トヨタ・ヴィッツ 1.3ジュエラ(FF/CVT)/パッソ 1.0+Hana(FF/CVT)
“男前”と“ゆるふわ系” 2014.05.19 試乗記 マイナーチェンジで新しい低燃費エンジンを搭載した「ヴィッツ」と「パッソ」。似ているようで似ていないこの2台を乗り比べた。キーンルックで引き締まった表情に
ちょっと意外に感じたのだが、トヨタの「ヴィッツ」と「パッソ」が時を同じくして改良を受けるのは初めてのことだそうだ。ベーシックラインを固める2台はエンジンを共用していて、兄弟車と言ってもいい存在だ。価格を見ても、最廉価グレードでは6万円弱の差しかない。しかし、ヴィッツとパッソは似ているようでまったく異なる性格のクルマである。試乗会で2台を乗り比べることができ、そのことを実感した。
どちらも、女性ユーザーが多いモデルではあるが、パッソの女性比率が8割ほどなのに対しヴィッツの男女比はほぼ同じだ。ただヴィッツには、ベーシックな「F」、上級の「U」、1.5リッターエンジンを搭載したスポーティーな「RS」に加え、女性向けに特化したグレードの「Jewela(ジュエラ)」が設定されている。試乗したのはこのグレードで、派手なチェリーパールクリスタルシャインに塗られていた。標準車では選ぶことのできない外装色である。しかも内装色はバーガンディーで、ドアミラーとドアハンドルをメッキ加飾するシャイニーデコレーションがオプションで付いていた。完全無欠の女子仕様である。
もちろん、女性向けグレードもマイナーチェンジの変更点は同じだ。顔つきははっきりと変わった。フロントマスクには、「オーリス」から取り入れられた「キーンルック」を適用した。もともとヴィッツはメリハリのある彫りの深い表情だったが、さらにキリリと引き締まった。
デザイン言語の理解が深まったのか、オーリスよりも巧みな造形に見える。ブラックやグレーメタリックなどではすごみを感じさせるが、派手なピンクだとオシャレ感が出る。このチェリーパールクリスタルシャインは「クラウン」のピンクよりは少し濃い色で、アルミ箔(はく)を混ぜてキラキラ光らせている。
「クラウン」からの乗り換えを意識
内装では、ダッシュボードのデザインが大幅に変更されている。一見してスッキリ整理された印象だ。2つの楕円(だえん)形状を合わせた作りで、統一感が明らかに向上した。メーターパネルも新デザインで、アイドリングストップ車にはマルチインフォメーションディスプレイが付いている。「エコウォレット」や「燃費ランキング」を表示できるのはおなじみの機能だ。グローブボックスには秘密があって、センターのナビ画面の左側パネルがごっそり上方に開くようになっている。中には高さを変えられるトレイがあって、収納物によってアレンジできるのだ。
試乗車はジュエラ専用のバーガンディー内装で、室内には妖しい雰囲気が漂っていた。夜のイメージというか、ありていに言えば少々お水っぽい。しかし、これが若い人からはレトロで新鮮という評価になるそうだ。確かにZEROになる前のクラウンにはこんな感じの内装があったような記憶がある。あとでブラック内装のヴィッツの運転席に座ってみると、はるかに落ち着いた気分になれた。上質感をダイレクトに受け止めることができる。
静粛性にも心を配ったという。年配のユーザーにはクラウンからダウンサイジングする人もいて、うるさいクルマには拒否反応があるらしい。遮音材を増やしただけでなく、細かいところではドアのオープニングに使うシール材が今までは下の部分で途切れていたのをつなげたのだそう。地味な工夫だが、それでロードノイズの侵入が防げる。運転していて最初はエンジン音が結構うるさいと思ったのだが、それは無駄に加速した場合である。おとなしく巡航していれば、確かに室内は静かだ。
パッソに乗り換えると、やはり遮音や振動の面では少し見劣りがする。エンジンも4気筒と3気筒の差があるわけで、まったく同じというわけにはいかない。どちらも軽自動車と競わなければならない位置にいるが、よりシビアな戦いを強いられるのがパッソである。軽自動車は近年の質感向上がめざましく、リッターカーは安穏としていられない。
燃費は軽自動車と戦える水準に
パッソも、試乗したのは女性向けのモデルだった。2010年から加わった「+Hana(プラスハナ)」というグレードで、標準車とは車名の書体からして違っている。外装色は「サクラミックス」。パッソはボディーカラーがすべて和名になっていて、「キナコ」「ウグイス」「アズキ」などが用意されている。ミックスというのは2トーンのことで、ルーフやリアエンブレム、ホイールキャップなどが「シンジュパールマイカ」でコーディネートされている。
シートはセパレートも選べるが、試乗車はベンチシートだった。内装色はチョコとホワイトチョコのコンビで、スイーツ感全開である。ダッシュボードの造形は明快かつ簡素で、クルマらしさよりインテリアの心地よさを優先しているようだ。全長が短いのに後席はヴィッツよりもむしろ広いのは、簡素なデザインの恩恵だろう。乗車定員は5人である。軽自動車との比較で、この点は有利に働くはずだ。
1トンを切る軽量にもエンジンはパワフルとは言えず、基本的には街なか専用グルマと考えるべきだ。ベンチシートのクルマで山道を走るのは、あまり賢いことではないだろう。エンジンの改良は燃費向上がテーマで、1リッターエンジンの最高出力に変更はない。熱効率向上に加え9km/hでエンジンが停止する新しいアイドリングストップ機構の採用もあり、燃費は27.6km/リッターとなって軽自動車となんとか戦える水準になった。
ヴィッツの1.3リッターモデルの燃費は、25.0km/リッターである。従来モデルと比べると3.2km/リッター、約15%の向上だ。アトキンソンサイクルの採用をはじめとして、高圧縮比化(13.5)、タンブル流(縦回転の混合気の流れ)を生成する新形状の吸気ポート、クールドEGR(排出ガス再循環システム)、電動連続可変バルブタイミング機構(VVT-iE)など、低燃費技術がてんこ盛りだ。これにより、世界トップレベルの38%という最大熱効率を実現しているという。
グローバルかドメスティックか
ヴィッツの1リッターモデルの燃費は、24.0km/リッターだ。不思議なことに、1.3リッターモデルより1.0km少ない数字である。理由は単純で、1リッターエンジンには、1.3リッターほどはお金がかけられなかったのだ。すべての技術を盛り込めば、もちろん燃費はもっとよくなる。しかし、それが価格設定に影響すると、製品としては競争力がなくなってしまう。コンパクトクラスでは性能とコストのバランスをとることが重要な課題であり、これがギリギリの妥協点なのだろう。
同グレードで比較すると、ヴィッツの1.0と1.3では約15万円の価格差となる。燃費だけで決められるものではないが、1.3リッターモデルのほうが魅力的に感じられてしまう。逆にパッソは、1.3リッターを選ぶ理由が希薄になった。新しいエンジンの採用は見送られ、燃費は19.0km/リッターにとどまる。ヴィッツは1.3、パッソは1.0というすみ分けが、さらにはっきりしたように思える。
女性ユーザーが多くを占めるわけだが、年齢層は実に幅広い。免許取りたての若い人からシニア層までカバーしていて、女性という名のもとにひとくくりにするのは無理がある。男性のユーザーだってないがしろにはできないわけで、品ぞろえの間口を広げておく必要があるのだ。ジュエラや+Hanaは女性向けに設定されたグレードだが、対照的な意匠をまとっている。パッソを好むのが“ゆるふわ系女子”なら、ヴィッツは“男前女子”向け。どちらも女子力は高いが、世界観がまるで違う。
ヴィッツは世界戦略車でもあり、ヨーロッパでもこの夏にマイナーチェンジが行われる予定だ。1.5リッターハイブリッドが中心になっていて、日本とは市場の構成が異なっている。それでもデザインや装備の共通点は多いわけで、広いマーケットを想定した開発を行わなければならない。日本独自モデルのパッソとは、考え方の土台から違っているのだ。
目指すのがグローバルかドメスティックかで、クルマの仕上がりは別物になるということが、この2台を見るとよくわかる。購入時に比較検討する人も多いと聞くが、あまり迷わずにすむはずである。コンパクトでもしっかりしたクルマらしさを持ち、時には走りを楽しみたいならばヴィッツがオススメだ。街なかの日常使いに限り、使い勝手とスペースを重視するならばパッソを選べばいいだろう。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
トヨタ・ヴィッツ 1.3ジュエラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3885×1695×1500mm
ホイールベース:2510mm
車重:1020kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:99ps(73kW)/6000rpm
最大トルク:12.3kgm(121Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)175/70R14 48S/(後)175/70R14 48S(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:25.0km/リッター(JC08モード)
価格:159万5455円/テスト車=178万2295円
オプション装備:ボディーカラー<チェリーパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/SRSサイドエアバッグ&SRSカーテンシールドエアバッグ(4万3200円)/LEDヘッドランプセット(6万4800円)/シャイニーデコレーション(1万800円)/ナビレディセット(3万5640円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:385km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:----km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
パッソ 1.0+Hana
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3650×1665×1535mm
ホイールベース:2440mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:69ps(51kW)/6000rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)165/65R14 79S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:27.6km/リッター(JC08モード)
価格:144万4255円/テスト車=169万5895円
オプション装備:ボディーカラー<サクラミックス>(8万1000円)/SRSサイドエアバッグ&SRSカーテンシールドエアバッグ(5万7240円)/プロジェクター式ディスチャージヘッドランプ(4万8600円)/サイドターンランプ付きリモコンドアミラー+キーフリーシステム+盗難防止システム(3万7800円)/バックカメラ(2万7000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:487km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:----km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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