スズキ・ハスラー X(FF/CVT)
走るビタミン剤 2014.02.24 試乗記 ユニークな見た目で話題の新型軽「スズキ・ハスラー」。では、実際に乗ってみたらどうなのか? 燃費を含め、クルマとしての仕上がりを報告する。メカニズムは手堅い
「ウワ~イ!」とか「キャッホ~ッ!」とか、なんだか楽しい「スズキ・ハスラー」。性能やメカニズムなどを考えるより、“この子”といっしょに何しようかと、いろいろ明日からの暮らし(いや、生き方かな)に思いを巡らせてしまうところに、本当の値打ちがある。クルマは「乗る」ためより「何かをする」ためにあることを考えると、これこそ心から愛すべきクルマかもしれない。
それはそれとして、まずはどんなクルマなのか紹介しようと思ったが、ほとんど全面的に「スズキの軽」というだけで、誰でもわかってしまうほど手堅い仕立て。だから危うさを感じさせず、楽しさばかり迫ってくるのだろう。
基本となるプラットフォームの大半は、「ワゴンR」などスズキの人気車種と共用。フロントに横置きの3気筒660ccエンジンは自然吸気(52ps)とターボ(64ps)の2種類で、徹底的な摩擦損失低減対策やアイドリングストップはもちろん、減速時にエネルギーを専用のリチウムイオン電池にため込む「エネチャージ」まで駆使した結果、トール系の軽でトップクラスの低燃費(自然吸気のFFが29.2km/リッター、4WDが28.0km/リッター、ターボは26.8km/リッターと25.0km/リッター、いずれもCVTの数値)を誇る。変速機はFFが5段MTとCVT、ターボはCVTのみ。つまりメカニズム面では現行スズキ軽の文法そのものだ。
中も外もヤル気にさせる
ストンと素直に角張った2ボックスボディーのパッケージングも、ワゴンRなどで手慣れた構成。左右別々に16cmもスライドするリアシートでは、膝の前にげんこつ2個半を超える空間が残る。天井までの余裕は言うまでもない。もちろんシートは折り畳み可能どころか、助手席のバックレストも完全に前に寝かせられて、2m近い長尺物も楽々とのみ込む。
そして、これらの機能より注目すべきは、デザインというか見せ方。ちょっとユーモラスで威圧感のない顔つき、ボディー外板色をそのまま回し込んだダッシュボード(車種による)、簡潔に整理されたメーターやスイッチ類、グワシと踏ん張り感が満々の165/60R15のタイヤと、その存在を際立たせるフェンダーフレアなど、どの角度から眺めてもたくましい道具感が濃密に漂う。
さらに決め手は180mmの最低地上高(ワゴンRより25mm高い)だけでなく、28度ものアプローチアングルと46度のデパーチャーアングル。さすがに「ジムニー」ほどではないが、どこへでも平気で行けそうな“ヤル気ムンムン・マシン”だ。
驚きの走りと燃費
そんな楽しさの予感は、乗れば乗るほど確信へと変わる。何より感心なのは、ちっとも荒っぽくないこと。まず乗り心地に納得。タイヤが重いためか、荒れた路面ではワゴンRより少しドタドタ感ずるけれど、大きなうねりでも驚くほどフラットに通過する。後席では上下動が気になるという声もあるが、ガツンと硬い突き上げ感や底突き感はない。かつて軽といえばダンパーのチープさが気になった時代もあったのを思い出すと、まったく雲泥の差だ。
音も、決して静粛とは言えないが、前席のドライバーにとっては納得できる範囲。今回テストした「X」は自然吸気のFF、つまりベーシック級の性能で、パワーが必要にして十分とはいえ、アクセルは強く踏み込み気味で高回転を常用しがちだったから、それにしては上出来だ。ほぼ同時に短時間だけ乗ったターボは低回転域のトルクが豊かなぶん、一段か二段は静かに走れる。
自然吸気モデルの燃費は殊勲賞もので、大人3人と撮影機材を背負い、けっこうハイペースだったのに16km/リッター以上の実用燃費を記録した。一般的には、たぶんこれ以上の酷使状態はないだろうから、27リッタータンク(レギュラーガソリン)による航続距離は400kmより長くなる。
全高が1.6mを超えるばかりか、着座位置がワゴンRより2cm以上も高いのに、コーナーでも重心の高さからくる不安感は少ない。ステアリング操作に応じて素直に曲がってくれるので、ロールもスッとした感じだし、少しばかり強引に攻めたつもりでも、4輪はしっかり接地状態を保ちきる。
乗ると元気が湧いてくる
そして、高い地上高と大径タイヤは、未舗装路で絶大な戦力を発揮する。ブルドーザーで簡単にならしただけのような不整地でも、腹や顎を打つ心配がないのは心強い。愛嬌(あいきょう)たっぷりのルックスだが、実力はウェポン級だ。
こんな使い勝手につけては、本当は軽の商用バンが一番なのだが、乗用車としての快適性も考えると、ハスラーは最良の妥協点といえる。
つまりスズキは、あらゆる楽しみの種をまくことのできるプランターを仕立ててくれたわけで、それだけに気になることもある。果たして私たちには、ハスラーの可能性を使い切る(クルマとして使い倒す)だけの力量があるだろうか? 何もかもクルマ(と装備)に頼る軟弱な甘ったれ精神が普通になってしまった今、ハスラーの向こうに何を見ることができるのか、うんと厳しく自分を問い詰め直す必要はあるだろう。
そういう意味では、いろいろなクルマを味わい尽くした人ほど、初めてオーナーになった昔の新鮮な気分を思い出すかもしれない。そうだ、昔といえば、ハスラーは往年の名作トレイルバイクの名称だった。当時はモトクロスイメージなのに街でも使えるストリートスクランブラーが流行したものだ。そんな目で見ると、新しいハスラーは、四輪のモタードと呼べるかもしれず、わけもなく元気が湧いてくるのも当然だろう。「走るビタミン剤」ですね。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
スズキ・ハスラー X
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1665mm
ホイールベース:2425mm
車重:800kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:29.2km/リッター(JC08モード)
価格:136万9200円/テスト車=148万4700円
オプション装備:2トーンルーフ<ホワイト>(4万2000円)/スマートフォン連携ナビゲーション(7万3500円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1366km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:376.0km
使用燃料:23.1リッター
参考燃費:16.3km/リッター(満タン法)

熊倉 重春
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