ボルボXC60 T5 SE(FF/8AT)
人間味が心地いい 2014.02.22 試乗記 新開発の2リッター直噴ターボエンジンと8段ATを搭載した「ボルボXC60 T5 SE」に乗って、東京から北海道までを走破。1200km超のロングドライブでわかった、最新のボルボの魅力とは?1泊2日で東日本を縦走
吹雪でなんにも見えないのだった。ホワイトアウトとはこういう状態をいうのか。札幌から30km北上すると、天候は一変した。ブリザードOh! ブリザード! お先真っ白の世界をソロソロと、時にブレーキを踏んで止まっちゃったりしながら走り続けた。当別町の「本家なかむら」のテールラーメンはボリューム満点で、うまかった。思い起こせば、その本家なかむらを過ぎて、石狩太美駅近くの踏切を越えたあたりが一番すごかった。雪と氷でつくられた「アイスヒルズホテル in 当別」の、耳がとれるぐらい、寒いというよりは痛いオープニングセレモニーに出席した後、私たちは帰路につくべく新千歳空港を目指していた。
新エンジンを搭載した「ボルボXC60 T5 SE」で、東京からここまで、途中、函館で1泊してのロングドライブ。総走行距離1243km。初日は717km走った。ほとんどが東北自動車道で、初日は快晴だった。2日目だって、札幌に近づくまでは冬晴れで、当別町が吹雪だなんて信じられなかった。
限界性能よりインフォメーション
旅の主役は、フェイスリフトを受けたXC60の中でも、フォード製からボルボ自製の新エンジンに載せ替えた4気筒ガソリンのT5である。北海道まで遠征するのだから、T5はてっきりAWDかと思っていたら、6気筒のT6と違って、前輪駆動のFFしかないのだった。いくらヨコハマのスタッドレスタイヤを履いているとはいえ、最低地上高がフツウのクルマより高めであるとはいえ、あるいはいかに北欧生まれであるとはいえ、クロスオーバー、つまりはオフロード風味の乗用車であるにすぎないフツウのクルマで、こんな極寒の地まで東京から走らせるなんて、なんて冒険的なメーカーなんだ、ボルボは! あえて危険地帯に踏み込む! 安全を金看板としてきたボルボだから、できるのか……。
振り返ってみれば、なんてことなかったのである。無事、私たちが生還できたのはひとえにボルボXC60 T5のおかげである。最大の美点は、クルマから発せられるインフォメーションがものすごくはっきり、くっきりしていることである、と私は思う。いま自分がどういう状況にあるのか、ということがたいへんわかりやすい。そして、その限界は、う~ううと、誤解を招きやすい表現であるけれど、はっきり申し上げれば、それほど高くないのではあるまいか。
だから、よいのである、と私は申し上げたい。限界レベルがドライバーの能力を大幅に超えていると、突然奈落の底に突き落とされる可能性がある。運動エネルギーは質量×速度の二乗に比例する。という定理を持ち出すまでもなく、これはじつは、ものすごく大事なことだ、と私は思う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
実用型パワーユニットのかがみ
旅のスタート時に時計を巻き戻してみよう。XC60 T5 SEで東京・大手町を出発したのは、前日の朝7時だった。15時には青森のフェリー港に到着していたから、700km以上の距離を8時間で走った。限界がそれほど高くない、とは書いたけれど、低いわけではない。
2014年モデルの目玉は、前述したように、T5に自社開発した新しい4気筒が搭載されたことだ。昨年、ボルボは「Drive-E」と呼ばれる新世代の4気筒直噴エンジンを発表した。ディーゼルとガソリンの2種類があり、過給機を加えることによって、高効率化を達成しようとしている。いわゆるダウンサイジングの波に、北欧の小さなメーカーも敢然と乗り出したのである。
XC60 T5用の2リッター直4は、82.0×93.2mmという明瞭なロングストローク型で、ターボチャージャーを加えることで最高出力245ps/5500rpm、最大トルク35.7kgm/1500-4800rpmを発生する。従来のフォード製2リッターターボは、それぞれ240ps/5500rpmと32.6kgm/1800-5000rpmだから一目瞭然。アイシンAWの8段オートマチックとの組み合わせもあって、中低速ではトルク十分、高速巡航ではたいへん静か、という実務型の鑑(かがみ)に仕上がっている。
極限状況で本当に大切なこと
基本的には「S60」「V60」と同じ足まわりの乗り心地は、東京周辺のいい路面では、やや硬めながら、たいへん快適だった。ただ、東北自動車道の積雪地帯に入ると、路面からの突き上げを正直に伝える。とりわけ、岩手県の紫波サービスエリアで昼食をとってから以降、実際路面が見た目にも荒れていて、クルマが、XC60 T5 SE君が、「ここは荒れてますよ~」と教えてくれるのである。
100km/h巡航はエンジン回転数がトップで1750rpmと低めにおさえられていることもあって、わずかに風の音しかしない。仮にそれ以上の速度を出したりすると、まず、ステアリングが「スピードが出てますよ~」と警告してくれる。覚悟の上だぁ、とばかりにアクセルを踏み込む。XC60はアウトバーンをぶっ飛ばすドイツ車のようなスタビリティーでもっては応えない。
そんなところに、ホッとするのだ。
私は私の責任で加速する。ボルボ君は状況をはっきりと正直に伝えてくれる。安心感は物理的な状況、私が置かれている立場を隠蔽(いんぺい)することではなくて、オープンにすることから生まれる。そこから信頼感は立ち上がる。人間がドライブする乗り物であるクルマは、人間味がある方がステキだ。だからボルボは愛される。友だちのXC60君とだったら、また北海道まで、喜んで走っていきたい。
(文=今尾直樹/写真=森山良雄)
テスト車のデータ
ボルボXC60 T5 SE(FF/8AT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1890×1715mm
ホイールベース:2775mm
車重:1770kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:245ps(180kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/60R18 107Q/(後)235/60R18 107Q(ヨコハマ・ジオランダーI/T-S)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:559万円/テスト車=647万2000円
オプション装備:メタリックペイント<リッチジャバメタリック>(8万円)/電動ガラスサンルーフ(17万2000円)/自動防眩機能付きドアミラー(3万円)/ステアリングホイールヒーター(2万5000円)/本革スポーツシート(10万円)/ETC車載器<音声ガイダンス機能付き>(2万5000円)/セーフティーパッケージ(20万円)/レザーパッケージ(25万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1274km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:1243.1km
使用燃料:124.3リッター
参考燃費:10.0km/リッター(満タン法)/10.2km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。