ランドローバー・レンジローバー スポーツHSE(4WD/8AT)
別世界のSUV 2014.02.11 試乗記 2代目となった「レンジローバー スポーツ」に試乗。よりハンサムなルックスと、スポーツサルーンに比肩する走りを得た新型の魅力に触れた。銀幕がよく似合う
現行「レインジ・ローバー」がテールコート(えんび服)だとしたら、新型「レインジ・ローバー・スポーツ」は、尻尾の部分を切り落としたタキシードでありましょう。あくまで比喩なので、少々のズレはあるとして、こういうのを毎日着る生活も、憧れる一方、『グレート・ギャツビー』の世界を思ってしまうとタイヘンでありましょう。レインジ・ローバーは、現代のギャツビー、超富裕層の世界に住んでいるクルマなのである。
8年ぶりに全面改良を受けた新型レインジ・ローバー(以下RR)スポーツは、2013年3月、ニューヨークでお披露目された。ダニエル・クレイグのドライブでステージに姿を現し、会場から拍手喝采を浴びた。私はランドローバーのサイトでビデオを見ただけですけど、ダニエル・クレイグはグレーのスーツ姿で、『ドラゴン・タトゥーの女』の無精ひげの新聞記者ではなくて、ジェームズ・ボンド風のいでたちだった。ランドローバー史上、最も高いダイナミック性能を持つとされる2代目RRスポーツはイギリスの諜報部員の秘密兵器! というイメージなのである!!(と、ここで「007のテーマ曲」入る)
ボディーもタイヤも特大サイズ
かくして私はダニエル・クレイグ気分で、新型RRスポーツのドライバーズシートによじ登った。そこは一般庶民の乗るミニバンなどよりもひときわ高い地位、じゃなかった、位置にあった。「コマンド・ドライビング・ポジション」と呼ばれるゆえんがあらためてわかった。そして、ものすごくでっかいモノに乗っている感覚があった。コマンダー(海軍中佐)の指令車気分なのであった。
コマンダーではない私は、コマった。全長5m弱はいいとして、全幅は1985mmもある。ほとんど2m。「フェラーリ458イタリア」より5cmも幅広い。「ランボルギーニ・アヴェンタドール」は2m超だから、それよりは狭いけれど、スーパーカー並みなのだった。全高は1800mm。コマンドの着座位置だと、左端がまったくわからず、コマンド。もう、ええっちゅうねん。
知ったことか、と走りだす。ピレリのSUV用エコタイヤ「スコーピオン・ヴェルデ」は255/55R20と、近頃の本格SUVの例に漏れず、ものすごくでっかい。それはそうである。でっかい身体を支えるにはでっかい靴が必要なのだ。もちろん、いわゆるバネ下がドタドタしたりはしない。電子制御のエアサスペンションの恩恵だろう。ボディーロールをおさえる「ダイナミック・レスポンス」(「テレインレスポンス2」、副変速機とのセットオプション)もいい仕事をしているに違いない。
2.3トンの重さを感じさせない
この乗り味は、上屋が重いこともあるだろう。現行RRと並行して開発された2代目RRスポーツは、RR同様、オールアルミのモノコックボディーを持つ。「ディスカバリー」ベースだった初代と比べ、ボディーは大きくなっているのに、車重は240kgも軽くなっている。とはいえ、テスト車の場合はガラスサンルーフと副変速機を装備しているため、絶対的には重くて、2310kgもある。
えっと、どっちなんだ?
軽いのか重いのか? 絶対的には重いけれど、相対的には軽い。で、軽いが勝っている。なぜなら、運転していて、このクルマは「軽やか」だと感じるからだ。
なぜなんだろう?
自動車の不思議である。バランスの妙、味付けに秘密のレシピがあるのかもしれない。ともかく、ドライビングフィールがなにに近いかといえば、「ジャガーXJ」である。これは、まぎれもなく英国のスポーツサルーンである。パワートレインが基本的にジャガーと同じだということはもちろんある。同じ人たちがつくっているのだから当然、ということもあるだろう。
フルタイム4WDはオプションの副変速機が付いているので、前後トルク配分の基本は50:50である。それなのに後輪駆動っぽく曲がるのは、アンダーステアを制御するトルクベクタリングの恩恵なのかもしれない。
ハイウェイもワインディングもさまになる
試乗車のスーパーチャージャー付きV6エンジンは機械式過給で低速からトルクがあるのは当然としても、6800rpmの高回転までのびやかに、気持ちよさげに回って、快音を発する。ジャガーと同じ野生のサウンドだ。ZFの8段オートマチックは、いつシフトアップしたの? 今でしょ、という感じで、パドルシフトに触れる必要すらない。前述したごとく、電子制御のエアサスは完璧な仕事ぶりで、腰高であるにもかかわらず、妙な動きを一切しない。前後重量配分は52:48とバランスよさげで、それに数多(あまた)の電子制御を組み合わせることで、ごくナチュラルなフィールを生み出している。高速も低速コーナリングも不安感なくこなすどころか、得意科目なのである。東名高速道路の大井松田あたりの高速ワインディングを滑らかに疾走している姿を想像してみてほしい(と、ここで「007」のテーマ曲)。
RRと比べると、ボディーが違うわけだから、部品総点数の75%が新しいというのももっともな話である。2920mmのホイールベースは同一ながら、若干短く、若干低い。210mmという最低地上高はRRより10mm低い。オンロード重視であるため、副変速機をオプション設定にしている。見かけの価格を下げる狙いもあるのかもしれない。オプション装着できるところにオフロード4×4専門メーカーのプライドがある。
現代版ギャツビーのためのクルマ
RRのV6スーパーチャージドと比べると、ファイナルのギア比が若干低められている。カタログ燃費が8.5km/リッターから8.4km/リッター(JC08モード)に落ちているのはそのためだ。とはいえ、現代のギャツビーにとって、そういうのは細かい、どうでもいいことだろう。
RRスポーツの日本仕様のエンジンは、3リッターV6と5リッターV8の2本立てで、いずれも機械式過給器ユニットとなる。V6モデルは「SE」と「HSE」、装備の違いで2種類ある。5リッターのトップモデルはRR同様、「オートバイオグラフィー」と呼ばれる。RRスポーツは、オンロード重視の「ポルシェ・カイエン」対抗モデルであり、RRのディフュージョン版である。価格は今回試乗したV6の高級版、HSEで903万円。同じエンジンを積むRRは1230万円で、300万円以上お求めやすい価格設定になっている。ちなみに、同じエンジンを積むジャガーは1100万円。でも、現代のギャツビーにとって、そういうのはどうでもいいことに違いない。デイジーの気をひくためだったら、なんだって買っちゃうのである。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツHSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1985×1800mm
ホイールベース:2920mm
車重:2310kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージド
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/55R20/(後)255/55R20(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:8.4km/リッター(JC08モード)
価格:903万円/テスト車=1066万8000円
オプション装備:インテリアトリムフィニッシャー<グランドブラック>(5万8000円)/プレミアムメタリックペイント(9万円)/Meridianオーディオシステム<825W>(20万3000円)/4ゾーン・フルオートエアコンディショナー(15万円)/リアシートエンターテインメント<8インチ>(32万円)/スライディング・パノラミックルーフ(25万円)/ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)キューアシスト機能、インテリジェント・エマージェンシー・ブレーキアシストおよびアクティブシートベルト付き(23万円)/フロアマット(1万7000円)/オフロードパック(24万7000円)/パドルシフト ノーブルクロム仕上げ(8000円)/ウェイドセンシング・ブラインドスポットモニターおよびリバーストラフィックディテクション(6万5000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:6479km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:248.4km
使用燃料:36.6リッター
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。