フォルクスワーゲン・ゴルフR(4WD/6AT)
門戸を広げる「R」 2014.05.07 試乗記 スポーツカーというものは、スパルタンであればあるほど攻略しがいがあるもの。しかし、「フォルクスワーゲン・ゴルフR」は、そのにらみが利いた顔つきとは裏腹に、誰もが技量に応じてたのしめる、洗練された速さを備えていた。伊豆のワインディングロードで試乗した。「モード切り替え」は便利だが……
「ゴルフ」シリーズ中、最も高性能なモデル「R」がこの春、登場した。「GTI」の系譜とはちょっと異なり、過去にあった「R32」というV6エンジンを積んだモデルの延長線上に位置するような性格を持つ。その走りは、たとえて言うならば「幕の内弁当」的である。それも豪華なやつだ。
その「小鉢」をひとつひとつ味わいながら賞味していくと、なかなか手の込んだ料理にありつける。アダプティブシャシーコントロール(DCC)によってもたらされるドライビングプロファイル機能には、Rを象徴する5つの小鉢、すなわち「コンフォート」「ノーマル」「レース」「エコ」「カスタム」の各モードがあり、それらは名称から想像できる通りの味をもつ。エンジン特性やダンパー減衰力などがあらかじめ組み合わされており、それぞれを選ぶと自動的に変化するようになっている。
たとえば「エコ」を選ぶとエンジン特性は省燃費型になり、エアコンは経済的なモードにセットされ、Aペダルから足を離すとDSGはニュートラルを選択し、エンジン回転はアイドリングに落ちてコースティング走法も使える……といった具合だ。それぞれの枠内に小分けされた性能ではあるが、大変便利である。
しかし、その小鉢に不満がないわけではない。あらかじめ選んでおいた走行モードがその路面や状況に合っていれば問題ないし、その範囲内で満足しているうちはいいが、少し慣れてくると、ああココは「ノーマル」にしておけばよかったとか、ココは「レース」の方がよかったかなーとか後悔が生じ、疑心暗鬼にかられる。後悔先に立たずだ。われわれのようなシニア世代にとっては、いちいち選ぶことはわずらわしくもある。クルマが本来持っている実力を、全部いつでも使えるということに安心感を覚えるのだ。
また、足まわりの方も「コンフォート」にして使う時と「レース」を選択して使う時とでは目的が異なり、「ノーマル」にしておけばその中間的なものなのか、あるいは「レース」のままだと乗り心地はひどい状況となるのか……とおびえにも似た不安感も抱いてしまう。
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高性能車の現代的なあり方
もっとも、大筋においてはまったくそれは杞憂(きゆう)にすぎない。このドライビングプロファイル機能は、5つあるどのポジションでもそのセッティングは許容範囲内にそれなりにおさまっており、実用走行に差しさわりのあるようなことにはならない。その辺の上限と下限を心得ているところが「豪華な幕の内弁当」たるゆえんなのだ。極端には偏っていないからそのままで乗っていても特別な不都合は生じない。「レース」モードにおいてすら、乗り心地が極端に悪いわけではない。
もちろん、その小鉢の変更も走行中にできなくはないが、老眼鏡が必要なシニアドライバーにとっては、コーナリングの最中にこの小さな文字を選ぶ作業は困難を極める。「カスタム」という、ドライバーが任意で設定できるモードも用意されてはいるが、そもそも最初からひとつの「大鉢」に一緒盛りにしておいてくれれば、自分の箸で適宜選んで好きなものをランダムに食べることができるのに、とも思う。
しかし、それではあまりに漠然としており、初心者にとってはどこをつつけばいいか迷ってしまうのだろう。どんなに状況が変化してもすべてに対応する最適な解答を要求するのではなく、おおよそその範囲内で中庸を得、そんな中にもレベル的には高い方でうまく攻略できれば十分満足できる……というあたり、最近のコンピューターゲームにもどこか似ている。枠組みの中からどれかひとつ選んでその範囲内で楽しむという、まさにiPad世代に向けた高性能車の、ひとつのあり方ではある。
その全部を足せば、大きく枝葉がひろがるように、絶対値としての範囲がひろがるわけだから、それ自体は確かに喜ばしいことだ。けれども、何もしないで(スイッチを操作しないで)最善の使用状態を得ることはできない。この「規制された範囲」に限定されることに漠然としたいら立ちが残る人もいるだろう。すぐトナリの枠にそのまま入れないこともイラッとする要因かもしれない。
それでも、このゴルフRは速い。中速コーナーの連続する伊豆スカイラインなどを走っていて、適当に飛ばしている3~4リッタークラスのスポーティーカーを対向車線に見つけたら、Uターンして鼻歌交じりで追いかけても、すぐに追いつくことができるだろう。2リッターTSIエンジンの280ps/38.7mkgというパワー/トルクは、絶対的には高性能であることに変わりはない。
アウトバーンのような超高速性能をたのしめる環境になくとも、そのクルマが備える可能性に価値を見いだすのが日本市場の実態ではあるし、少なくとも刹那的な瞬発力を安易に求めたがる道路事情には適している。
洗練されたハルデックス4WD
ゴルフRは4WDである。4MOTIONのセンターデフはハルデックスながら5世代目に進化した。時代の先端にあるコンピューター制御でトルクの前後配分を行う。極端に言えば、0:100にも100:0にも対応できるという。この前後配分というのはエンジンの発生するトルクをそのまま分けるのではなく、空転で失う部分はゼロであるから、そのぶんを引き算した残りを分け合うという意味だ。
初期のハルデックスカップリングはオン/オフが明確で、雪道ではチョロチョロと進路を乱したし、操縦性の面では前輪がスリップして後輪にトルクが移るとアンダーステアがさらに助長される機構になっていた。
しかし、いまではその辺も改善されたようだ。オン/オフではなくカップリングの接続を継続させることにより、基本駆動輪である前輪が空転しても後輪の駆動力が補う。昔は前輪より後輪が速く回るとカットされる構造だったので、せっかくオーバーステア態勢に姿勢を整えても、さあこれからというときに後輪駆動力は断たれてしまった。
今回実際に試すチャンスはなかったが、PR用のVTRで雪上走行の挙動をみると、新型は舵角(だかく)ゼロのまま4輪ドリフトの態勢に持ち込めている。また、オーバーステアの挙動も安定していることから、その辺のヤリトリをうまく使えるようになったのだろう。
もちろん直進状態での発進時などはこれまで通り威力を発揮する。駆動輪が空転してもXDS電制デフロックやESPの片輪ブレーキ力なども駆使して4WDの能力を高めている。
スポーツカー・フォー・ザ・ピープル
ゴルフRには流行のアシスト機構も、現時点で考え得るものがほぼ全部そろっている。プログレッシブステアリングはロック・トゥ・ロックの設定も含めたギア比まで制御する。これらの趣旨には賛同するが、ヤリ過ぎると余計なお世話と感じるものだ。しかし、コレはその辺のチューニングがうまくできており、介在をほとんど感じさせない自然なものだ。
アイドルストップもよく考えられた設定で、普段の操作の中に取り込まれており邪魔にならない。試すチャンスはなかったが、自動ブレーキのプリクラッシュブレーキシステムも設定されており、その内容は他のフォルクスワーゲン車同様だろうから、イザというときには効果を発揮してくれるだろう。ほかにもアダプティブクルーズコントロール(ACC)、レーンキープアシストシステム、マルチコリジョンブレーキシステムなどがある。
思うに、クルマというものは昔は両手足で直接操作するのが基本で、ドライバーの技量に頼る部分も多かったが、今ではクルマ自体が補ってくれるようになった。これをどう受け取るかの価値判断はそれぞれ異なるだろうが、「R」というゴルフの最高価格車にとっては何でもアリにしておいて当然なのだろう。
もっとも、運転経験の長い人にとってはココまで必要ないだろうと思われる装備もあり、どうせ使わないものにまでお金を支払う無駄も感じてしまうのも事実である。しかし、このクルマに興味を持つ世代にはお金持ちも多いだろうし、初心者であっても自身の持つレベル以上に高く広い可能性に投資することにも意味はある。高性能モデルはある程度技量を伴わなければ乗れなかったのは昔の話なのだ。いまでは初心者でも安全に楽しめるように作ってある。DSGなどはその最たるもので、ギアチェンジの回転合わせなどは見事というほかない。クルマを自動化していくとドライバーの技量を低下させるという説もあるけれど、それを活用するのも悪いことではない。
現代のクルマは決して完成形などではない。いろいろ可能性を探る段階を経て、要らないものはどんどん淘汰(とうた)されていく。だから必要なければ消えてゆくし、今後もまだまだオモシロいものがでてくるだろう。スポーツカーは余計なものを排除したスパルタンなものほど攻略しがいがあるが、「R」はその対極にある高性能車であり、その恩恵をうけるドライバーは広範囲にわたるはずだ。
(文=笹目二朗/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:280ps(206kW)/5100-6500rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/1800-5100rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:510万円/テスト車=510万円
オプション装備:なし
※価格は8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:2912km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:366.0km
使用燃料:45.0リッター
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/8.9km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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