第220回:シンプルな造形にラグジュアリーは宿る
インテリアデザイナーが語る新型「レンジローバー スポーツ」の見どころ
2014.01.09
エディターから一言
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2013年11月の東京モーターショーで本邦デビューを果たした「レンジローバー スポーツ」。そのインテリアの見どころを、ランドローバーのスタジオディレクター、デイヴィッド・サディントン氏に聞いた。
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心休まる空間であってほしい
――「スタジオディレクター」とは聞き慣れない職種ですが、どのような仕事を担当しているのですか?
「デザインを、コンセプトの段階から実際の生産に至るまで、一貫して取りまとめる仕事です。私はインテリアを担当しています。同僚が2人いて、ひとりがエクステリア、もうひとりがアクセサリーやそのほかのプロダクトデザインを担当しています。
一方で、部下としては3Dデザイナーやカラーマテリアルデザイナーなどがいます。スタジオディレクターは、世界で最も楽しい仕事と思っています!」
――ランドローバーのインテリアデザインには、どのような“哲学”があるのでしょうか?
「すべてのモデルで共通して大事にしているのは、『シンプルで、幾何学に基づく』ということです。もちろん、車種ごとに進化はしていますが、そういった根幹を大事にしてきたから、今日の、類のないデザインを作れるようになったと思っています。
競合メーカーが、有機的かつ流動的なデザインを採用しているのに対し、私たちはシンプルで幾何学的、つまり縦横を強調したデザインを採っています。ランドローバーの伝統を生かしたデザインになっているのです」
――具体的な例を挙げてもらえますか?
「レンジローバーについて説明すると……、『レンジローバー』と『レンジローバー スポーツ』がありますが、どちらも横のラインを強調しています。縦はあくまでサポートです。それは『イヴォーク』も同様。シンプルな横のラインをモチーフにしたデザインが採られます」
――シンプルな造形だと、車種ごとに個性を表現するのは難しくないですか?
「難しいですね。特に『ラグジュアリー』という概念を定義するのは難しい。逆に、『ラグジュアリーではないもの』はすぐにわかります。ですので、ラグジュアリーを表現するときには、幅広い観点から考えるようにしています。お客さまのライフスタイルのどの部分がラグジュアリーなんだろうと、クルマ以外にも目を向けるのです。
例えば、ラグジュアリーなお客さまが特に大事にしているのが、ストレスフリーであることです。いわゆるコンシェルジュサービスなどを利用されている。
ですから、インテリアとしては、第一印象として落ち着いた印象を与えたい。乗ったときに、まず心休まる空間であってほしいのです。ある意味、サンクチュアリー(聖地)のようなものでしょうか」
「機能」と「質感」のバランスが重要
――「ラグジュアリー」について、新しいレンジローバー スポーツではどのように表現しているのでしょうか?
「ラグジュアリーの解釈の仕方が、ほかにはないユニークなものになったと思います。横方向の大きな主張があって、随所に高級素材を使っています。ステアリングホイールにバッジを付けて、『レンジローバーに乗っている』というラグジュアリー感を意識させつつ、“スポーティング・ラグジュアリー”を演出しています。
例えば、センターコンソールの位置を高くして、シフトセレクターをここに欲しいと思うところにキチンと配置しています」
――ハイテクであることをむしろ隠して、よりシンプルに見せるように努力していると感じましたが?
「その通りです。機能としては先代モデルよりアップしているのに、ボタンの数は半分にしました。ドライバーにとって必要な機能は備えつつ、インターフェイスはわかりやすくする。クルマはよりシンプルになり、よりハイクオリティーになるのです」
――マテリアル選択の面でも、「機能」と「質感」のバランスが大事だと思いますが、いかがですか?
「それは、インテリアに限らず、クルマ全体に言えることです。ランドローバーでは、クルマの能力の幅をどう広げるかということを常に考えています。エンジンと足まわりは、オンロードとオフロードの、両方の能力が拡張されなければなりません。
インテリアに関して言えば、レンジローバーは、エベレスト登山のベースキャンプに連れて行かれても問題ないくらい、丈夫でないといけない。耐久性も大事。一方で、高級車なので、美しさもそれに劣らず重要なのです。例えば、革という素材は、美しく、耐久性があり、なおかつクリーニングしやすい。革だけでなく、メタル部分のクオリティーにも目を配ります。ラグジュアリーであること、耐久性があること、両者のバランスを重視します。
さらに最近のお客さまは、再生可能であることや持続可能であることを求めます。これらも考慮してマテリアルを選ばなければならないのです」
(インタビューとまとめ=青木禎之<Office Henschel>/写真=DA、ジャガー・ランドローバー、webCG)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。