BMW 435i カブリオレ Mスポーツ(FR/8AT)
悩ましいのは価格だけ 2014.03.26 試乗記 「3シリーズ カブリオレ」の後を継ぐ、BMWのオープンモデル「4シリーズ カブリオレ」に試乗。7年ぶりのデビューとなる最新型の実力や、いかに?待ってました! の新機能
“3”のクーペが“4”。その「4シリーズ」に「カブリオレ」が加わった。
本国には他に2リッター4気筒ターボのガソリンとディーゼルもあるが、日本に入るのは3リッター直6ターボの「435i」のみ。試乗車の「Mスポーツ」となると864万円のいいお値段だが、オープン機構は「3シリーズ カブリオレ」以来の3分割リトラクタブルルーフ。クーペとオープンの2 in 1(トゥ・イン・ワン)と考えればオトク、というのがエクスキューズかもしれない。ちなみにクーペとの価格差、つまりリトラクタブルルーフ代は90万円である。と思ったら、なんだか安いような気がしてきた。
そのリトラクタブルルーフの新機軸は“コンフォートローディング機能”である。オープン時にトランクの荷物を出し入れする際、格納されていたルーフユニットをボタンひとつで上方に移動させることができる。リトラクタブルルーフ車のユーザーなら、おそらくだれしも「あッ、それ、欲しかったんだ!」と膝をたたくアイデア機能に違いない。
使いにくいものは、結局、使われなくなってしまう。逆に、使いやすくすれば、ルーフ収納時の限られたトランクスペースも十全に使ってもらえる、ということだろう。
ルーフ開閉の所要タイムは “開”が24秒、“閉”が27秒(実測)。オープンボディーのトランクリッドが逆ヒンジで開き、3枚重ねのルーフユニットが起き上がり、そこから前と後ろにルーフが延びて上屋が完成する。そのロボテックなパフォーマンスはなかなかの見ものである。18km/h以下なら、走行中に開閉ができるのもユーザーフレンドリーだ。
走りのキレも十分
4のクーペが太刀打ちできないカブリオレの魅力は、開放感である。オープンなんだからあたりまえだろ、と思われるかもしれないが、カブリオレの開放感は、クローズド時でも別格だ。天井はあるが、柱(センターピラー)はない。おかげで、車内はクーペより明るい。左側から合流するとき、斜め後方にこれほど死角を持たないクローズドボディーも珍しい。
エンジンはおなじみの直噴3リッター直列6気筒ターボ。3シリーズでも最強ポジションに座る306psユニットだが、車重1840kgのカブリオレは435iクーペより220kg重い。そのため、比較すれば瞬発力に欠けるきらいはあるが、高級カブリオレをそれらしく走らせるには十分である。0-100km/hも5.5秒でこなす。
トップエンドまで上り詰める回転フィールの気持ちよさはストレートシックスならではだ。3シリーズ/4シリーズに使われている直噴2リッター4気筒系は、BMWユニットとしては色気に乏しいから、ぜいたくな4のカブリオレを6気筒のみとしたのは正解かもしれない。
車検証の前後軸重は、前900kg/後940kg。リトラクタブルルーフで200kg以上重くなっても、前後イーブンの重量配分ポリシー(?)は貫かれている。今回は雪の影響でワインディングロードをたっぷり走ることはできなかったが、3シリーズより低い重心感覚が味わえるハンドリングの印象は、このカブリオレでも変わらなかった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
どんな乗り方でも快適
オープンにしても、435iカブリオレの“風じまい”のよさは抜群だ。後席背もたれの裏側に格納されているウインドディフレクターをセットし、サイドウィンドウを閉めれば、100km/h走行時でも顔のまわりの空気は動かない。風と一緒に流れているため、上空でもまったく風を感じない熱気球をほうふつさせる不思議な感覚だ。エアコンをきかせ、シートヒーターを入れ、とどめに首の後ろから温風が吹き出る“エアカラー”をオンにすると、冬のオープンエア高速巡航もホッカホカだった。
屋根を閉めて、後席にも座ってみた。リアシートはクーペ同様、ぜいたくな左右独立。レッグルームが3シリーズ カブリオレより2cm増えた、と言われても細かすぎてわからないが、見るからに広く、乗っても十分広い。座面は高めで、見晴らしはいい。背もたれも適度に寝ている。
リアシートに乗ってもありがたいのは、センターピラーレスの広々としたグリーンハウスだ。屋根を閉めていても、クーペの後席に“閉じ込められている”ようなビンボーくじ感はまったくない。フル4座のクーペ/カブリオレである。
価格は高い。試乗車はオプション込みで四捨五入すれば1000万円カーである。
このクルマで、某日本車の試乗会へ乗りつけた。かつてそのメーカーのリトラクタブルルーフ車に携わった開発者に435i カブリオレを見せたところ、開閉メカに感心することしきりだった。いわく、「すごいなあ、この収めかた……」「あんなところに、プレスじゃなくて、鋳物のパーツ使ってるよ」「これはやっぱり、本気でつくってるなあ」
つまり、高いだけのことはある、ということらしかった。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
BMW 435i カブリオレ Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1825×1385mm
ホイールベース:2810mm
車重:1840kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306ps(225kW)/5800rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1200-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 89Y/(後)255/35R19 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:12.5km/リッター(JC08モード)
価格:864万円/テスト車=962万3000円
オプション装備:Mスポーツブレーキ(10万円)/アクティブMサスペンション(10万円)/ウインドディフレクター(5万1000円)/パーキング・アシスト・パッケージ(11万円)/パールウォルナット・ウッドトリム+パールグロスクローム・ハイライト(1万7000円)/エアカラー(5万6000円)/アダプティブLEDヘッドライト(16万5000円)/アクティブプロテクション(5万円)/アクティブクルーズコントロール(9万5000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(10万円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(5万9000円)/メタリックペイント(8万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1085km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:285.8km
使用燃料:34.2リッター
参考燃費:8.4km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。