ジープ・ラングラー アンリミテッド サハラ(4WD/5AT)/コンパス リミテッド(4WD/6AT)
力の抜けたカッコよさ 2014.03.10 試乗記 先の「グランドチェロキー」に続いては、ハードコアな「ラングラー」とカジュアルな「コンパス」という、対極に位置する2モデルに試乗。雪の白馬で、ジープ・ブランド各モデルの共通項を探った。初代のイメージを受け継ぐモデル――ラングラー
ジープは、もともと米軍の要請で開発された軍用車両で、後に民生用として販売された。1社だけがつくっていたわけではなく、いくつかの会社が軍に決められた仕様を生産していた。第2次世界大戦後に「ジープ」の商標をもっていたのはウィリス・オーバーランド社だが、その後にブランドの持ち主がいろいろと変わり、最終的にクライスラーのブランドのひとつとなった。先日そのクライスラーはフィアットに経営統合されてFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)となった。
かつての軍用車両だったジープの正当な後継モデルが「ラングラー」だ。張り出したフロントフェンダーや丸型ヘッドランプ、7分割グリルなどは当時からの伝統。もともとのジープは軽量・コンパクトなのが売りだったが、現在では軍用車両のベースになるわけでもなく、いわばクロスカントリー・ヴィークルとして存在するので、それなりに大きい。また、2007年に現行のJK型にモデルチェンジした際、2ドアに比べホイールベースを延長して4ドア化した「ラングラー アンリミテッド」が登場。販売の主力はアンリミテッドに移った。
ラングラー アンリミテッドは、2007年の登場当初は3.8リッターV6 OHVエンジン+4段ATというパワートレインを採用していたが、途中のマイナーチェンジで燃費向上を目的に3.6リッターV6 DOHCエンジン+5段ATに切り替わった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
熟成が進んでレベルアップ
長野県・白馬村の特設雪上スペースで振り回してみた。ラングラー(アンリミテッド)は、現在の多くの4WD車が採用するフルタイム方式ではなく、昔ながらのパートタイム方式を採用する。センターデフをもたない直結4WDなので、悪路でのトラクションは圧倒的。凹凸の激しい雪上路面での頼もしさはエレクトロニクス満載の「グランドチェロキー」を上回る。220mmの最低地上高はそのこと自体が性能だ。安心感はアンリミテッド!
半面、センターデフがなく前後の差動を吸収してくれないので、ミューの高いドライのアスファルト路面などで4WDにしたままステアリングを切ると、ゴリゴリとタイヤが鈍い悲鳴を上げる。普段はRWD(後輪駆動)で走行し、必要な時だけドライバーが手動で4WDに切り替えて走行する必要がある。
現行型は登場から7年が経過した。フレームシャシーや前後コイル・リジッド式のサスペンションなどの基本設計はもちろん変わらないが、熟成が進み、ドライ路面での乗り心地は、登場当初よりもこなれた。四輪独立懸架のグランドチェロキーのように滑らかな乗り心地は望むべくもないが、無頓着な同乗者なら普通の乗用車と変わらないと言うはず。エンジンの静粛性も向上し、ATの多段化(といってもまだ5段)も進んだため、端的に言って初期型より1段階、いや2段階ほどよいクルマになっている。
などとあれこれ書いておいてなんだが、ラングラーにとって、パワートレインがどうの乗り心地がどうのというのは、さほど重要ではない。少なくとも、他のクルマほどには重要ではない。壊れないエンジンとトランスミッションがひとつずつ載っていればよいのだ。それよりもラングラーにとって大事なのは、途方もなく高い悪路走破性が備わっていることと、ひと目で途方もなく高い悪路走破性が備わっていることがわかるルックスだ。その観点から見ると、今回のラングラー アンリミテッドは合格。十分に合格、完全に合格だ。ラングラーの悪路走破性を確かめるには、例年より雪の少ない(まだ関東の豪雪の前だった)白馬の一般道では足りなかった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
最もカジュアルなジープ――コンパス
この日はラングラー アンリミテッドのほかに、「コンパス」にも試乗した。コンパスはジープ・ブランドにあって最もカジュアルでベーシックなモデル。日本仕様は当初FWD(前輪駆動)のみのラインナップだったが、現在は4WDも選べる。FWDの「スポーツ」が2リッター直4エンジンを搭載し、4WDの「リミテッド」が2.4リッター直4エンジンを搭載する。いずれも6段ATとの組み合わせだ。
試乗したのはリミテッド。普通のエンジンを積む普通のSUV。他のジープ各車に比べると、あまり心躍るスペックではない。ところが、いざ試乗してみたら事前の予想を完全に裏切って……というのを期待していたが、おおむね予想通り。刺激的な走りが味わえるわけではない。乗り心地は良好だった。
餅は餅屋というべきか、さすがはジープ。簡易的な4WDでありながら、雪道できちんとトラクションを路面に伝えてくれ、安心して運転することができた。もはや生活四駆としてオンデマンド方式の4WDになんの不満があろうか。
今回、グランドチェロキー、ラングラー アンリミテッド、コンパスと、ジープの主要モデルをまとめて雪上で試して感じたのは、モデルによって優先順位は違えども、どのモデルもオフロードでの本格的な悪路走破性とオンロードでの快適な振る舞いをうまくバランスさせているなということ。あと、どのモデルにもアメリカン・ブランド特有の、適度に力の抜けたカッコよさがある。フィアット、いいもん買ったな。
(文=塩見 智/写真=高橋信宏)
![]() |
テスト車のデータ
ジープ・ラングラー アンリミテッド サハラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4705×1880×1845mm
ホイールベース:2945mm
車重:2040kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:284ps(209kW)/6350rpm
最大トルク:35.4kgm(347Nm)/4300rpm
タイヤ:(前)265/70R17 115Q/(後)265/70R17 115Q(グッドイヤー・ラングラーIP/N)
燃費:7.5km/リッター(JC08モード)
価格:397万9500円/テスト車=397万9500円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2596km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(-)/高速道路(-)/山岳路(-)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
![]() |
ジープ・コンパス リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1810×1665mm
ホイールベース:2635mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:170ps(125kW)/6000rpm
最大トルク:22.4kgm(220Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)215/55R18 94Q/(後)215/55R18 94Q(ブリヂストン・ブリザックREVO 1)
燃費:10.7km/リッター(JC08モード)
価格:325万円/テスト車=325万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1万1170km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(-)/高速道路(-)/山岳路(-)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

塩見 智
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。