BMW M440i xDriveカブリオレ(4WD/8AT)
効率だけじゃ息が詰まる 2024.12.11 試乗記 「BMW 4シリーズ カブリオレ」のマイナーチェンジモデルが登場。ただでさえカッコいい4座のオープントップだが、この「M440i xDrive」は泣く子も黙るストレートシックス搭載モデルだ。ぜいたくなボディーとぜいたくなエンジンの印象をリポートする。デザインの変更は最小限
BMW 4シリーズは「3シリーズ」から派生した2ドアクーペ。初代4シリーズがデビューしたのは2013年と、その歴史は思ったよりも新しい。というのも、2012年まで生産された5代目3シリーズ(E90)までは、3シリーズのなかに2ドアクーペが設定されていたのだ。6代目3シリーズ(F30)に移行するタイミングで、2ドアクーペは4シリーズとして独立したという経緯がある。
2020年に発表された2代目4シリーズに小変更が施され、日本でのデリバリーも始まった。日本仕様のラインナップはマイチェン前と変わらず、パワートレインは2リッター直列4気筒ターボ(FR)と、3リッター直列6気筒ターボ(AWD)の2種類。ボディースタイルは、2ドアクーペと2ドアカブリオレの2種類。それらの組み合わせで、計4つのモデルがラインナップされる。
今回試乗したのは、直6エンジンとカブリオレボディーを組み合わせた、BMW M440i xDriveカブリオレだ。
マイチェンにあたっての外観の変更箇所はそれほど多くなく、フロントグリルの加飾がグレーからブラックに変わったことと、ヘッドランプ内の黒目の面積が増えたことが目につく程度。マイチェン前後の写真を並べて比べれば、少し精悍(せいかん)な表情になったように感じるものの、大きな変化はない。
一部では1950年代のクラシックBMWに通じるともされる縦長のキドニーグリル、個人的にはいまだになじめないものの、マイチェンにあたって目先を変えるためだけの無意味なデザイン変更をしていない点には好感が持てる。
「エンジンを回す」というぜいたく
エンジンを始動して、「OK、BMW」と呼びかけて音声操作のインターフェイスを起動。目的地とエアコンの温度設定を声で操作して、「便利な世の中になったもんじゃ」としみじみしながらスタートする。けれども、ほんの50mほど進んだところで、「OK、BMW」の便利さよりも、直6エンジンのスイートな感触のとりこになっていることに気づく。
アイドリング付近の極低回転域から、むっちりとした密度の濃いトルクを発生し、ゆっくりとアクセルペダルを踏み込むと、それに合わせてじんわりとトルクが濃度を増す。電気自動車のモーターのほうが滑らかに車体を押し出すけれど、この直6エンジンには自分の意思と操作が駆動力に反映されているという手触りがある。当然、電気でモーターを回すほうが効率的だろう。ガソリンという液体燃料を駆動力というエネルギーに変換するには複雑な過程が必要で、そこでは無駄やロスも発生する。でも、それをなんとかしようという工夫が、メーカーごとの味わいの違いを生む。
電気自動車に乗ることがスマホの画面をスクロールすることだとすれば、直6エンジンを回すことは本のページをめくることに近い。手間はかかるけれど、紙質や紙の厚さの違いなどを文字どおり肌で感じる。ま、どっちが効率的で、どっちが主流なのかは言わずもがなですが。
重いのに軽いという感覚
エンジンと同じくらいに感銘を受けるのが、懐の深い乗り心地と切れ味鋭い操縦性を両立する足まわりの出来のよさ。市街地のタウンスピードでは、サスペンションが巧妙に伸びたり縮んだりして、路面からのショックの角を丸めこんで、まろやかな乗り心地を提供してくれる。したがって、BMWのスポーツモデルとしては上下動を感じるけれど、路面の凸凹を乗り越えると、上下の揺れをピタッと収める。
高速道路の巡航では、重厚でフラット、どっしりと構えた乗り心地となる。車重が1880kgとまずまずのヘビー級であるけれど、クルマが重いからどっしりとしているんだ、と感じないのは、車線変更でハンドルをほんのわずかでも切った瞬間、テニスコートのボールボーイが駆け出す瞬間のように、「動きます!」という意思を示すからだ。懐が深くてどっしりしているのに、瞬発力がある。益荒男(ますらお)、という言葉が頭に浮かぶ。
高速道路で感じた印象はワインディングロードでも変わらない。“重いのに軽い”という特徴的なドライブフィールは、電子制御式可変ダンパーや4駆システムのトルク配分など、高度な電子制御システムによって実現されている。けれど、ドライバーはただひたすら、軽快に身を翻すターンインと安定した姿勢を保つコーナーからの脱出という、このクルマが持つ二面性に身を委ねることになる。どっしりしているのに身のこなしが軽いという、矛盾したキャラクターを一台のなかで両立しているあたりに、高級でスポーティーなクルマをつくり続けてきたBMWのノウハウが生かされている。
無駄こそがぜいたくだ
簡単な操作で開閉する屋根を開けても、100km/h巡航だったら風の巻き込みも適度で、下半身はヒーターでぬっくぬくだから快適だ。あいにく、取材日はパラッと冷たい雨が落ちてくることもあったけれど、走ってさえいれば問題ない。屋根を閉じれば静粛性や耐候性などは事実上、2ドアクーペと大差ないと感じる。撮影中、ほろを閉じた状態の斜め後ろからの姿を眺めながら、きれいだなと、感心してしまった。ぜいたくなクルマなのだ。
クルマの教科書をひも解くと、クーペの語源はフランス語の「切る」だとある。なにを切るのかというと、馬車の時代に後部座席を切ったことに由来する。後ろの席を切り離せば軽量・コンパクトになるから動力性能が上がるし、空間はプライベートなものになる。つまり、速くて少人数(というか彼女と二人きり)で移動する乗り物がぜいたくだった。
時は流れて、背を高くして人や荷物をたくさん積めるほうが効率的ではないか、という時代になった。だからミニバンやSUVが主流になっていて、もちろん効率を考えればこっちが正解だ。
けれども、だからこそ2ドアのクーペやカブリオレのぜいたくさが際立つともいえる。SUVやミニバンじゃなくてこのクルマを選ぶ人には、なにかとてつもない胆力を感じる。おまけに、電動化の時代に純粋な直6エンジン。SDGsの時代にあってこういうことは言いにくいけれど、無駄な存在だからこそカッコいいし、ぜいたくさを感じるクルマだった。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW M440i xDriveカブリオレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1850×1395mm
ホイールベース:2850mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:387PS(285kW)/5800rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93Y XL/(後)255/35R19 96Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:11.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1182万円/テスト車=1297万5000円
オプション装備:ボディーカラー<ミネラルホワイト>(0円)/BMWインディビジュアル フルレザーメリノ<アイボリーホワイト>(42万3000円)/アンソラジットシルバーエフェクトソフトトップ(4万4000円)/クラフテッドクリスタルフィニッシュ(6万9000円)/アクティブベンチレーションシート(30万7000円)/Mカーボンファイバートリム(8万8000円)/カーボンエクステリアパッケージ(22万4000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2369km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:304.0km
使用燃料:33.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/9.2km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】 2026.7.17 「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。
-
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.7.15 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。
-
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】 2026.7.15 ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。
-
プジョー308 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.7.14 マイナーチェンジで内外装がブラッシュアップされた「プジョー308 GTハイブリッド」に試乗。大胆なデザインのフロントフェイスに目を奪われるが、ステランティス自慢の1.2リッター直3マイルドハイブリッドを搭載する最新モデルの仕上がりと走りやいかに。
-
日産キックスG(FF)/キックスX e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.7.13 日産のコンパクトSUV「キックス」が、いよいよフルモデルチェンジ! デザインもパワートレインもプラットフォームも刷新された新型は、見ても乗っても長足の進化が感じられる力作となっていた。日産の再生を担う重要モデルの仕上がりを報告する。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。
















































