フォード・エコスポーツ タイタニアム(FF/6AT)
ブラジルから世界へ 2014.07.08 試乗記 フォードが世界戦略車として展開するコンパクトSUV「エコスポーツ」。ブラジル・フォード主導で開発されたこのクルマの魅力に迫った。素直で落ち着きのある走り
フォードのコンパクトなSUV「エコスポーツ」は、ブラジル・フォード主導で開発された。このニュースが頭にこびりついて離れないのは、本稿執筆時点で絶賛開催中のブラジルW杯とは無縁ではないだろう。生まれてこのかた、毎日こんなにたくさんのブラジルの映像を目にしたことはなかった。
根が単純なもので、エコスポーツに用意される鮮やかなボディーカラーから原色の洋服があふれるブラジルの街を連想してしまう。そういえばこの個性的なフロントマスク、こんな魚がアマゾン川に潜んでいそうだ。小さいけれど鋭い牙と強靱(きょうじん)な顎を備える肉食魚。エコスポーツといういかにも直球の飾り気のないネーミングは、シンプルなシュラスコの味わい……。
いざ走りだしてまず心に響くのは、乗り心地のよさと正確なハンドリングだ。足まわりはネイマール選手の膝(しつ)関節のようにしなやかに伸び縮みして、路面からのショックを軽くいなす。ステアリングホイールを切れば、守護神ジュリオセザール選手のスパイクのようにタイヤが地面をつかみ、きゅっとターンする。
さすがブラジル生まれ、足技にたけている……、という感想はまったくの見当違いだ。エコスポーツは、足まわりに定評のある同社の「フィエスタ」をベースに開発しているのだ。
1655mmの全高はフィエスタより180mmも高い。けれども、コーナーでグラッと傾くこともなければ、それを防ぐためにむやみに足まわりを固めた様子もない。
コーナーに入ると徐々に、滑らかにロールが深くなり、けれどもあるところでしっかりと踏ん張ってコーナリングを完遂する。このサイズで素直なハンドリングと落ち着いた乗り心地が両立しているあたりは立派だ。
このサイズ、というのを補足しておくと、全長4195mmのエコスポーツは、4135mmの「日産ジューク」や4295mmの「ホンダ・ヴェゼル」と同クラスということになる。
ちなみに、世界的には四駆モデルを導入する市場もあるけれど、日本にはFF(前輪駆動)のみが入る。
回すと爽快なエンジン
乗り心地とハンドリングは「たいへんよくできました」の花マルをあげたいけれど、1.5リッターの自然吸気エンジンと6段デュアルクラッチトランスミッションの組み合わせは「よくできました」止まりだ。エンジン単体に絞ると、「もうすこしがんばりましょう」のハンコを手に取らざるを得ない。
というのも、低回転域のトルクが細いのだ。ストップ&ゴーが続く市街地では、もう少し余裕のある発進加速がほしい。しかもハイブリッドやダウンサイジング+ターボといった新機軸で攻めるライバルたちに比べると、14.5km/リッターというJC08モード燃費も見劣りがする。
しかしながら、ステージを一般道から高速道路に移してしばらくすると、「もうすこしがんばりましょう」のハンコを置いて、「よくできました」のハンコに持ち替えたくなった。
「フォーカス」にも積まれる1.5リッター4気筒エンジンは、ある程度の回転数を保てば滑らかでレスポンスもいい、好エンジンなのだ。シューンと高回転域までシャープに回る、自然吸気エンジンの爽快感も味わえる。古典的ではありますが、エンジンを回すとともに音とパワーが高まるこの感じは気持ちがいい。
6段デュアルクラッチトランスミッションの変速も素早く、注意しないと変速したことに気づかないほどスムーズだ。
高速でのパワートレインの出来のよさを知ると、「エンジンが悪いのではない。渋滞が悪いのだ」と、かばいたくもなる。
エンジン・オブ・ザ・イヤーに輝いたフォード自慢の3気筒の1リッター直噴ターボ「エコブースト」を積みたいところではあるけれど、エコスポーツの場合、エコブーストはMTとの組み合わせになるという。それだと日本ではちょっと厳しい。
帯に短したすきに長し、とはこのことだろう。
純欧州車とはひと味違う魅力
足まわりと並ぶこのモデルの美点は、パッケージングだ。まず、後席が広い。身長180センチの筆者が前席シート位置を合わせて、それから後席に座っても膝のまわりに十分なスペースがある。座高には自信のある筆者でも頭上空間には余裕があったから、大人4人で出掛けるのはまったく問題ない。しかも後席は左右別々に背もたれの角度を調整できる。
荷室が広いのは、スペアタイヤを背中(テールゲート)に背負ったからだ。荷室の床下スペースにスペアタイヤを置かなくて済むぶん、荷室に余裕が生まれた。後席を倒せば、「2人乗り大容量荷役車」として使うこともできる。後席を倒す機構もよくこなれていて、使いやすい。
インテリアで関心したのは、小物を収納するスペースが豊富に用意されているところだ。その数、なんと20カ所。しかも、350ccの缶が6本収まるグローブボックスの中は、冷房を使っている時なら冷却機能が働く。
冒頭でブラジル・フォードが主導して開発されたと書いたけれど、おおらかなイメージのあるブラジルのみなさんが、こんなにキメの細かい気配りをしたのか。W杯にスタジアムの完成が間に合わないかもしれないといわれていたのに……。
その理由はこうだ。2003年にデビューした初代エコスポーツは、ブラジルをはじめとする中南米で大ヒット。そしてこの10年あまりで、ヨーロッパやアメリカでも小型SUVの需要が増した。
そこで2代目エコスポーツは、グローバル市場を見据えて開発された、という経緯がある。ブラジル主導ではあるけれど、世界各地のフォードの英知が注ぎ込まれているのだ。
たとえて言うなら、ブラジルのサッカー選手がヨーロッパのクラブチームを経験して戦術的に洗練された、といったところか。
ただし、洗練されたとはいえ、人懐っこいキャラクターは日本車や純欧州車とはひと味違う。サンバが流れる白砂のビーチが似合う陽気で生命力の強そうなキャラが、このクルマの持ち味だ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フォード・エコスポーツ タイタニアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4195×1765×1655mm
ホイールベース:2520mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:111ps(82kW)/6300rpm
最大トルク:14.3kgm(140Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)205/60R16 92H/(後)205/60R16 92H(グッドイヤー・アシュアランス)
燃費:14.5km/リッター(JC08モード)
価格:246万円/テスト車=254万520円
オプション装備:メタリックカラー<マーズレッドMe>(6万円)/フロアマット(5万520円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車開始時の走行距離:4280km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:295.6km
使用燃料:24.6リッター
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】 2026.7.17 「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。
-
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.7.15 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。
-
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】 2026.7.15 ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。
-
プジョー308 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.7.14 マイナーチェンジで内外装がブラッシュアップされた「プジョー308 GTハイブリッド」に試乗。大胆なデザインのフロントフェイスに目を奪われるが、ステランティス自慢の1.2リッター直3マイルドハイブリッドを搭載する最新モデルの仕上がりと走りやいかに。
-
日産キックスG(FF)/キックスX e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.7.13 日産のコンパクトSUV「キックス」が、いよいよフルモデルチェンジ! デザインもパワートレインもプラットフォームも刷新された新型は、見ても乗っても長足の進化が感じられる力作となっていた。日産の再生を担う重要モデルの仕上がりを報告する。
-
NEW
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。 -
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの
2026.7.16マッキナ あらモーダ!アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。




