メルセデス・ベンツS63 AMG 4MATIC ロング(4WD/7AT)
Sクラスの大本命 2014.03.17 試乗記 「AMG」のスリーレターが示すものは、速さやスポーティーさだけではない。豊富な装備を備え、過剰なまでに豪華に装った「S63 AMG」は、Sクラスのひとつの理想形と呼べるオーラと実力を備えていた。シリーズ中のベストと太鼓判を押したい一台だ。見てよし、走ってよし
クルマ好きには“W116型”として知られる、1972年にデビューの初代「Sクラス」。昨年登場の“W222型”現行Sクラスは、その初代から数えると6代目となる。
メルセデス・ベンツを凌(しの)ぐ、さらなる高みを目指して導入された超高級車ブランド「マイバッハ」が、もくろみ通りのシナリオを演じることなく戦線離脱。その受け皿としての意味も含め、ロングボディーをさらにストレッチした“スーパーロング”仕様の新設もうわさされるなど、世界のフラッグシップモデルとしてのステータスをさらに盤石なものにしようという意図が顕著に感じられるのが、最新Sクラスのひとつの特徴と言ってもいい。
標準ボディーでも軽く5mを超える全長の中で、威風堂々としつつもある種4ドアクーペ調の流麗さをも両立させたアピアランスは、メルセデスのトップモデルとしての威厳を明確にアピールしながらも、同時にカジュアル感とスポーティーなテイストも巧みに表現する、なかなかに秀逸なもの。
アルミニウムの使用率を50%以上にまで高めつつ、「ねじり剛性はクラス最高値」と誇らしげにうたう「アルミニウム・ハイブリッド・ボディーシェル」の中に、このブランドがかねてから熱心に開発を続けてきたドライビングアシスト機能を筆頭とするさまざまなアイテムが満載されている。そんな新型Sクラスに対しては、すでに世界で「称賛の嵐」が渦巻いている。
同時に、新しいSクラスの見どころとして、ライバルに類を見ないそのインテリアの、個性的かつちょっとネオクラシック風な装いも大きいのではないかと思う。
極端なハナシ、「インテリアの仕上がりだけでも立派な購入動機となり得る」と感じられるのは、歴代モデルの中でもこれが初めてではないか? そう思えるのが、最新のSクラスだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“過剰さ”に磨きをかける
“多気筒崇拝”のユーザーがいまなお少なくないというアメリカ市場に向けて設定されたことが明らな、12気筒エンジン搭載の「S65 AMG」。これを別格とすれば、歴代モデル以上に世界の頂点を目指した姿勢が明確な新型の中でも「特にエクスクルーシブな存在」が、今回試乗した「S63 AMG」だ。
よりダイレクトな加速の感覚と高い伝達効率を狙い、トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを用いた7段ATと組み合わされたエンジンは、最高で585psを発生する5.5リッターのツインターボ付き直噴V8ユニットである。同じツインターボ付き直噴V8ユニットでも、排気量が4.7リッターの「S550ロング」用は455psだから、最高出力の上乗せは130ps。900Nm(91.8kgm)という最大トルク値も、200Nm(20.4kgm)増しである。そんな心臓を積むこのモデルが「より強靱(きょうじん)な動力性能を売り物としたモデル」であるのはもちろん疑いない。
けれども、こうして強心臓を搭載しつつも「だからよりスポーティー」とばかりアピールするわけではないのが、昨今の多くのAMGモデルのやり方。このあたりが常に直接のライバル視されるBMWの「M」モデルとの、最大の戦略の違いとも受け取れる。
実際、S63 AMGはたとえショールームで「一番“上等”なSクラスを持ってこい!」と注文されても、セールスマンが臆することなく推薦するにふさわしい内容の持ち主である。贅(ぜい)を尽くした幾多の装備群は、S550に何ひとつ見劣りする部分がない。
見方を変えれば、「S550をベースに、さらに惜しみなく運動性能を磨き上げたのがS63 AMG」と紹介してもいいだろう。
そもそも、“過剰さ”の競演こそが勝負どころともなっているのが、こうしたカテゴリーのモデルたち。S63 AMGは、その過剰ぶりに輪を掛けた、真に特別なSクラスでもあるということだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“凶暴”にも、ジェントルにも
0-100km/h加速、わずかに4秒フラット――もはや“凶暴”とさえ思えるそうした怒涛(どとう)の加速力を、しかしアクセルペダルをごくわずかに踏み込むにすぎない日常シーンではまったくおくびにも出さないことが、まずはこのモデルの走りのすごさの第一点。
他のメルセデス・モデルと同様の流儀で2速発進を行うコンフォートモードを選択し、穏やかなアクセルワークに徹する限りは、このモデルのフラッグシップサルーンとしてのジェントルな振る舞いは、まさに世界の第一級だ。
もちろん、こうした状態でも加速のポテンシャルは十二分に高い。ターボ付きエンジンながら、あるポイントからトルク感が急激に高まるようなトリッキーさがなく、加速のリニアリティーがごく自然であるのも、例えばショーファードリブンとして用いられるようなシーンでは、重要な”性能”として評価したくなるポイントだ。
アクセル線形がよりシャープさを増し、シフトポイントもさらに高回転寄りに移動をするスポーツモード、もしくは、変速がドライバーの操作に委ねられるマニュアルモードを選ぶと、同時にV8エンジンならではの排気サウンドも迫力を増す。
ただし、それでも昨今スポーツモデルで流行(?)のアクセルオフ時の“パラパラ音”はほとんど耳に届かず、ボリュームそのものも全体に控えめ。同じエンジンを積む「E63 AMG」に比べると、その演出がグンとジェントルなのは間違いない。
端的に言えば、サーキットさえ似合うE63 AMGに比べ、こちらはさすがにそこまでホットな走りのシーンは想定されていない印象。同じ心臓を用いつつ、そうした味付けの差別化を具現させたのは、なかなか見事なものでもある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
シリーズ中ベストのフットワーク
しかし、そうした圧倒的な動力性能もさることながら、テストドライブ中、終始“感心至極”だったのは、そのフットワークの仕上がり具合であった。
実は、今回のモデルの乗り味は、「S400ハイブリッド」、そして「S550ロング」とこれまで自身が経験をしてきた新型Sクラスの中で、間違いなく「ベスト」と思えたもの。すなわちここでも、このモデルが“最上級のSクラス”と呼ぶにふさわしいことを、再確認させられることになったわけだ。
今回のテスト車が、標準比1インチプラスの20インチのファットなオプションシューズを履いた上に、より高い運動性能にフォーカスをしたAMGチューニングによるサスペンションを採用しながら、そうした好印象を味わわせてくれた大きな理由――そこには、すべての新型Sクラス中で唯一、このS63 AMGグレードのみが、サイドウォール補強型のランフラットタイヤを採用せず、パンク対応をリペアキットの搭載で行っていることが考えられる。
各所から絶賛の声が聞こえてくる新しいSクラスの走りのテイスト。しかし、個人的にはこれまでどうしても腑(ふ)に落ちない点があった。
ひとつは、微低速走行時の、まだサスペンションがストロークをしづらい小入力域でのわずかな、しかしシャープな突き上げ感。そしてもうひとつが、逆に大きな入力があるとフロア全体がブルブルと振動し、すぐにはそれが収まらない残留感だった。
当初は「“メルセデスの頂点”ゆえ、ちょっと期待値が高すぎたのか?」と自問自答をしたものだが、しかしすぐに「やはりこれは看過できないポイントだ」と考えを改めた。
そんな喉の奥に引っかかっていた小骨のような気になる感触が、今、スッキリと解消されたのだ。そう、これこそが開発陣が本当に作りたかったSクラスの、真に上質な乗り味に違いない。
実はこれこそが、「大本命のSクラス!」と太鼓判を押したくなる――乗れば乗るほどにそう感じさせてくれる一台だ。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS63 AMG 4MATIC ロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5295×1915×1500mm
ホイールベース:3165mm
車重:2190kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.5リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/5500rpm
最大トルク:91.8kgm(900Nm)/2250-3750rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20 101Y/(後)285/35ZR20 104Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:8.9km/リッター
価格:2340万円/テスト車=2600万円
オプション装備:AMGダイナミックパッケージ(60万円)/AMGカーボンパッケージ(120万円)/Burmesterハイエンド3Dサラウンドサウンドシステム(65万円)/リアセーフティパッケージ(15万円) ※価格はいずれも5%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1799km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:259.3km
使用燃料:47.6リッター
参考燃費:5.4km/リッター(満タン法)/5.6km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)【試乗記】 2026.5.26 販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。
-
NEW
日産リーフB7 G(前編)
2026.5.31思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。初代のデビューから15年余りを経て生まれた3代目はスタイリングも中身も刷新。苦境にある日産を立て直す重責を担っている。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2026.5.30試乗記新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。 -
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟
2026.5.29デイリーコラム既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。 -
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】
2026.5.29試乗記キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。 -
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】
2026.5.28試乗記前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。 -
「日産テラノ」がPHEVで復活 往年のビッグネームを継承するSUVの特徴を分析する
2026.5.28デイリーコラム日産自動車が「北京モーターショー2026」で、往年のビッグネームを継承する新型SUV「テラノPHEVコンセプト」を世界初公開した。初代「テラノ」で採用された「3スロット」を想起させる車両のデザインに加え、日産が新型テラノで狙うグローバル戦略に迫る。



































