アウディRS 6アバント パフォーマンス(4WD/8AT)
完全無欠のハイパフォーマー 2024.04.13 試乗記 「アウディRS 6アバント」にエンジンパワーを630PSに強化したその名も「パフォーマンス」が登場。この4リッターV8ターボユニットとアウディの技術の粋を集めたシャシーの組み合わせはまさに完璧。歴代のRSモデルが追求してきた世界観を100%体現したモデルといえるだろう。これが最終進化形
2023年をもって「R8」の生産が終了した現在、アウディスポーツの事実上のフラッグシップといえるのがRS 6アバントだ。同等エンジンを積むアウディRSとしてはSUVの「RS Q8」もあるが、スポーツ性や機動性という意味では、やはり、より低重心かつ軽量なRS 6アバントに軍配が上がる。
それに、好事家ならご承知のように「S」の上をいく「RS」を初めて冠したアウディは、1994~1995年に生産された「RS2」である。RS2は当時の「80アバント」をベースに、ポルシェと共同開発された高性能モデルだったから、こうしてアバントがトップに君臨するのは、アウディスポーツの由緒としては正しい姿ともいえる。ちなみに、RS 6アバントと骨格を共有するバリエーションは「RS 7スポーツバック」だけで、RS 6のセダンが用意されないのがまたアウディらしい。
今回のパフォーマンスは、そんなRS 6アバントのポテンシャルをさらに引き出したモデルだ。パフォーマンスは先代末期にも登場した最終進化形的な存在で、今回のベースとなっている5代目「A6/S6」も国内発売からすでに5年が経過しており、現行RS 6アバントもすでに店じまいに向けたプログラムになりつつあると考えるのが自然だ。
実際、次期A6の主力はバッテリー電気自動車(BEV)専用設計となってこの2024年内に、そしてエンジンを搭載する従来型A6の後継機種は「A7」の名で2025年に発売予定とのウワサもある。アウディはその2025年までにエンジン=内燃機関の開発をやめて、2026年以降に発売する新型車はすべてBEVとする計画をアナウンスしている。それを信じれば、新しいA7が内燃機関を積んだ最後の新型アウディということになるのかもしれない。まあ、最近は急進的なBEV計画を見直す欧州メーカーが増えているので、今後のアウディも路線変更する可能性はなくはないけれど。
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漂う不敵なオーラ
今回のRS 6アバント パフォーマンスも先代同様に、最大のキモはエンジンチューンだ。ベントレーやポルシェ、ランボルギーニなどにも使われる4リッターV8ツインターボは、ターボの大径化(とそれによる過給圧アップ)によって、最高出力が630PS、最大トルクは850N・mとされた。これは標準のRS 6やRS 7比で30PS、50N・mの上乗せとなる。
同じくサスペンションの味つけもパフォーマンス専用という。ただし、通常時は前後40:60で配分する真正フルタイム4WD、エアサスペンション(オプションでコイル仕様もある)に連続可変ダンパー、四輪操舵、リアスポーツデフ、48Vマイルドハイブリッドなどで固められた駆動系やシャシーの基本構成はこれまでと変わりない。
最終のパフォーマンスであってもなくても、エンジンフードが専用に盛り上がり、オーバーフェンダーで幅が左右とも40mmずつ広がったRS 6アバントは、相変わらず不敵なオーラがプンプンである。ただ、「アウディドライブセレクト」でパワートレインやパワステ、サスペンション、エンジン音などをすべて穏当に設定したRS 6アバントの乗り心地は、その不敵なオーラからすると思わず笑ってしまうほど快適だ。
意地悪に観察すれば、サイドウォールが薄いタイヤ特有のコツコツという当たりが、はるか遠方に感じられなくはない。しかし、285幅の30偏平というタイヤサイズを考えると、それはもはやほぼ皆無と評していい。この点についてはサスペンションもすごいが、専用開発のピレリも優秀なのだろう。ドライブモードを「エフィシェンシー」や「コンフォータブル」あるいは「オート」にしておけば、エンジン音も静かで、ATに任せてゆるゆると回しているだけなら不穏な響きも皆無。こういうときのRS 6アバントは、とにかく快適というほかない。
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主張しないV8ターボエンジン
今回のRS 6アバント パフォーマンスで最大の売りとなるエンジンだが、元も子もないことをいってしまえば、もともと600PS/800N・m級の高性能に、30PSや50N・mを上乗せしたところで体感的には大差ない。この4リッターV8ツインターボはとんでもなく速く、エンジン音もそれなりに心地よく調律されていはいるが、これまた誤解を恐れずにいえば、一部のイタリアンスーパースポーツのように、その存在感を前面に押し出しているわけでもない。ことさら大騒ぎするでもなく、冷徹に仕事をこなしていく心臓部だ。
このクルマでエンジンが目立たない理由は、エンジン本体の冷静沈着さだけでなく、そのパワーやトルクを受け止める車体やシャシー、駆動系の能力が圧倒的だからでもある。快適至極の柔らかなフットワーク設定のままで630PSと850N・mを解放しても、足取りが取っ散らかるわけではない。ロールやピッチングは最小限で、アクセルを踏めばきっちりと前に進めて、ごく普通に曲がる。
最新のアウディRSに共通するディテールに「RSボタン」がある。これはBMWのMなどに用意されるものと同様で、エンジンやシャシーの各設定を自由に組み合わせて、「RS1」「RS2」という2パターンのセッティングを保存して、即座に呼び出せる機能だ。
そのRSボタンで、パワトレ、パワステ、サスペンション、リアスポーツデフ……をすべて硬派な「ダイナミック」に統一して、さらに横滑り防止装置も「スポーツ」モード(完全オフにもできるが推奨はしない)にすると、RS 6アバントはとんでもなく高い機動性を発揮する。
RS 6アバントはここにいたり、アクセルを踏めば踏むほど、面白いように曲がるのだ。それでいて、まったく跳ねずにタイヤは路面に吸いついたまま。ライントレース性もまるで乱れず、ドライバーに不安感を与えるような挙動も皆無。タイトコーナーから長時間Gがかかり続ける高速コーナーまで、コントロールは自由自在。安定性と機動性の両立レベルがすさまじい。
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RSならではの高性能車
しかも、面白いように曲がるのに、人工的で不自然な感覚がまるでない。実際には、前後トルク配分にリアスポーツデフ、後輪操舵(100km/h以下の一般道はずっと逆位相)などの電子制御が混然一体となって2.2tというヘビー級の車体を曲げているのだろうが、ドライバーはまるで自分の運転がうまくなったかのように錯覚するだけだ。
資料にはサスペンションがパフォーマンス専用チューンとあるが、どのモードでも特別に硬くなった感はない。おそらくそういう方向の仕立てではないのだろう。
シャシーをフルに締め上げても、乗り心地は暴力的にはならない。舗装が荒れたタイトな山坂道でも一定のしなやかさを保ったまま、走行ペースと機動性だけが上がる。逆にいうと、高ミューのサーキットでは少し柔らかすぎるかもしれない。このレベルの高性能を、一般道でも留飲が下げられる調律で実現している点が、このクルマの真骨頂だと思う。
アウディは今のところ、2033年までに内燃機関を搭載したモデルの生産を打ち切る方針を公にしている。次期型にあたるA7の高性能モデルはプラグインハイブリッド化される可能性が高く、このRS 6アバントのような高度なメカニカル技術が集約したクルマは、これで最後の可能性が高い。だとすれば、これはまさに従来型クワトロの集大成だ。
滑りやすい山坂道で、これほどストレスフリー、かつ自由自在に振り回せるクルマはほかに思い当たらない。それでいて、あくまで上級ステーションワゴンだから、荷物をたっぷりと積めるレジャー特急でもある。ちょっとさえない燃費性能以外、まさに非の打ちどころのないパーフェクトなスポーツ乗用車といっていい。それはアウディRSがずっと追求してきた世界観でもある。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
アウディRS 6アバント パフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1960×1485mm
ホイールベース:2925mm
車重:2200kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:630PS(463kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/2300-4500rpm
モーター最高出力:16PS(12kW)
モーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
タイヤ:(前)285/30ZR22 101Y/(後)285/30ZR22 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.2km/リッター(WLTCモード)
価格:1910万円/テスト車=1963万円
オプション装備:5Vスポークアルミホイール<グロスアンスラサイトブラック>(34万円)/デコラティブパネル<カーボンツイル>(12万円)/プライバシーガラス(7万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2869km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:385.7km
使用燃料:76.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.0km/リッター(満タン法)/5.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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