第15回:コージの勝手にクルマエンタメ進化論
『ラッシュ』&『ゼログラ』にみるクルマエンタメの未来
2014.03.10
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
映画を見ててレースシミュレーターを思い出した?
久々、衝撃受けましたわ。それも映画を見て。
それほどマメに映画を見る方ではないけど、海外出張中は飛行機に長時間乗るんで、つい何本か見ちゃう。で、小学生の時から見てて、映像は年々キレイにはなるけど根本の快楽のロジックは変わらないような気がしてたけど、そんなことない! そう、最近評価の高いレースものの『ラッシュ/プライドと友情』と、もうひとつは全然“クルマもの”じゃないんだけど『ゼロ・グラビティ』。
『ラッシュ/プライドと友情』は他であちこちで語られているからこっちにおいといて、まずは『ゼロ・グラビティ』の話だけど、あれってもはや映画じゃないよね。3D版を劇場でマトモにみたってこともあるけど、完全にリアルシミュレーションもの。もちろんストーリーはちゃんとあるし、シンプルどころか素晴らしい出来だった。けど、それ以上に迫り来る恐怖感というか、知り合いが「吐きそうになった」というほどの映像体験はまさしく今までの映画ではあり得ない世界。なんというかハイテクを駆使した21世紀の“ジョーズ”の様な感じもあった。
こればっかりは実際に見ていただくしかないけど、いわゆる感情的に恐怖や酔いを誘うのではなく、三半規管に来る。ジェットコースターやメリーゴーランドに乗っているような気分に近いものがあり、それは今までにない圧倒的な動画能力というか、視覚直撃性能によるものだ。
なにより小沢は、『ゼロ・グラビティ』を見た後に、初めて『グランツーリスモ』をやったときのような気分になったのだ。
もはや新しいエンターテインメント
『グランツーリスモ』とは、ご存じプレイステーションの世界的レースゲームっていうかスーパーリアルシミュレーターだけど、あれもまた不思議な一体感が味わえる。たかが映像といえば映像だが、その映像がリアルで美しく、非常に正確で立体的なので、まさかの3次元空間疑似体験ができる。
『ゼロ・グラビティ』もまた映像ではあるが、単純に宇宙遊泳感が味わえ、それがまたハンパじゃない。使い古された言葉だが、まさしく映像革命であり、今までの映画や3D映像とはワンランク違うと思った。より高度な映像制作技術と整った視聴覚施設により成り立つ、非常にハイテクなエンターテインメントなのだ。
特に冒頭で、主人公役のサンドラ・ブロックがグルグル回りながら何万光年はあろうかという宇宙のかなたに追いやられる恐怖感は絶大。まさに新世代シミュレーション映像技術と現代人の科学知識(現実にないとは言えないハナシ)と古典的恐怖感の合作で、あの瞬間、人類は映像快楽をまた一歩進化させたとすら小沢は思った。ちょっとオオゲサでしょうか?(笑)。
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「セナ・プロ」でも作れる! ただし何10年か後に
一方の『ラッシュ/プライドと友情』、こちらはこちらで今までのクルマ映画を超えているような気がした。もちろん手法はオーソドックスよ。あくまでもニキ・ラウダとジェームス・ハントの確執や友情を描いた人間ストーリーで、『ゼロ・グラビティ』的ハイテク感はない。でもね……。
大抵のリアルな歴史ものはなんかお勉強っぽさが残り、逆に超ど派手なクラッシュ連続アクションものは大抵ウソっぽすぎる。ところが『ラッシュ/プライドと友情』はその塩梅が非常によろしい。こればっかりは、こちらも観てもらうほかはないのだけど、例えば、ニキ・ラウダはともかくジェームス・ハントは「ホントにこんな人なの?」と後で思ったほどの描かれ方だった。
ただ、F1ライターの人に聞いたり、資料を調べてみると「結構、あのまんま」(笑)。単純に昔のレーサーであり、そういう意味でも当時のF1はホントに面白かったってことが言えるわけだ。だからこれは変な話、ストーリーを今日まで寝かせておいた効果もあるのかもね。
ラウダとハントのバトルからもはや40年近くがたち、リアルな記憶は消えかけ、片方は亡くなってもいる。となると断片的な記憶やショックしか残っておらず、そこに改めてリアルストーリーをあえて濃いめに書くと心に響く。なんというかまずは酔っぱらい、そこにさらに濃い同テイストのお酒をかっくらうとガツンと効くようなものだろうか? かなり適当言ってますが(笑)。
マジメな話、あと20年もしたらアイルトン・セナとアラン・プロストで同じような映画が作れるのかもしれないと思った。あのクラッシュの原因の、リアルな追求も含めてね。
レーサーの恐怖を最新の映像で表現したら……
しかし、あらためて思うけど映像の力はすごい。これは昔、某デザイナーが言っていたことだが、「人間、目と耳と鼻と舌のどれを残すか?」という選択に迫られると、人は大抵「目」を選ぶんだそうだ。おそらくその通りだよね。目が見えなくなるのと耳が聞こえなくなるのと鼻が利かなくなるのと味が味わえなくなることの、どれが一番つらいかって、恐らく目だ。もちろん超食いしん坊はは舌を残すのかもしれないけど(笑)。
それくらい人は目でいろんなものを楽しみ、愛で、なおかつ危険回避にも使っている。この感覚器官から伝わってくる情報次第によっては、人はものすごく気持ち良くもなるし、この上もなくツラクもなるってことだ。
ってなわけで、実は視覚でかなりの快楽が得られるクルマや運転という行為や文化や映画は、まだまだ進化するはずだと小沢は予感してしまった。とにかく今のCG技術やシミュレーション理論の進化はハンパではない。純粋にF1ドライバーが普段味わっている快楽と苦悩と勝利の喜びを『ゼロ・グラビティ』的表現方法で見せたらどうなるのか? あるいはクラッシュの体験を味わわせるだけでも、ものすごいではないか? アイルトン・セナの一生を、外からではなく、内面から見せるような映画というより、“人生シミュレーター”というべきに近いモノ。そんなのができたらものすごいことではないでしょうか。
ま、どこかの天才クルマ好き監督が、面白いクルマ映画を作ってくれることを期待してますよ!
(文=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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