メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)
メルセデスの本気と狂気 2024.03.27 試乗記 ハイエンドサルーンならではのラグジュアリネスと、圧巻のパフォーマンスを併せ持つ「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」。車重2.7tのボディーを、最高出力802PS、最大トルク1430N・mの膂力(りょりょく)で動かす巨艦の走りを報告する。AMGの今後を担う電動パワートレイン
メルセデスAMGが、電動化時代の新たなパワートレインとして展開しはじめた「Eパフォーマンス」。2023年1月に国内発売された「メルセデスAMG GT63 S Eパフォーマンス F1エディション」が最初で、続いて同年9月から12月にかけて、「C63 Eパフォーマンス」や同「ステーションワゴン」、今回の「S63 Eパフォーマンス」が発売となった。
Eパフォーマンス(以下、Eパフォ)は、組み合わせられるエンジンやモーターの出力、電池容量などはモデルによって異なるが、基本構造は共通する。電池容量は小さめながら、外部充電可能なプラグインハイブリッド車(PHEV)であることも同じ。EV航続距離は短いのでPHEVである実用上のメリットは小さいが、各国の規制面などでPHEVであること自体に価値があるのだろう。
Eパフォは「AMGスピードシフトMCT-9G」を使ったFRベースの4WDというところまでは、これまでの純エンジンのAMGと大きく変わらない。MCT-9Gは9段ATをベースにトルクコンバーター部分を油圧多板クラッチに換装したものだ。Eパフォはそのリアデフ部分にモーターと2段AT、電子制御LSDを一体化したEDU(エレクトリックドライブユニット)、その上面にAMG独自開発の高性能リチウムイオン電池を置く。
今回のS63をほかのEパフォ車と比較すると、エンジンはGT63 Sと基本的に共通の4リッターV8ツインターボだが、612PSという最高出力は少し低め(900N・mの最大トルクは同じ)。190PSのリアモーター出力はGT63 SやC63のそれ(204PS)より控えめなものの、13.1kWhの電池容量は逆に大きく(GT63 SやC63のそれは6.1kWh)、EV航続距離もこの2台の倍以上となる37kmをうたう。
これらを総合したシステム出力は802PS(!)、最大トルクは1430N・m(!!)。出力はGTより低いが、トルクはEパフォのなかでも最大である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
街なかでのストレスは最小限
電池残量が十分にあるS63は、「コンフォート」や「バッテリーホールド」「スリップリー」「エレクトリック」といった走行モードでは、基本的にエンジンを止めたEV状態で走る。フロントのエンジンにはベルト駆動のマイルドハイブリッド機構も追加されているが、モーター単独での駆動はできないので、こういう場合は基本的にリアモーターによる後輪駆動になる。資料によれば、EV走行時にも動力をフロントにも配分して4WDとなるケースもあるというが、普通にタイヤがグリップしているかぎり、原則は後輪駆動で走るのが大半のようだ。
それにしても、こうして市街地をしずしずと走っているかぎり、その大きさによるストレスが最小限なのはSクラスの伝統というほかない。しっかりとアップライトなドライビングポジションを整えれば、ボンネットも見渡せて、車両感覚はぴたりと把握しやすい。
小回りがきくのもSクラスの美点だ。100km/h以下で逆位相(100km/h以上は同位相)となるリアステアリングのおかげである。5.9mという最小回転半径は絶対的には小さくないものの、この数字は、たとえばホイールベースで20cm以上、全長で30cm以上短い「トヨタ・クラウン セダン」(の燃料電池車)や、さらに1~2クラス下といえる「レクサスES」(の上級モデル)と同等である。
先述のモードではサスペンションも当然ソフトなコンフォートモードなので、今どきのAMGは乗り心地も極上……と思ったら、実際はそこまでいいきれないのは意外だった。車体自体はミシリともいわない剛性感だし、アシが滑らかにストロークしている実感もあるのだが、路面からのコツコツという突き上げは解消しきれていない。これは21インチの「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」の責任というより、約2.7tという超重量級のウェイトの影響か。低速での乗り心地は重いほうが有利とされるが、それにも限度はある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
強烈な走りと不気味なほどの静かさ
4リッターV8ツインターボのフィーリングは、以前試乗したC63 Eパフォ(参照)の4気筒と比較すると明らかにありがたみがあるが、かといって、うなりを上げるようなことはない。追い越し加速でアクセルを踏み込んでもほとんど回転を上げないままだが、間髪入れずにグンッと後ろから押し出してくる。このあたりは、いかにも電動パワートレインである。
ドライブモードを「スポーツ」や「スポーツプラス」にすると、エンジン音にも明確な演出が入る。しかし、それで7000rpmのトップエンドまで回しても、絞り出すような金切り声になるようなことはない。ただ、最大トルクは1400N・m超。不用意にアクセルを踏み込むと、めまいがするほどのキック力で蹴り飛ばされて、ときにクラッチや制御が追いつかないのか、すさまじいショックに見舞われることもある。それでも、エンジンはあくまで涼しい顔のまま(としか思えない)。ある意味で上品ともいえるし、人間に降りかかってくる加速Gの強さに対してあまりに静かなので、不気味(?)に感じられる瞬間もある。
そういえば、あらゆる余剰エネルギーを電力で回収する現代のF1パワーユニットは、静かすぎてつまらないとの批判から、最近ではいかにエンジン騒音を増大させるかという本末転倒(?)の議論がなされているほどである。高性能ハイブリッドとは、そういう世界なのだろう……と勝手に想像する。
搭載されるリチウムイオン電池も、この巨体にしてわずか13.1kWhという容量からも分かるように、加速時はアシスト、減速時はそのための回生をしながら、効率的にパワーを供給するデバイスだ。だから調子よく走っているとあっという間に底をつく(ように見える)かわりに、下り坂や減速が少し続くと、またたく間に残量を回復する。やっぱりPHEVの実利はあまり感じられない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
油断していると牙をむく
この巨体をタイトで荒れた山坂道にもちこんでも、(Gに耐えること以外)なんの肉体的疲労もなく、どこまでも路面に吸いついて、軽快に振り回せてしまうのにはあらためて驚く。そのために、車高も緻密に制御するエアサスペンションに連続可変ダンパー、アクティブスタビライザー、リア電子制御LSD、四輪操舵、そして4WD……といった、ありとあらゆるダイナミクス制御技術が総動員されていることは想像にかたくない。
ただ、調子に乗って走っていると、2.7t、1430N・m、802PS、そして0-100km/h加速3.3秒という規格外のすさまじさが、不意に顔をのぞかせる瞬間がある。
たとえば4WD。Eパフォのそれは、メインではないほうの駆動輪(RWDのクルマならフロント)にモーターを置く電動4WDではなく、従来のエンジン車と基本的に同じ油圧多板クラッチ式によるメカニカルなタイプだ。本来なら、常に最適にフロントにトルク配分してくれるはずだが、モーターによるリアの超レスポンスに追いつかないのか、まるでFRのようにテールが不安定になる瞬間がなくはない。
また、旋回中に予想外の凹凸に蹴り上げられると、ズシンというあまり経験のないショックが伝わってくると同時に、フラッという反動にも見舞われる。というわけで、このクルマを手に入れて、しかもそれをワインディングロードでもんでやろう……などという、酔狂な遊びをお考えの大尽はご注意いただきたい。
撮影後、編集担当のほった君を運転手に見立てて、後席に寝そべり、リアエンターテインメントで動画を視聴しながら帰路につく。なんと極楽なことよ。この時代に複雑怪奇にして重厚長大にすぎないか……としたり顔をしつつも、人間のあらゆる欲望をかなえんとする史上最強のSクラスに、自分までが偉くなったように錯覚するのが人間の性(さが)。本気のメルセデスはやっぱりすごい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5335×1920×1515mm
ホイールベース:3215mm
車重:2690kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT<エンジン>+2段AT<モーター>
エンジン最高出力:612PS(450kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/2500-4500rpm
モーター最高出力:190PS(140kW)/4450-8500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/150-4000rpm
システム最高出力:802PS(590kW)
システム最大トルク:1430N・m(145.8kgf・m)
タイヤ:(前)HL255/40ZR21 105Y XL/(後)HL 285/35 ZR21 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:8.6km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:37km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:34km(WLTCモード)
交流電力量消費率:315Wh/km(WLTCモード)
価格:3576万円/テスト車=4086万9000円
オプション装備:ボディーカラー<カラハリゴールド[メタリック]>(19万円)/ピアノラッカーフローイングラインインテリアトリム(21万4000円)/リアコンフォートパッケージ(98万7000円)/AMGダイナミックパッケージ(154万7000円)/MBUXリアエンターテインメントシステムパッケージ(67万1000円)/AMGナイトパッケージ(58万5000円)/Burmesterハイエンド4Dサラウンドサウンドシステム(91万5000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:2711km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:503.5km
使用燃料:70.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆「メルセデス・ベンツSクラス」の高性能モデル「AMG S63 Eパフォーマンス」発売
◆メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】 2026.2.9 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】 2026.2.6 アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。
-
スズキeビターラZ(4WD)/eビターラZ(FWD)【試乗記】 2026.2.5 スズキから初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」がいよいよ登場! 全長4.3mで、航続距離433~520km(WLTCモード)、そして何よりこのお値段! 「By Your Side」を標榜(ひょうぼう)するスズキ入魂のBEVは、日本のユーザーにも喜ばれそうな一台に仕上がっていた。
-
日産エクストレイル ロッククリークe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.2.4 「日産エクストレイル」に新たなカスタマイズモデル「ロッククリーク」が登場。専用のボディーカラーや外装パーツが与えられ、いかにもタフに使い倒せそうな雰囲気をまとっているのが特徴だ。高速道路とワインディングロードを中心に400km余りをドライブした。
-
NEW
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2026.2.11試乗記フルモデルチェンジで3代目となった日産の電気自動車(BEV)「リーフ」に公道で初試乗。大きく生まれ変わった内外装の仕上がりと、BEV専用プラットフォーム「CMF-EV」や一体型電動パワートレインの採用で刷新された走りを、BEVオーナーの目線を交えて報告する。 -
NEW
誰にいくらでどうやって? トヨタの「GR GT」の販売戦略を大胆予測
2026.2.11デイリーコラムトヨタが「GR GT」で世のクルマ好きを騒がせている。文字どおり一から開発したV8エンジン搭載のスーパースポーツだが、これまでのトヨタのカスタマーとはまるで違う人々に向けた商品だ。果たしてどんな戦略で、どんな人々に、どんな価格で販売するのだろうか。 -
NEW
第102回:フランス車暗黒時代(前編) ―なにがどうしてこうなった!? 愛嬌を失ったフレンチデザインを憂う―
2026.2.11カーデザイン曼荼羅かつては「おしゃれなクルマ」の代名詞だったフランス車。知的であか抜けていて、愛嬌(あいきょう)もある人気者だったのに……最近ちょっと、様子がヘンじゃないか? 攻撃的な顔まわりやコテコテの装飾に傾倒しだした彼らの行き着く先は? カーデザインの識者と考えた。 -
第859回:トーヨーのSUV向け冬タイヤを北海道で試す! アナタのベストマッチはどれ?
2026.2.10エディターから一言トーヨータイヤが擁するSUV向けの冬タイヤに、北海道で試乗! スタンダードなスタッドレスタイヤから「スノーフレークマーク」付きのオールテレインタイヤまで、個性豊かな4商品の実力に触れた。アナタのクルマにマッチする商品が、きっとある? -
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】
2026.2.10試乗記多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。 -
開発したクルマについて、発売後にモヤモヤすることはある?
2026.2.10あの多田哲哉のクルマQ&Aセールスの良しあしにかかわらず、世に出たクルマに対して、その開発エンジニアがモヤモヤと後悔することがあるという。それは一体どうしてか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんが語る。
























































