第330回:「尻下がり」や「逆傾斜」
ご法度デザインに挑戦したクルマたち
2014.01.17
マッキナ あらモーダ!
おそ松くんと「アルファスッド」
子どもの頃見た、故・赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』アニメ版に、こんな場面があった。いきさつは忘れたが、登場人物たちが駕籠(かご)を担ぐことになった。すると、西洋かぶれのイヤミが、「最新のクルマは、前が長くて後ろが短いのが流行ざんす」といったことを言いだし、竿(さお)の長さを前後不均等にしてしまう。当然のことながら、担ぎ手は大混乱、というものだった。
「前が長くて、後が短い」といえば、ジウジアーロが1971年の「アルファ・ロメオ アルファスッド」で初めて大衆車の世界にもたらし、たちまち広まったコーダトロンカスタイルがある。それがまわりまわって、日本のアニメにまで影響を与えたかと思うと、なかなか面白い。
今回はクルマのデザインのお話、特に「ご法度」なデザインに挑戦したクルマたちを採り上げよう。
拡大 |
尻下がりをキャラクターに変えた「イプシロン」
「トヨタ・センチュリー」や「日産キューブ」のように最初から速く見せることから決別した例を除き、古今東西のカーデザインを支配してきたのは、「止まっている状態でも、スピード感があること」であった。
そうした観点から不利とされてきたのは、尻下がりのデザインだ。
辛酸を舐(な)めた代表例は、1963年の2代目「ダットサン・ブルーバード」(410型)である。ピニンファリーナのデザインであったにもかかわらず、「お尻が下がって見える」ことから不評を買い、後期型ではその部分が改められた。ジャガーなど一部を除いて、テールが下がったお尻が重いデザインは、ご法度だった。
その長年の禁を破ったのは、1994年の初代「ランチア・イプシロン」である。エンリコ・フミアによるデザインは、ウエストライン、それもかなり太いベルトラインが後方に向かって下降していた。しかし真横から見ると、その尻下がりは、描かれた弧の力強さを表現するための一手段であることがわかる。
その下降モチーフはフミアが現場から離れたあともイプシロンのキャラクターとなり、現行の3代目までニュアンスを変えながら継承されている。
面白いのは、「CLA」や新型「Sクラス」といった近年のメルセデス・ベンツも後方に向かって下降するサイドラインを試みていることだ。メルセデスの場合、リアフェンダーでそのラインを止めているものの、尻下がりデザインを跳ねるような力感に転化させているのが秀逸だ。
常識を打ち破れ!
フロントデザインにおけるご法度への挑戦といえば、6代目「三菱ギャラン」、初代「ディアマンテ」といった1980年代後半における三菱車の、逆スラントノーズだろう。その源流は、1970年代の「ギャランGTO/FTO」さらにいえば一部の米国車やBMWにさかのぼるが、空力を後ろ盾にスラントノーズ派が安定多数を占めた時代になってからも、その逆に挑戦した三菱は勇気があった。
ピラーでもご法度への挑戦があった。
Cピラーが逆に傾斜した、いわゆるクリフカットは、「フォード・アングリア」、「シトロエン・アミ6」、そして日本の「マツダ・キャロル」などの時代はモダンとされたが、次第にルーフが重く覆いかぶさるようにみえてきたようで、その後主流にはなり得なかった。
それをようやく克服したのは2001年の「ルノー・アヴァンタイム」、2002年の2代目「ルノー・メガーヌ」3ドアおよび5ドアハッチバックであった。完全なクリフカットとはいえないが、直後の巨大なテールランプとバランスをとることによって、新鮮な印象を醸し出している。
最近の製品で、時代が時代ならご法度であったと思われるデザインは、「シトロエンDS3」のBピラーである。リアフェンダーから上に伸びる途中で視覚的に伸びが中断されてしまっている。今でこそクールなデザインだが、これも世が世なら、それなりに賛否の対象となったに違いない。
カーデザインが世界各国の保安基準をはじめとする制約に拘束されて閉塞(へいそく)感が漂う時代だからこそ、ボク個人的には長年の常識から逸脱したデザインをこれからも期待してやまない。
ちなみに、最も初期にボクが接した「速そうに見える」「逆反り」デザインといえば、小学生時代に遠足のたび乗っていた観光バスだ。アメリカの長距離路線用バスを模した平行四辺形のサイドウィンドウが採用されていた。
いやはや、これがまいった。経年変化とともにゆがみやすく、まともにスルッと開けられることはまれだった。今思えば、ボディー剛性という言葉をまだ知る前に、それを感じていたのだった。そうしている間に室内の換気が悪くなり、同級生の伊藤さんの気分が悪くなった。
観光バスといえばスケルトン構造+はめ殺し大型ウィンドウで、ハイパワーなエアコンが当たり前の、今日の子どもにはあの苦労、わからないだろうな。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、Italdesign-Giugiaro、日産自動車、Citroen)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの 2026.7.16 アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。
-
第969回:裏地に『大脱走』! ピッティ・イマージネ・ウオモと自動車模様 2026.7.9 イタリアで開催された世界屈指の紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」を、現地在住の大矢アキオが取材。自動車にまつわるアパレルの最新トレンドを探り、新興ブランドのひたむきさと、老舗の刻んできた年輪に触れた。
-
第968回:初代「ルノー・トゥインゴ」は「フィアット500」と同じ旋風を起こせるか? 2026.7.2 リバイバルデザインの新型「ルノー・トゥインゴ」がデビューしてはや3カ月。このクルマの登場により、オリジナルにあたる初代がネオヒストリックとして脚光を浴びることはあるのか? 「フィアット500」の例を振り返りつつ、欧州在住の大矢アキオが考察する。
-
第967回:初代「トヨタ・クラウン」や“ヨタハチ”が「ミッレミリア」を走った! 2026.6.25 イタリアの歴史あるヒストリックカーラリー「ミッレミリア」に、日本のクルマが初めて参加! 石畳の道を行く初代「トヨペット・クラウン」に「トヨタ・スポーツ800」「2000GT」「スープラ」の姿を、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第966回:フェラーリ・ルーチェ 地元イタリアで一般人はこう見た&大矢的こころ 2026.6.18 その斬新すぎるデザインで物議を醸している、フェラーリ初の量産電気自動車「ルーチェ」。このクルマは、おひざ元のイタリアではどのように受け止められているのか? かの地において自動車史と自動車文化をつぶさに見てきた大矢アキオがリポートする。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。