ホンダ・フィット 13G・Fパッケージ(FF/CVT)
歴史に名を残す予感 2014.01.14 試乗記 発売以来のセールス好調が伝えられる、3代目「ホンダ・フィット」。クルマとしての実力はどれほどのものなのか? ベーシックなガソリン車で確かめた。作り手の意志が感じられる
2001年の初代モデル誕生以来、世界123カ国での累計販売台数は約500万台。かくも“グローバルなモデル”でありつつも最大のマーケットは日本で、そこでは200万台以上を販売済みという“ドメスティックなモデル”でもあるのが「ホンダ・フィット」だ。
2013年の秋にフルモデルチェンジを行った通称フィット3も、あらためてホンダの重要な屋台骨となるべく開発された。
ルックスは、前後バンパーのエアスクープ風処理や、どこか“ボルボ車の香り”が漂う、ルーフに向かって伸びるテールランプのグラフィックなどが、個人的にはちょっとばかり引っ掛かる。けれども、グリルとヘッドランプがつながったフロントマスクなど、新たなデザインテーマを採用しながら、確かにフィットに見える佇(たたず)まいに仕上げたのは、過去2代への敬意の表れでもあるのだろう。
そんな今度のモデルは、ボディーの骨格はもとより、パワートレインからシャシーに至るまで、各部が白紙から設計され直したオールニューの作品だ。例えば、従来型比で全長が55mm、ホイールベースが30mm増したのに対し、前後パッセンジャー間の距離は80mm拡大できたというあたりも、コンパクト化された新リアサスペンションの採用や後席用シートベルトリトラクターの設計変更など、なるほど“本当のフルモデルチェンジ”が行えたからこその成果だろう。
一方で、全幅が1.7m以下に収まったのは、前述のようにいまなお大きな、日本のシェアの影響力に違いない。「日本で売れるのは、軽かミニバンかハイブリッド専用車」――そんな“定説”に一石を投じる開発の姿勢も、フィット3からは垣間見える。
万全のユーティリティー
今回とりあげるのは、「13G・Fパッケージ」というグレードのFF車で、CVTを搭載するモデル。あえてそう記すのは、5段MTの設定もあるからで、価格は両者共通の136万円。
取材車は、目にするアングルで微妙に色調が変化する「ティンテッドシルバーメタリック」なるボディー色(3万1500円)に、レーザーレーダーを用いた衝突被害軽減ブレーキとサイドエアバッグで構成される「あんしんパッケージ」(6万円)、リアカメラや、オーディオ操作用のステアリングスイッチ、専用ハーネスなどからなる「ナビ装着用スペシャルパッケージ」(4万円)というメーカーオプションを加えたもの。さらに、ディーラーオプションで用意される8インチ画面のナビゲーションシステムも装着していた。
ただし、静電タッチ式の操作パネルを持つこのナビの使い勝手は、決して褒められたものではなかった。入力の終了までスイッチの注視を余儀なくされるこの方式は、「走行中は表示画像を注視しないこと」という道路交通法の要求にもむしろ逆行するもの。単に見栄えの面で流行を追っただけで、実は“わき見時間の増加”にすらつながってしまう、昨今のこの種のアイテムのむやみな普及には、大きな異を唱(とな)えたくなるものだ。
センタータンクレイアウトを踏襲し、ユーティリティー性の高さには定評があった歴代フィットだが、新型ではそんな長所にさらに磨きが掛けられた。
後席の居住性は、誰が乗っても即座に分かるほどに向上。さらに、そのシートバックを前倒ししてフラットフロアの空間が拡大される「ユーティリティ・モード」や、クッション部分を跳ね上げてパイプフレームを折り畳むだけの簡単操作で、フロントシート後方に高さのある空間をたちまち生み出せる「トール・モード」を可能とする、“ウルトラシート”と呼ばれるシートアレンジもライバルを圧倒する。
走りだしても好印象
細かい部分では、路面凍結の予測に効果を発揮する、メーターパネル内の外気温の常時表示や、レーンチェンジ時の利便性を高めるワンタッチ3回点滅ウインカーなど、ドライバーの立場を考えた機能がさりげなく取り入れられた点も評価したい。
大きな3連ダイヤルとスライドレバー、プッシュ式スイッチで構成される空調の操作系も扱いやすい。が、それは、このモデルがベーシックグレードでエアコンがマニュアル式であるがゆえ。上級グレードに装備されるオートエアコンでは、ここも例の静電タッチパネル式となり、実は操作性が大幅にダウンしてしまうという“逆転現象”が起きているのだ。
1.3リッターの高膨張比(アトキンソンサイクル)エンジン+CVTという組み合わせが生み出す動力性能は、「1トンをわずかに超える車両重量に、ちょうど100psの最高出力」というスペックから予想できる程度の印象。すなわち、特にライバル各車を出し抜くような力強さを秘めているわけではないが、一方で、燃費にフォーカスをした一部のモデルで感じさせられるような、非力さを覚えるわけでもない。
スタートの瞬間から微低速域での動きの滑らかさは、なかなか優れたもの。CVT車にありがちな、アクセルペダルを踏んでいったときの「エンジン回転だけが先行して高まる感じ」が抑えられているのも好印象だ。さらに、減速時、停止寸前のタイミングで妙にエンジンブレーキの利きが強まるような、違和感が少ないのも評価のポイント。すなわち、総じてよくできているのだが、それでも車速とエンジン回転数の“リニアさ”において、デュアルクラッチ式トランスミッション(DCT)やステップ式ATにかなわないのは、この方式のトランスミッションの限界点とも言えそうだ。
ダントツの仕上がり
フットワークの仕上がりは確実にこのクラスの平均点以上で、操縦安定性面はなかなかハイレベル。低速の小入力域において“揺すられ感”が少々強めな乗り味は惜しまれるが、それがピッチモーションにはつながらず、不快感はさほど強くはない。
それでも、こうしたシチュエーションにおける足まわりのしなやかさと、コーナリング中の保舵(ほだ)感、中立付近でのステアリングの据わり感がそれぞれあと一歩向上したなら、その走りの質感は大幅にブラッシュアップされそうだ。
ちなみにこのモデルでは、トータル300km以上を走行しての燃費が、満タン法、オンボードコンピューター上ともに、20km/リッターを超えた。むやみに加減速を繰り返してはいないが、だからといってエコランにトライしたわけでもない。確実に言えるのは、高速道路をクルージングしている限り、この程度の燃費は誰でもたやすくマークできるということだ。
いまさら具体的な車名を出す気にもなれないが――まるでコストダウンにしか興味がないかのごとく何とも安っぽくて、走りの質感も時代を逆戻りしてしまったかのような――情けない仕上がりのクルマばかりが目立つ、昨今の日本製コンパクトカー。その中にあって、まさに“ダントツの実力”を感じさせてくれたのが、この新しいフィットだ。
今の日本のマーケットでは、またぞろ「ハイブリッド仕様が一番人気」となってしまいそう。しかし、「安価でベーシックなモデルの出来が良いと、そのモデル全体が必ず歴史に残る“実力車”になる」というのが、これまでに得られた自分の経験則であることは、付け加えておきたい。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ホンダ・フィット 13G・Fパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1695×1525mm
ホイールベース:2530mm
車重:1020kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:100ps(73kW)/6000rpm
最大トルク:12.1kgm(119Nm)/5000rpm
タイヤ:(前)175/70R14 84S(後)175/70R14 84S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:24.4km/リッター(JC08モード)
価格:139万1500円/テスト車=152万3000円
オプション装備:車体色<ティンテッドシルバーメタリック>(3万1500円)/ナビ装着用スペシャルパッケージ(4万円)/あんしんパッケージ(6万円)
テスト車の走行距離:3559km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:323.9km
使用燃料:16.0リッター
参考燃費:20.2km/リッター(満タン法)/20.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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