アウディRS 6アバント(4WD/8AT)
欲望をカタチにすれば…… 2014.01.16 試乗記 最高出力560ps、最大トルク71.3kgmのスーパーワゴン「RS 6アバント」に試乗。もはや手に余るほどのパフォーマンスを提供する万能マシンに、リポーターは何を思う?ビジネスマンズ・エクスプレス
ビジネスマンズ・エクスプレスというジャンルは昔からあるが、現在のスペック相場はだいたい1500万円、500ps超のV8ターボ、車重2トンあたりだろうか。「メルセデス・ベンツE63 AMG」のセダンやワゴンがそうだし、「BMW M5」がそう。そして今回の「アウディRS 6アバント」も、どストライクでその条件を満たす。
にしても、ものすごく速いスポーツカーは世界中のメーカーがこぞってつくるのに、ビジネスマンズ・エクスプレスをラインナップするのは、不思議なことにドイツメーカーばかり。スポーツカーと違って万が一にも仕事中に止まると困るからだろうか。
ジャガーやマセラティにもV8+過給器の500ps超を誇るハイパフォーマンスセダンがあるじゃないかって? あれらは遊び人向けでビジネスマンは乗っていない。ビジネスマンズ・エクスプレスは、あくまで見た目は地味なままバカッ速に仕立てられたモデルというイメージだ。使い古された表現で言えば“羊の皮をかぶった狼”。
ただし、最近のモデルはパフォーマンスが上がり過ぎて羊の皮がところどころ破れて狼なのがバレバレになっている。というわけで、膨らんだフェンダーと極太タイヤ、本気で効きそうなエアダムなど、ほぼ狼丸出しのRS 6に試乗した。
小さく軽く感じる
RS 6はこれで3代目。歴代すべて「A6」をベースに開発され、初代は4.2リッターV8ターボを、2代目は5リッターV10ターボを採用した。現行型はV8ターボに戻ったが、排気量は4リッターとダウンサイジング。それでも最高出力560ps/5700-6700rpm、最大トルク71.3kgm/1750-5500rpmと、最高出力こそ20psダウンしたものの、最大トルクは過去最大の値に達した。
いきなり言い訳かよと思われるかもしれないが、公道でこのスペックの真価を発揮させられるテクニックがないし、仮にあっても、もう免許の点があまりないので、日常的な走り方に徹した。しかし、日常的な走り方だとこのクルマには何も起こらない。さざ波すら立たない。どこまでもオン・ザ・レールでとんでもない加速を味わわせてくれるだけだ。もちろん、よく曲がるし、ものすごくよく止まる。
アルミ多用のモノコックを採用することで、先代に比べ約100kgの軽量化に成功したとはいえ、大きなエンジンと大きなエンジンにふさわしいトランスミッション、そして4WDシステムを搭載するRS 6の車重は2040kgもある。にもかかわらず感じるのは、加速でもコーナリングでも減速でも、もっと小さくて軽いクルマを運転しているようなフィーリングだ。“重ければ動きは鈍い”という物理の法則へのテクノロジーの挑戦という感じで、このあたりがRS 6を所有する満足感につながるのではないだろうか。とりわけ制限速度がたった100km/hの国では。
ハイパフォーマンスとエコを両立
おそらく歴代最速であると同時に、アイドリングストップするほか、低負荷時に気筒休止するため、燃費は過去最良のJC08モード10.4km/リッターを誇る。ちなみに、ほぼ同じパワースペックの5.5リッターV8のメルセデス・ベンツE63 AMG 4マチックおよびE63 AMG S 4マチックはいずれも同8.5km/リッターで、BMW M5は同9.0km/リッターだから、RS 6はなかなか優秀だ。
「560ps、71.3kgmというウルトラハイパフォーマンスのRS 6がどうしてカタログ燃費とはいえ10km/リッターを超えることができるの? うちの10年落ちのナントカは馬力半分弱、重さ半分強だけど燃費はそんなもの」と不思議に思う人もいるだろう。けれど運転してみればわかる。まず街中を流す程度なら2000rpm以上使う必要がない。グイッと踏めば1750rpmで71.3kgmに達するのだからむべなるかな。それに気筒休止している割合が高い。一般道や首都高では加速時以外は4気筒だ。さらにアイドリングストップが加わったことで、燃費に不利な4WDにもかかわらず、実測の燃費でも健闘した……と書くつもりだったが、実測では6.3km/リッターにとどまった。ただし今回の走行距離は350kmあまりに過ぎず、燃費の良しあしを判断するには短すぎる。
ドライバーの好みのままに
都心→多少の渋滞を含む首都高→東名高速→箱根の山道とバラエティーに富んだ状況のすべてで、RS 6は最高の挙動を示し続けた。その万能性の大部分はアウディドライブセレクトのおかげだと思う。これは、ドライバーが好みや気分に合わせて「コンフォート」「ダイナミック」「オート」のどれかを選べば、スロットルバルブ特性、エキゾーストフラップのコントロール、変速タイミング、ダンピング特性、そして電動パワステのステアリングトルクなどが統合的に切り替わり、瞬時にモード名通りの性格となるシステム。
コンフォートとダイナミックではまるで性格が異なるが、コンフォートでも腰砕け感はなく、ダイナミックでもハード過ぎるわけではない。ロードゴーイングカーとしてあるべき両端を絶妙に攻めている。
ここまで性格を変えられる点こそが現代のハイパフォーマンスカーの最大の特徴だ。500ps超のクルマは昔から存在したが、疲れている時にここまで快適に走らせられる500ps超のクルマはなかった。500ps超でアイドリングストップするクルマも昔はなかった。パフォーマンスが一般的ドライバーの手に負える限界に達した(超えた)現代では、パフォーマンスを維持したうえでどれだけ快適さを盛り込めるかが勝負なのだろう。
RS 6はひとり暮らしの学生の引っ越し並みの荷物を積んだまま「ポルシェ911」を追い回すことができるという意味で非常に現代的だ。欲張りな現代人の欲望をカタチにするとRS 6のようになるのかもしれない。
(文=塩見 智/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
アウディRS 6アバント
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4980×1935×1480mm
ホイールベース:2915mm
車重:2040kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:560ps(412kW)/5700-6700rpm
最大トルク:71.3kgm(700Nm)/1750-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR20 102Y/(後)275/35ZR20 102Y(ヨコハマ・アドバンスポーツ)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:1520万円/テスト車=1816万円
オプション装備:アウディパーキングアシスト/サラウンドビューモニター(16万円)/Bang & Olufsenアドバンストサウンドシステム(84万円)/ナイトビジョンシステム(31万円)/ヘッドアップディスプレイ(21万円)/セラミックブレーキ(124万円)/プレセンスパッケージ<プレセンスプラス/アダプティブクルーズコントロール/アウディサイドアシスト/アウディアクティブレーンアシスト>(20万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3200km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:353.1km
使用燃料:55.9リッター
参考燃費:6.3km/リッター(満タン法)

塩見 智
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