ルノー・キャプチャー インテンス(FF/6AT)
ルノーは10年先を行く 2014.02.04 試乗記 ルノー期待の新型クロスオーバー「キャプチャー」が日本上陸。「Explore(冒険の旅に出る)」をイメージして開発されたニューモデルの、走りと使い勝手を試した。都会での冒険に似合うクルマ
これは、冒険のクルマである。ルノーの新しいデザイン戦略の中で示されたロードマップでは、2番目のライフステージである“Explore”に向けられたモデルなのだ。恋に落ちたふたりが世界をめぐる冒険に出かけるためのクルマが「ルノー・キャプチャー」だというわけである。最初の“Love”は「デジール」が担っていて、筋としてはまずはそこで誰かと出会わなければならない。デジールはコンセプトカーだから販売していないので、出会いに関しては「ルーテシア」が担当しているようだ。
コンパクトクロスオーバーというカテゴリーに属すクルマで、冒険というキーワードはそこから来ているのだろう。ヨーロッパではモノスペースがシェアを減らしているのと反比例して、このジャンルが勢いを増しているのだという。長らく「日産ジューク」が首位の座を守ってきたが、このキャプチャーが急追しているらしい。「プジョー2008」も登場することだし、このところBセグメントのSUVが活気を呈してきているのだ。
試乗に出かける前に撮影場所として強力にレコメンドされたのは、渋谷に最近できたスタイリッシュなビルの敷地だった。このクルマの都会的なイメージをアピールするための提案だったようだが、時間の都合で都心部に向かうことを諦めた。大いに反省している。冒険をテーマに掲げながらも、このクルマに荒れ地や岩山が似合うとは思えない。心の中では未知なる場所へのあこがれを抱きつつも、実際にキャプチャーが走って似合うのは都会だろう。泥にまみれた姿など、想像したくない。
シートの表皮は取り換え可能
そもそも、4WDは用意されておらず、プラットフォームやメカニカルパーツはルーテシアと多くを共用している。ルノーではキャプチャーの特徴をハッチバック並みの走行性能、SUVライクなデザイン、ミニバンの実用性の3つを実現することだとうたっているのだ。エンジンはルーテシアと同じ120psの1.2リッター直噴ターボエンジンで、6段デュアルクラッチトランスミッションが組み合わされる。
グレードは「インテンス」と「ゼン」の2種類だ。上級版のインテンスでは、エクステリアのカラーがツートーンになり、ホイールがゼンの16インチに対し17インチとなる。内装では表皮を取り外して交換できる「ジップシートクロス」が採用されていて、ゼンではオプションでも選ぶことができない。2つのグレードの価格差はわずか10万円で、ルノーではほとんどの顧客がインテンスを選択すると考えているようだ。
このジップシートクロスはジッパーだけではなく面ファスナーで固定するようになっている凝ったもので、本体とズレて動いてしまうようなことはない。取り外して洗うことができるので、衛生的にはありがたい話である。長年乗り続けているクルマのシートにどんな汚れがたまっているのか、想像するだに恐ろしい。デザインは8種類あって気分によって付け替えることができるが、一式で約5万円だから全種類そろえる人はあまりいないだろう。ちなみに、取り外した状態では面ファスナーが露出してしまうので、ニットを着ているとくっついてしまいそうだ。シートクロスを装着せずに使用することは想定されていない。
高級感と都会的なイメージを演出
試乗車は、オレンジのボディーカラーに黒のルーフを合わせたインテンスだった。ホイールが精悍(せいかん)なブラックなので、2色だけで塗り分けられてメリハリのきいた印象になる。フロントグリルに配されたルノーのエンブレムは巨大で、ずいぶん押し出しが強くなった。全高は1565mmと抑え気味で、グラスエリアが薄く見えることからクーペとSUVとの中間的なフォルムになっている。
ボディーカラーに合わせてシートクロスもオレンジと黒のコンビになっていて、ちょっと気恥ずかしいほどの鮮やかさだ。ステアリングホイールやダッシュボードの一部はピアノブラック仕上げで、都会的なイメージと高級感を演出している。メーターパネルは中央がデジタルのスピード表示、両側にアナログの文字盤を配したハイブリッドタイプである。
ダッシュボード中央にあるスタートボタンを押して発進すると、なんだか動きがもっさりしている。妙だと思ってメーターを見ると、ECOのランプがともっていた。ECOモードを選択すると、燃料消費を約10%抑えるためにエンジントルクやアクセル操作に対するレスポンスが変更されるのだ。解除すると、明らかに反応が変わった。キビキビ走りたいときには、ノーマルモードを選択したほうがよさそうだ。
乗り心地は、思いのほか硬い。17インチホイールが装着されていることが影響しているのかもしれないが、インテンスでは16インチを選ぶことはできない。着座位置のおかげで視点は高く、東京都内の狭い道でも運転しやすいだろう。1.2リッターという排気量なので、ターボ付きといえども圧倒的な加速は期待できない。冒険のフィールドは都市に限られているのだから、これで十分なのだ。
コンセプトカーと同じチームがデザイン
試乗会場のカフェに戻ってお茶を飲みながら窓の外を眺めていたら、懐かしいクルマが現れた。2002年に日本に導入された「アヴァンタイム」である。……と思ったのは錯覚で、ブルーのボディーカラーに白のルーフを組み合わせたキャプチャーだった。しかし、色の組み合わせが本当にアヴァンタイムとそっくりなのだ。そして、なんとなく上部のデザインに面影がある。
2ドアのミニバンというアヴァンギャルドな成り立ちだったアヴァンタイムは、当時ルノーのデザインを革新しつつあったパトリック・ルケモンが主導したクルマだった。2009年からはローレンス・ヴァン・デン・アッカーが後を引き継いでいるが、彼はルケモンにリスペクトの念を持っていて、継承すべきものはそのまま残している。ルノーのデザイン重視の路線は、いささかも変わっていない。
キャプチャーは、コンセプトカーを担当したデザインチームが、そのまま市販モデルを手がけたそうだ。だから、もともとあったモチーフを極力残そうとしたのだろう。たとえば、コンセプトカーでシートが平行する何本ものコードで作られていたのは、市販車では「フロントシートバックコードポケット」という形で実現されている。隙間が大きいから細かいものを収納するには苦労しそうだが、ここは譲れないところだったのだろう。
デザイン優先で、実用性がおろそかになっているわけではない。ラゲッジ容量は377リッターを確保しているし、リアシートを前にスライドさせると455リッターまで拡大する。荷室側からスライドを操作することもできて、レバーがとても使いやすい形状になっているのはちょっと意外にも思えた。もちろん、リアシートは折りたたむこともできて、その場合は1235リッターのスペースが出現する。
あんなにぶっ飛んでいるように見えたアヴァンタイムも、今になってみれば普通に魅力的だと思える。どうやら、ルノーのコンセプトは10年ほど先を行っていたようだ。キャプチャーは、先進的なデザインながら、今すぐ乗るのにためらう必要はない。10年後にならないとわからない要素が隠されているかもしれないが、これは冒険のクルマなのだ。
(文=鈴木真人/写真=小河原認)
テスト車のデータ
ルノー・キャプチャー インテンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4125×1780×1565mm
ホイールベース:2605mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6AT
最高出力:120ps(88kW)/4900rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/55R17/(後)205/55R17(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:--
価格:259万8000円/テスト車=259万8000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:981km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:90.4km
使用燃料:--
参考燃費:--
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。