A(S54A)」。フロントフェンダー先端の形状と逆スラントしたマスクが、「アイディーエックス」に通じるものがある。
1964年の第2回日本グランプリで鮮烈なデビューを飾った元祖「スカG」。これは66年にマイナーチェンジした「スカイライン2000GT-A(S54A)」。フロントフェンダー先端の形状と逆スラントしたマスクが、「アイディーエックス」に通じるものがある。
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「アイディーエックス フリーフロー」のクオーターウィンドウとCピラーの処理を見て、思い出したのがこれ。日産初のFF車だった「チェリー」の流れを継いで、1978年に登場した初代「パルサー」のクーペである。
「アイディーエックス フリーフロー」のクオーターウィンドウとCピラーの処理を見て、思い出したのがこれ。日産初のFF車だった「チェリー」の流れを継いで、1978年に登場した初代「パルサー」のクーペである。
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デザインヘリテージをリミックス!?

「日産のブースに『510』があった」
東京モーターショー2013のプレスデイ初日、プレスルームでそんなうわさを耳にした。

筆者は朝一番に行われた某メーカーのプレスブリーフィングに出席、リポートに追われていたので、その時点ではまだ日産の展示は見ていなかった。最初は“ヘリテージ”として型式名510こと3代目「ブルーバード」が飾られているのかと思ったが、聞けば事前発表にはなかった「アイディーエックス」というレトロ調のコンセプトモデルが、サプライズとして出展されているとのことだった。

結局その日は現物を確認できなかったが、公式サイトでアイディーエックスの画像を見て、510と呼ばれていたわけがわかった。
往年の日産車をモチーフにしたであろう、直線的でクリーンなスタイリング。特に「アイディーエックス ニスモ」のほうは、1970年代初頭に北米のツーリングカーレースで活躍した、ピート・ブロック率いる「BRE(ブロック・レーシング・エンタープライズ)」の510に倣ったカラーリングが施されていたからである。
ついでにネット上の反応をチェックすると、モチーフとなったモデルについて、510のみならず初代「シルビア」、通称ハコスカこと3代目「スカイライン」、2代目「ローレル」などなど、さまざまな車名が挙げられていた。

翌日、自分の目で実車をチェックして、なるほどと思った。ツリ目のマスクはハコスカ風であると同時に、先端が尖(とが)ったフロントフェンダーの形状や逆スラントしたノーズと相まって、ハコスカよりひと世代前、日産に吸収合併される前のプリンス時代の2代目スカイラインのテイストも感じられる。いわばノーマル仕様である「アイディーエックス フリーフロー」についていえば、上品な雰囲気が初代シルビアに通じるものがあり、ルーフの形状はピニンファリーナによる2代目ブルーバード、リアクオーターウィンドウとブラックアウトされたCピラーの織りなす意匠は、初代「パルサー クーペ」を思い起こさせた。

それでいて全体的な雰囲気とプロポーションは、やはり510の2ドアセダンやクーペ、あるいはその兄貴分である初代ローレルのハードトップといったところ。純プリンスのモデルを含めた、60~70年代の日産のデザインヘリテージをリミックスして、現代のモデルとしてうまくまとめている。ひと目見て日産車とわかる、日産車以外の何物でもない、という強いデザインの主張は日本車には珍しく、感心したのだった。

始まりは若者の意見

日産によれば、アイディーエックスはクルマ離れが進む若年層の興味を喚起するため、開発の初期段階から1990年以降に生まれた「ジェネレーションZ」、いわゆる「デジタルネイティブ」の意見を取り入れ、議論を繰り返す「コ・クリエーション(共同創造)」と呼ばれる手法で開発されたという。つまり若者が欲しいクルマを、彼らの意見にしたがって作ったら、510みたいになっちゃったというわけだ。

510のデビューは67年だから、ジェネレーションZとやらより20歳以上も年上で、彼らの親、もしくはそれより上の世代のクルマである。それがいったいなぜ? という疑問に対して、アイディーエックスのコンセプト開発に携わったという40代の日産のデザイナー氏が興味深い話を聞かせてくれた。
「ドライビングゲームに使うマシンとして、アメリカの若者の間で510が大人気だったんですよ。ゲームの世界では、例えば「510に『R32スカイライン』のパワートレインを移植して……」なんてことが簡単にできちゃう。そうして思い思いのチューンをして、楽しんでいるんです」

ブルーバード史上における最高傑作と言われる510は、北米でもヒット。日本で510といえばサファリラリーにおける活躍で知られるが、前述したように北米ではレースでも好成績をおさめた。実車の世界でも、親から子へと2世代にわたって510を楽しんでいる例もあるので、アメリカのジェネレーションZのゲーマーの間で人気があるのも納得できたという。

「ところが、ドライビングゲームをやってる中学生の息子に『こんなの知ってる?』と510の話を振ったところ、彼もチューンを施した510を走らせているというんですね。聞けば、アメリカ人のゲーマーが『YouTube』に上げていた510がカッコよかったから、自分も“作ってみた”そうなんです。オンラインの世界では、国境はないんですね。考えてみれば当然のことなんですが、最初に知ったときは驚きました」

オーバーフェンダー風のデザインのため、「アイディーエックス ニスモ」の車幅は1.8mあるということだが、この角度からはナローに見える。トランクリッドからディフューザーにかけてはカーボン製である。
オーバーフェンダー風のデザインのため、「アイディーエックス ニスモ」の車幅は1.8mあるということだが、この角度からはナローに見える。トランクリッドからディフューザーにかけてはカーボン製である。
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刺さりそうなほど尖(とが)った形状のフロントフェンダー前端。ショーカーならではの処理だろう。
刺さりそうなほど尖(とが)った形状のフロントフェンダー前端。ショーカーならではの処理だろう。
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ルーフ後端にはカーボン製のスポイラー、サイドにはバイザー風のパーツが付く。
ルーフ後端にはカーボン製のスポイラー、サイドにはバイザー風のパーツが付く。
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赤と黒、シルバーの3色で仕上げられた「アイディーエックス ニスモ」のスポーティーなインテリア。カーボンを多用している。
赤と黒、シルバーの3色で仕上げられた「アイディーエックス ニスモ」のスポーティーなインテリア。カーボンを多用している。
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真っ赤なスポーツシート。リアシートは省かれ荷物スペースになっている。
真っ赤なスポーツシート。リアシートは省かれ荷物スペースになっている。
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「黄金比」と「FR」がポイント

自分たちとは違って、ジェネレーションZは親世代の価値観を否定しないことも最初は不思議に感じられた。だが、冷静に分析していくうちに、彼らが510を好む理由のひとつに、はやり廃りではない、クルマとしての自然なプロポーションがあるのではないかという考えに至った。

「スタイリングに関しても、510や初代ローレルなどをあらためて見ると、とてもシンプルだけど、品格のある線で作られていることがわかります。そうしたところが、普遍的なよさとして伝わったのではないでしょうか」
そこから導き出されたアイディーエックスは、水平基調の3ボックスで、全長約4.1m、全幅約1.7m、全高約1.3m(アイディーエックス フリーフローの場合)。このプロポーションは、クルマとしての黄金比率なのかもしれないという。

アイディーエックスの“黄金のプロポーション”を成立させている大事な要素として、短いフロントオーバーハングがある。原則として、この形態は駆動方式がFRでなければ成立しえないが、実はFRであることも、ゲーマーの間で510が好まれる大きな理由なのだという。現実の世界でFRとFFのハンドリングの違い、走らせ方の違いを会得するには、時間もコストもかかるし、リスクも伴う。
「それがゲームだと、リスクなしにわかりますよね。で、だったらFRのほうが楽しくていいじゃん、となるんですよ」

FRの採用も若者の意見を聞いた結果というわけだ。コンセプトカーとはいえ、クルマの開発にまでゲームというバーチャルな世界が進出してくるとは……。だが、考えてみれば日産はレースの世界でも、ゲーマーのなかからリアルなレーシングドライバーを育てるプログラムである「GTアカデミー」を5年前に始め、実績を残しているのだ。それを思えば、驚くことではないのかもしれない。
「ジェネレーションZの、深く入り込んでいるゲーマーにとって、ゲームの世界はすでに2次元を超越してるんですよ。よりリアルワールドに近い、2.5次元とでもいうべき世界なんですね」

日産いわく、白いTシャツと亜麻色のチノパンに、アクセントとなるシルバーアクセサリーやベルトを組み合わせたような、というカラーリングでまとめられた「アイディーエックス フリーフロー」。
日産いわく、白いTシャツと亜麻色のチノパンに、アクセントとなるシルバーアクセサリーやベルトを組み合わせたような、というカラーリングでまとめられた「アイディーエックス フリーフロー」。
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5ナンバーサイズにおさまる、黄金比率のプロポーション。「大柄なアメリカ人が楽に座れるよう、などと考えると車高が10cmくらい高くなり、プロポーションが崩れてしまう」とデザイナー氏は語っていた。
5ナンバーサイズにおさまる、黄金比率のプロポーション。「大柄なアメリカ人が楽に座れるよう、などと考えると車高が10cmくらい高くなり、プロポーションが崩れてしまう」とデザイナー氏は語っていた。
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シンプル&クリーンな箱形のスタイリングにアクセントを与えているという、丸みを帯びたフローティングルーフ。
シンプル&クリーンな箱形のスタイリングにアクセントを与えているという、丸みを帯びたフローティングルーフ。
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3スポークのステアリング、円形メーターなどクラシックな意匠を持つ、カジュアルで明るい雰囲気のインテリア。シートの表面はデニム地。
3スポークのステアリング、円形メーターなどクラシックな意匠を持つ、カジュアルで明るい雰囲気のインテリア。シートの表面はデニム地。
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あえてフェンダーに取り付けたアウトサイドミラー。「アイディーエックス フリーフロー」はシルバー仕上げのエレガントな角形、「ニスモ」はブラック仕上げのスポーティーな砲弾型と使い分けている。
あえてフェンダーに取り付けたアウトサイドミラー。「アイディーエックス フリーフロー」はシルバー仕上げのエレガントな角形、「ニスモ」はブラック仕上げのスポーティーな砲弾型と使い分けている。
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製品化の可能性は?

なるほど、アイディーエックスは2.5次元から生まれたクルマというわけか。そうした若者の求めるクルマが、日産の持つヘリテージと重なるとなれば、日産にとって実に喜ばしいことではないか。しかも東京モーターショーに出展したところでは、若者ではない、510をリアルに知っている世代からの反応も悪くない。
ちなみに50代である筆者の個人的な感想では、自社のヘリテージを引用した国産コンセプトカーとしては、出色の出来だと思う。件(くだん)のデザイナー氏も「私も欲しいですよ。これで通勤したいです」と語っていた。

となれば、製品化に期待がかかるが、その可能性はあるのだろうか? 言うまでもなく、最大の問題はプラットフォーム。日産はいま、このクラスのFRプラットフォームを持っていない。ではアイディーエックスのためにプラットフォームを新規開発するのか?

デザイナー氏は「つまりところ、どれだけのマーケットが見込めるかということになりますね」というが、それを考えると、実現の可能性は限りなく低そうである。
既存のFFのプラットフォームで、カッコだけそれっぽく作ればいいんじゃない? という声もあるようだが、それでは本末転倒とまではいかないまでも、違うと思うのだ。ではどうすればいいのか? ここはひとつ、商用車を中心に日産と相互OEMを行っているマツダから、アルファ・ロメオとの協業が決まった次期「ロードスター」のプラットフォームを供給してもらって……などというのは、素人の妄想にすぎないのだろうか。ちなみにデザイナー氏は、「一度限りの提案にはしたくない。先に進むには、なによりみなさんの後押しが力になりますので、よろしくお願いします!」と話を締めくくったのだった。

(文と写真=沼田 亨)

覚えておいでだろうか? 5ナンバー枠におさまるFRのスポーツクーペのコンセプトカーとして2005年の東京モーターショーに出展された「日産フォーリア」。2002年の夏に生産終了となったS15「シルビア」の後継? という声もあったが、一度きりのショーカーで終わった。今見るとボディーはボッテリとした印象を受ける。
覚えておいでだろうか? 5ナンバー枠におさまるFRのスポーツクーペのコンセプトカーとして2005年の東京モーターショーに出展された「日産フォーリア」。2002年の夏に生産終了となったS15「シルビア」の後継? という声もあったが、一度きりのショーカーで終わった。今見るとボディーはボッテリとした印象を受ける。
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ランチアが2003年のトリノショーに出展した「フルビア クーペ」。往年のフルビア クーペの復刻版で、市販化が期待されたが、コンセプトカーで終わった。
ランチアが2003年のトリノショーに出展した「フルビア クーペ」。往年のフルビア クーペの復刻版で、市販化が期待されたが、コンセプトカーで終わった。
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先代「フォード・マスタング」。1965年に登場した初代のファストバックをモチーフとするボディーをまとい、2005年に登場した。自社のヘリテージを生かした、レトロ調のスポーツクーペの成功例である
先代「フォード・マスタング」。1965年に登場した初代のファストバックをモチーフとするボディーをまとい、2005年に登場した。自社のヘリテージを生かした、レトロ調のスポーツクーペの成功例である
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これも成功例であろう「ダッジ・チャレンジャー」。1970年にデビューした初代の復刻版で、2008年に市販化された。
これも成功例であろう「ダッジ・チャレンジャー」。1970年にデビューした初代の復刻版で、2008年に市販化された。
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