メルセデス・ベンツV250ブルーテック アバンギャルド(FR/7AT)
「E」や「S」に近づいた 2014.04.21 試乗記 レジャーカーや送迎車としても重宝される、乗れて積めるメルセデス・ベンツきってのワークホースこと「Vクラス」がフルモデルチェンジ。その進化のキモとは?合言葉は「リアル・メルセデス」
ヨーロッパの大きめの空港に降り立つと、必ずと言っていいほど目にするのがこのクルマ、「メルセデス・ベンツVクラス」だ。ホテルへの送迎やパッケージツアーの足など、フリートユースに数多く供されている。
それゆえか、2014年2月に発表された通算3代目となる新型の国際試乗会は、ドイツ第2の都市ハンブルクの国際空港に隣接したホテルと、北海に浮かぶ観光地ジルト島との往復という、約450kmのルートで開催された。
ちなみに日本では、2代目となる現行型は当初「ビアノ」と名乗っていたものの、途中で初代と同じVクラスに戻した。それ以外の国では最近までビアノのままだったが、新型はグローバルでVクラスとなる。日本市場が先鞭(せんべん)を付けた形だ。
ボディーは長さ違いで「コンパクト」「ロング」「エクストラロング」の3タイプ。コンパクトといっても全長4895mm、全幅1928mm、全高1880mm、ホイールベース3200mmに達する。ロングはリアオーバーハングが245mm延長され、エクストラロングではさらにホイールベースが230mmストレッチされる。現行型の日本仕様と比べると、ホイールベースは共通ながら、ボディーサイズは125mm長く、18mm幅広く、20mm低い。
同じく現行の日本仕様では3.5リッターV型6気筒ガソリンとなるエンジンは、現状では2ステージターボチャージャーを備えた2.1リッター直列4気筒ディーゼルのみとなり、チューニング違いで「V200CDI」「V220CDI」「V250ブルーテック」の3車種を用意する。ATは現行型の5段から、セダン系でおなじみの7段にバージョンアップ。「Sクラス」に匹敵する高度なドライバー支援システムを搭載したのも特徴だ。
試乗前のプレゼンテーションでは「リアル・メルセデス」という言葉が何度か聞かれた。いままでのVクラスはメルセデスではなかったのか? そういう短絡的な意味ではなくて、もう少し深い理由があった。
より便利に、より快適に
メルセデスの開発部門は乗用車と商用車で分かれている。Vクラスは後者が担当しており、今回の試乗会を開催したのも彼らだった。ただしVクラスは、商用車部門で生まれた車種では唯一、乗用車の販売店でも売られる。
同じメルセデスでも、乗用車と商用車では目指す目標が少し違う。とりわけ乗用車は近年、ラグジュアリー&アジリティーの度合いを増している。つまり新型は、そういう方向にクルマ作りをややシフトしたというわけだ。
Vクラスはフリートユース以外に、日本のミニバンのようなファミリーユースやレジャーユースにも使われる。新型はこれらのニーズにもしっかり応えたいという思いから、デザインやメカニズムのバージョンアップを図ったようだ。
試乗したのは「V250ブルーテック アバンギャルド」のロング仕様。ホテルの駐車場で実車に対面すると、最初に目が行ったのはSクラスを思わせる存在感の増したフロントマスクだ。サイドビューは現行型と似ている。でもリアに回ると、再び違いを発見する。リアウィンドウが大きくなっているのだ。しかもアバンギャルドではここが開閉可能、つまりガラスハッチだった。車庫事情の厳しい日本を想定したような作りだ。
それ以上に変わったのは運転席まわりかもしれない。事務的な印象が強かったインパネは、Sクラスを思わせるゆったりしたカーブを描く造形になり、ナビのモニターやコントローラーは間もなく上陸する新型「Cクラス」と共通。乗用車感が格段にアップした。
2/3列目のシートは、試乗車ではともに2人掛けで、2列目を逆向きに取り付けてあった。操作に相応の力を要するのは従来どおりで、特にシートを取り外して行う向き変えは力仕事になりそう。ただ広さについては文句なしで、平均的な日本人成人男性が楽に向かい合って座れ、後方には大型スーツケースが寝かせて置ける。
それは車体が大柄なためもあるのだが、新型は今までよりもかなり取り回しが楽になった。この点でも現行型より日本市場への適合性が増していると感じた。
FRならではの足さばきに好感
厚み、張りとも申し分なしの前席に戻って試乗をスタートすると、意外にもサイズがあまり気にならない。リアウィンドウが大きくなったこともあるが、低速では車両の位置を真上から俯瞰(ふかん)できる360度カメラシステムが作動することが大きい。さらに駐車ではパーキングアシストの助けを借りることもできる。
最高出力190ps、最大トルク44.9kgmをマークするエンジンに対し、車両重量は2145kgと、現行日本仕様のロングボディーより85kg軽い。おかげで4名乗車でも加速は不満なし。しかもターボの立ち上がりがなだらかなので、リラックスしてドライブできる。音はアイドリングではディーゼルと分かるものの、エンジン回転数が2000rpm弱に抑えられる100km/h巡航は静かで、運転席と3列目の乗員同士で会話が楽にできた。
「アジリティーセレクト」と呼ばれるモード切り替えが用意されたのも新型の特徴。この種のモデルとしては異例の装備だ。スイッチはセレクターレバー脇にあり、「エコノミカル」「コンフォート」「スポーツ」「マニュアル」の4モードから選べる。エコノミカル以外では最高出力が14ps、最大トルクが4kgmアップするオーバーブーストが使える。つまり自然吸気ガソリンエンジンなら5リッター級のトルクが得られるわけで、これも力不足を感じない要因だろう。
アウトバーンでの直進性はどっしりという表現がピッタリ。ステアリングに軽く手を添えていればいい。乗り心地は重厚かつしっとりしており、「Eクラス」あたりを連想させる。それ以上に好感を持ったのが素直なフットワークだった。前後の重量バランスが理想に近いことが交差点を曲がるようなシーンでも分かり、欧州製モノスペースの中でも異例となる、後輪駆動にこだわる理由が理解できた。
車載燃費計の数字は約11km/リッターを記録した。日本への導入は2015年。エンジンの設定については現時点では未定とのことだが、燃費を抑え、国産ラージミニバンとは異なる価値観をアピールできる4気筒ディーゼルは魅力的に映った。見た目や仕立てのメルセデスらしさは格段に高められているし、日本車の牙城だったこのクラスに風穴を開ける存在になるかもしれない。
(文=森口将之/写真=メルセデス・ベンツ日本)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツV250ブルーテック アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5140×1928×1880mm
ホイールベース:3200mm
車重:2145kg
駆動方式:FR
エンジン:2.1リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:190ps(140kW)/3800rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/1400-2400rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y XL/(後)245/45R19 102Y XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:6.0リッター/100km(約16.7km/リッター)
価格:--
オプション装備:--
※欧州仕様車の数値。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。