ジャガーXJR(FR/8AT)
心にゆとりと分別を 2014.05.26 試乗記 ジャガーのラグジュアリーサルーン「XJ」に、550psを発生する“最強モデル”が登場。そのドライブフィールは、どのようなものなのか? 燃費も含めて、試乗の結果を報告する。違いのわかるハイパワー
「XJR」はジャガーサルーン「XJ」の最高性能モデルである。これまで「スーパースポーツ」と名乗った5リッターV8スーパーチャージャー搭載車(スタンダードホイールベース)の後継にあたる。
3リッターV6ターボを主力エンジンに据え、まさかの2リッター4気筒ターボ版までそろえるなど、エンジンのダウンサイジングに取り組んできた最近のXJシリーズにあって、5リッターV8過給機付きはリストラされるかと思ったら、さらに過激に生まれ変わった。XJRは先代XJ(X358)の世代にも存在したが、V8スーパーチャージャーは4.2リッターとカワイイもの(?)だった。
新XJRのエンジンはスポーツカーのトップバージョン「XKR-S」と共通。ルーツタイプのスーパーチャージャーを組み込んだオールアルミ製直噴5リッター4カムV型8気筒はXJスーパースポーツの510psをしのぐ550psを発生する。0-100km/hのメーカー公表値は4.6秒。全長5.1m超のVIPサルーンをこんなスピードで走らせる発想は、日本車にはない。
「新幹線です! ものすごく速いです」。都内からステアリングを握ってきた『webCG』スタッフSさんに感想を聞いたら、そう返ってきた。付け加えれば、「911カレラ」の突進力で加速する新幹線である。車内販売は無理だ。
このクラスのラグジュアリーサルーンに500psを超すパワーソースが与えられても、多くの場合、それは陸の王者をきめこむための“余裕”だったりするが、XJRは違う。踏まないと目覚めなかったり、デフォルトのドライブモードでは意外におとなしかったり、なんていう“出し惜しみ”はしない。550psの波打ち際までいつでも行ける。それがXJRの個性であり、魅力だと思う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
燃費に驚き、走りに戸惑う
変速機はZF製の8段AT。100km/h時における8速トップの回転数はたったの1250rpm。アイドリングに毛の生えたようなスロー回転である。しかも、他のXJ同様、スタート/ストップ機構付きだから、基本、アイドリングもしない。燃費も決して悪くない。今回、約320kmを走って、7.2km/リッター(満タン法)をマークした。
という事実を押さえた上で再び言うと、このトップ・オブ・XJは、本当に速い。アルミボディーとはいえ、このサイズともなると車重は2トンに迫るが、そんなヘビーウェイトを感じさせない。わずかなスロットル開度でものけぞるようにせりだすのは、トルクに勝る大排気量エンジンに加え、タイムラグのないスーパーチャージャーならではだろう。加速中、スーパーチャージャーにありがちなメカ音はまったくしない。重低音のエキゾーストノートを聴かせながら、加速Gだけが怒涛のように高まる。
前:ダブルウィッシュボーン/後:マルチリンクの足まわりはかなり締め上げられている。20インチのサンマルとサンゴーというサーキットフレンドリーなタイヤを前後に履くこともあり、乗り心地はグイッと硬く、しなやかとはいえないが、550psの大型FRを安定させるにはこの程度のハードさは必要なのだろう。
とはいえ、このボディーサイズとこのパワフルさ。狭いワインディングロードでは、ローカル線に新幹線で乗り入れてしまったかのような場違い感を覚える。XJRのシャシー性能をフルに楽しもうと思ったら、大きなサーキットに行きましょう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
見ても乗ってもスポーツカー
ウォールナットパネルとコノリーレザーの伝統的英国車テイストを一から見直したインテリアが今のXJの魅力だが、“R”はやはり最もレーシングライクである。ダッシュパネルはカーボン。ラウンドしたフロントガラスの地平線にはまる細い内装材もカーボン。カーボン繊維の紋様って、そんなにありがたいかという気もするが、無償オプションだから、ほかも選べる。
ドライバー正面の計器は、液晶デジタル方式のアナログメーター。エンジンをかけると、ゲーム機のようなカッコいいメーターが現れる。速度計も回転計も、いま針がある周辺だけがスポットライトふうに浮き上がるなど、見せ方も若向きで凝っている。
試乗車はショーファードリブンじゃないよオーラを放つ明るい白。屋根は黒いグラスルーフで、センターピラーから後ろの窓には濃い目のプライバシーガラスがはまる。
電動トランクのリッド(フタ)にはリップスポイラーが付き、テールには4本出しの排気管が突き出す。20インチ鍛造ホイール越しには、真っ赤なブレーキキャリパーと大径のローターが丸見えに見える。
VIPサルーンにスポーツカーの心臓や脚を与えたというよりも、ジャガーのスポーツカーから派生したVIPサルーンといったルックスの印象は、乗っても同じである。
個人の感想だが、昔からXJサルーンに乗ると、いつもより多めに譲ってしまう。貴婦人から一転、男性名詞のクルマにモデルチェンジを遂げた現行XJでも、2リッター4気筒のベーシックモデルには XJ伝統のセンシブルな味わいが残っていると思うが、XJRは別格だ。
このクルマを手にする幸福なオーナーには、余計なお世話だけど、こんなお祝いの言葉を贈りたい。Be a good driver.
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/撮影協力=河口湖ステラシアター)
テスト車のデータ
ジャガーXJR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5135×1905×1455mm
ホイールベース:3030mm
車重:1960kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(405kW)/6500rpm
最大トルク:69.3kgm(680Nm)/2500-5500rpm
タイヤ:(前)265/35ZR20 99Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:6.8km/リッター(JC08モード)
価格:1743万円/テスト車=1788万2000円
オプション装備:ブラインドスポットモニター(4万1000円)/カーボンファイバーエンジンカバー(21万6000円)/イルミネーションパック(19万5000円)
テスト車の走行距離:1802km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:318.4km
使用燃料:44.4リッター
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。