第344回:日産ギャラリーに通い詰めた、あの頃 ー 大矢アキオの銀座放浪記
2014.04.25 マッキナ あらモーダ!日産銀座ギャラリーが消えていた!
北京モーターショー2014の前に、東京に立ち寄ってみた。
以前から執筆している機内誌の編集部にあいさつに行くと、同じフロアで客室乗務員の入社説明会が行われていた。ああ、そうか4月は新年度がスタートする時期か。思えば、この時期あまり日本に来ることがなかった。
ビルの入退場用自動ゲートの列に並んでいると、先にいた女子学生が「こちらがすいております」と案内してくれた。早くも気分はCAになりきっていて、ほほ笑ましかった。
閑話休題。東京メトロ銀座線の銀座駅で降りると、なにやらムードが違う。よく見ると、サッポロ銀座ビルに直結している、ビヤホール「銀座ライオン」の地下連絡口のシャッターが閉まっているではないか。2014年3月末をもって閉鎖されたという。もしやと思って地上に上がると、1階の日産ギャラリーも閉鎖されていた。
ギャラリーの入り口に貼られていた説明を概説すると、日産銀座ギャラリーは1963年のオープン以来、51年間続いていた、と記されていた。
「なんだよ、旧銀座本社ギャラリーに次いで、4丁目ギャラリーも閉鎖か」と思って読み進むと、2016年初夏の新ビル開業にあわせて、生まれ変わるという。あと2年ちょっとで、市街地に新しいビルが建つとは。
いまだに2015年ミラノ万博の工事が間に合うかわからないイタリアでは到底考えられないハイスピード工期である。
ボクにとって日産銀座ギャラリーは思い出深い。
1970年代末、中学生になって、一人で遠くまで外出が許されるようになると、クルマを見るべく、郊外の自宅からたびたび銀座4丁目までやってきたからだ。新型車の展示が、地元ディーラーよりも早かったからである。
銀座ギャラリーはモダンに改装される前、入り口を入ってすぐ左側に狭いらせん階段があって、なんと2階にもクルマが展示されていた。どうやって入れ替えているのか? と、あるときミス・フェアレディさんに聞いてみると、表のガラスがスライド式になっていて、機器を使ってクルマを持ち上げて入れ替えていると教えてくれた。
ボクがおやじ顔だったからか、それとも将来のお客と見込んでいたのかは知らぬが、ミス・フェアレディのお姉さんたちは、免許取得年齢に達していないボクにも、「レパード」や3代目「シルビア」、「ガゼール」など、さまざまなカタログを提供してくれた。
当時の日産の低公害エンジン「NAPS(ナップス)」などの新技術も理解するべく、資料を集めた。晴海の東京モーターショーの帰りに、興奮覚めやらず寄ったこともある。まさに酒飲みの“はしご”のごとくだ。
こんなこともあった。ある日、彼女たちがデスクの裏で、来館者に渡したカタログの数を紙にカウントしているのを発見した。そのメモの中に「輸出仕様」と手書きしてあるのをめざとく発見したボクは翌月、「輸出仕様のカタログをください」と勇気をもってお願いしてみた。すると、カウンターにいたミス・フェアレディさんは「どの車種ですか」と聞くので、とっさに「『ブルーバード』と『スカイライン』を」とお願いすると、本当に輸出仕様のカタログをくれた。なんという温かい対応。そのときボクは、将来一生日産車に乗り続けてもいい、と思ったものだ。
ただそれを実現していない今、東京モーターショーでミス・フェアレディさんたちを見るたび心が痛む。
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大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。20年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
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