第351回:ジウジアーロ&ピニンファリーナが「台所」をデザインすると、こうなる!
2014.06.13 マッキナ あらモーダ!初代「パンダ」を思わせる機能性
トリノのカロッツェリアの2大巨頭、ピニンファリーナとジウジアーロは近年、自動車以外のプロダクトデザインに、以前にも増して精力的に取り組んでいる。
両社ともクルマの設計・開発は依然として太い柱だが、その分野にかつてのような飛躍的な伸びが期待できない今、別分野を開拓することは大切である。特に、ジウジアーロにとってのフォルクスワーゲンのように、後ろ盾をもたぬピニンファリーナとしては、さらにその「種まき」は重要だ。
彼らがコラボレートする相手のひとつに、イタリアの重要産業である家具メーカーがある。2014年4月、ミラノ家具見本市のキッチン専門館「エウロクチーナ」でも、彼らは新作のシステムキッチンを、競うように公開した。カロッツェリアがデザインした台所である。
システムキッチンは大抵、自動車よりも長期にわたって使われる。かつ家の中心に据え付けられるため、一日のうちでユーザーと対面する時間もクルマより長い。それだけに、デザイナーの腕が試されるものといえよう。
まず紹介するのは、ジウジアーログループのプロダクトデザイン担当部門「ジウジアーロ・デザイン」がスカヴォリーニ社のために手がけた「フリュクス・スイング」である。参考までにスカヴォリーニは、南部プーリアを本拠とする1961年設立のキッチン家具メーカーだ。テレビや雑誌に積極的に広告展開することで知られ、「イタリア人に最も愛されるキッチン」というかつてのキャッチコピーは有名だ。
フリュクス・スイングは、同じくジウジアーロによるデザインで、すでに発売されている「フリュクス」の発展型だが、今回はリビングゾーンとの完全なる融合を模索している。
担当したジウジアーロ・デザインのニコラ・グエルフォ氏がキーワードを「ダイナミズム」と示すとおり、キッチンは対面型テーブルを経て、大胆なカーブを描いてテレビ用シェルフにまで連続している。
面白いのは、棚からゆるやかに描くスロープの途中に、新聞や雑誌が置けるようなっていることだ。こうした機能性とユーモアを両立させる小技は、初代「フィアット・パンダ」に採用した、ダッシュボードの助手席側物入れを連想させて面白い。
コンセプトカーにインスピレーションを受けて
次はピニンファリーナのプロダクトデザイン部門「ピニンファリーナ・エクストラ」が公開した「スナイデロ・オーラ25リミテッドエディション」である。
スナイデロは北部ウーディネで戦後間もない1946年にリーノ・スナイデロ氏が創業したメーカーで、ピニンファリーナとの関係は1989年にさかのぼる。彼らが2002年に発表した「アクロポリス」は、調理者を円形に囲む大胆なデザインで、欧州プロダクトデザイン界で大きな話題となった。
「オーラ25リミテッドエディション」は、2010年に発表しシカゴのデザイン・アセナウム・ミュージアムのグッドデザインに選定された「オーラ20」を発展させたもので、「25」は両社の関係が25周年を迎えたことを意味する。生産台数は、ピニンファリーナが今年84周年であるのにちなみ、84セットだ。
基本となるのは3タイプである。まず「クラシカ」は、ベースモデル オーラ20のイメージを継承しながら、キッチン本体のモールやテーブルの脚にブロンズ色のアクセントを配した。
いっぽう、見る者すべてにインパクトを与えるのは、イタリア語で「大胆な、斬新な」を意味する「アウダーチェ」だ。2013年のジュネーブショーに出品されたコンセプトカー「セルジオ」から未来的なインスピレーションを得たものという。シンガポールに建設中のピニンファリーナデザインのコンドミニアムの完成予想図にも、これに似たものが描かれている。
しかしボク個人的には、流れ・軽さ・調和をキーワードとした「インエディター」に引かれる。古い建物のなかに見事にマッチしている様子に、ピニンファリーナの車が大切にしてきた上品さに通じるものが感じられるのだ。なにより実際にそうした建物に身近に接してきた人でなければできないセンスであると、舌を巻くのである。
機能的ルックスで訴えるジウジアーロと、優雅さを秘めるピニンファリーナ。キッチンにおいても、両社が培ってきたアイデンティティーが反映されている。
カロッツェリアデザインが台無し!?
ところで気になる価格だが、こうした分野のこうしたグレードの商品は、事実上のテーラーメイドが原則であるから、一概に述べるのは難しい。参考までに記せば、ジウジアーロのフリュクスの先代モデルは、市場価格で1万5000ユーロ(約210万円)といったところだ。
それも知らずわが女房は、ボクが本稿を記す傍らで、東京郊外の実家のことを思い出し、「そろそろ築20年超えで、台所が古くなってきたわねえ」などと好き勝手なことを言っている。
万一導入できても、実際使う義姉が、現状のように冷蔵庫にワケわからんマグネットを乱雑に貼りつけたり、脇の備忘録用ホワイトボードに「大根、納豆」「不燃物ゴミ出し」「おばちゃん法事」などと書いたりしたら、せっかくのカロッツェリアデザインが台無しじゃないか!
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Giugiaro Design, Pininfarina Extra)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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