第352回:夏休み前集中講座:イタリア式ガソリンスタンドの利用のお作法、教えます
2014.06.20 マッキナ あらモーダ!ガソリンスタンド業界の曲がり角
近い将来、イタリアから石油ブランド「Shell(シェル)」が消滅する見込みだ。シェルは、現在イタリア国内に850カ所あるガソリンスタンド網を「Q8」の名前で展開しているクウェート石油に譲渡する。これは本社の欧州業務見直しの一環で、部門を担当していたイタリア法人の従業員220人もクウェート石油に移籍する。2014年2月に発表され、現在イタリアの公正取引委員会の承認待ちだ。
シェルは、他部門のイタリア事業は従来どおり継続するという。だが、かつてフェラーリF1のオフィシャルスポンサーも務め、イタリアでは「ESSO(エッソ)」と並んで最もポピュラーな外資系ガソリンスタンド網のひとつであったシェルの撤退は、経済低迷による燃料需要減少でこの業界が曲がり角にあることを物語っている。
そうしたなか近年、イタリアで急激に店舗数を増やしているのが独立系のディスカウントガソリンスタンドだ。日本でいう無印スタンドである。
30年以上にわたりメジャー系「TOTAL(トタル)」のスタンドを夫婦で営み、少し前リタイアした知り合いのジュゼッペさんに聞けば、「無印スタンドの燃料も、品質的には何ら問題ないよ」という。そこで、ボクも彼の店のかわりに、独立系スタンドに通うようになった。
メジャー系スタンドと比較すると、独立系は広告営業費などのコストをカットしていることから、1リッターあたり1.5ユーロセント前後安い。円にすれば約2円だが、満タンにすればエスプレッソコーヒー1杯分くらい違ってくる。さらにわが家が通う独立系ディスカウントスタンドの場合、セルフではなくスタッフが入れてくれるので気楽である。
従来のスタンドと違い、サービスを省いてコストカットしているので、タイヤ空気圧やオイルレベルのチェックなどがおろそかになるのが若干心配だが、ともかくその無印スタンドには市内で唯一いつも長蛇の列ができている。
これがイタリア式セルフスタンドだ!
夏休みにイタリアでレンタカーのドライブを楽しむ方も多いと思うので、今回は、この国のガソリンスタンド指南を少々。
まず、大きなスタンドでは、Self(セルフ)とServito(セルヴィート)に分かれていることが多い。前者は文字通り自分で、後者は店員が給油するタイプだ。ポンプに入力されている料金も、後者が微妙に高くなっているのが一般的である。
ただし、給油所のおじさんが暇だったり、お客がモタモタしていると、セルフコーナーでも給油してくれたりする。満タン希望の場合は、「Pieno(ピエーノ)」と言えばよい。
イタリアのセルフには、基本的に2種類のお作法がある。最もよくあるものはセミセルフというべき方式だ。
(1)自分で給油する。レギュラーガソリンは、「Senza piombo(無鉛)」と記してあるものだ。ちなみに、そう書かれていても、すでにイタリアでは有鉛は販売されていない。軽油は「Diesel」のほか、イタリア語でガソリンと紛らわしい「Gasolio」と書いてあることもあるから要注意だ。給油ノズルは日本のものと比べて、少々大きくゴツい。石油臭が気になる人は、近くにある使い捨てビニール手袋を使うとよい。
(2)給油を終えたら、クルマのドアをロックし、その場所に置いたまま歩いてレジに向かう。
(3)給油機の番号を告げる。おじさんのレジにはすでに給油量のデータが伝送されているので、現金かクレジットカードで支払う。
ここまで読んだ方は気づくと思うが、この方式だと「ガソリン入れ逃げ」が発生する危険性がある。実際ボクも目撃したことがある。その給油所のあるじは老夫妻だっただけに、さらに腹がたった。読者諸兄が「入れ逃げ」と勘違いされないためにも、たとえ後続車のドライバーがイライラしていても、よほど常連でない限り、給油後はクルマを移動させないのが鉄則だ。
そして完全セルフ式は、セミセルフよりも価格がさらに安く設定してあったりする。ただし、カード読み取り機は、クレジットカードがダメで欧州地域のデビットカード「バンコマット」だけ受け付け可能だったり、お札の挿入口も神経質でなかなか読み込んでくれなかったりする。
日本のセルフ給油機のような明快なディスプレイ表示はなく、10ユーロ、20ユーロ、30ユーロなどのほか、満タンを選ぶための武骨なボタンが並んでいるだけだ。
イタリア人だって、見知らぬ土地の慣れないセルフ機でモタモタしているのだから、旅行者にはかなりハードルが高い。
こういうときは、おとなしく店員が給油してくれる「Servito」のほうにクルマを移す。困っているムードをオーバーアクションで表現し、給油所のおじさんの気をひく“かまってちゃん”方式をおすすめする。
セミセルフ方式をとるスタンドも、平日の昼休み2時間ほど、また土曜午後や日曜祝日は、すべて完全セルフに切り替わってしまう。アウトストラーダ(高速道路)の給油所は大抵高い。苦労したくない人は、平日の普通の時間に、おじさんに入れてもらうほうがよい。
販売してるのはガソリンだけじゃない
残念ながらイタリアでは揮発油にかかる諸税が高く、現在、日本のタバコ税負担とほぼ同じ60.5%に達する。そのため燃料価格は欧州で最も高額だ。参考までに本稿を執筆している時点で、レギュラー1リッターあたりの価格は、約1.7ユーロ(235円)といったところだ。
北部国境周辺の人たちがスイス側に越境して給油しているのは有名な話である。国境から20km以内に住む人は、住民カードを持って行くとイタリア側給油所で割引が適用される制度がすでに導入されているものの、それでもスイス側に行くドライバーは少なくない。
しかし、住民でない場合、スイス側のスタンドに達する走行距離を考えないと、かえって損をすることになる。加えて、ディーゼル車の場合、スイスは環境行政の観点から軽油をガソリンよりも高く設定しているので、事実上越境のメリットはない。
と、シビアなことばかり書き連ねてしまったが、イタリアのガソリンスタンドはのどかだ。パスタや巨大オリーブオイル缶、ワインと菓子の詰め合わせなどが店内でよく売られている。週末に知人宅を訪問するとき、「手ぶらじゃ、ナニか」というときに便利なのである。時には、サッカーくじやスクラッチくじも売られていて、特に朝方給油ついでに運試しする人が後を絶たない。
さらに、用はないのに、店主に会いに来る近所のおじさんがいたりする。こうしたお客さんたちが、みんな同じレジに並んでいたりするわけだ。
忠告! イタリアのガソリンスタンドには、時間に十分余裕をみておいでください。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの 2026.7.16 アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。
-
第969回:裏地に『大脱走』! ピッティ・イマージネ・ウオモと自動車模様 2026.7.9 イタリアで開催された世界屈指の紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」を、現地在住の大矢アキオが取材。自動車にまつわるアパレルの最新トレンドを探り、新興ブランドのひたむきさと、老舗の刻んできた年輪に触れた。
-
第968回:初代「ルノー・トゥインゴ」は「フィアット500」と同じ旋風を起こせるか? 2026.7.2 リバイバルデザインの新型「ルノー・トゥインゴ」がデビューしてはや3カ月。このクルマの登場により、オリジナルにあたる初代がネオヒストリックとして脚光を浴びることはあるのか? 「フィアット500」の例を振り返りつつ、欧州在住の大矢アキオが考察する。
-
第967回:初代「トヨタ・クラウン」や“ヨタハチ”が「ミッレミリア」を走った! 2026.6.25 イタリアの歴史あるヒストリックカーラリー「ミッレミリア」に、日本のクルマが初めて参加! 石畳の道を行く初代「トヨペット・クラウン」に「トヨタ・スポーツ800」「2000GT」「スープラ」の姿を、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第966回:フェラーリ・ルーチェ 地元イタリアで一般人はこう見た&大矢的こころ 2026.6.18 その斬新すぎるデザインで物議を醸している、フェラーリ初の量産電気自動車「ルーチェ」。このクルマは、おひざ元のイタリアではどのように受け止められているのか? かの地において自動車史と自動車文化をつぶさに見てきた大矢アキオがリポートする。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。