メルセデス・ベンツC63 AMGクーペ ブラックシリーズ(FR/7AT)【海外試乗記】
サーキットの遊び人たちへ 2011.12.12 試乗記 メルセデス・ベンツC63 AMGクーペ ブラックシリーズ(FR/7AT)あの「C63 AMGクーペ」をさらに獰猛(どうもう)に仕立てた「ブラックシリーズ」。517psのモンスターを、「コークスクリュー」で有名なラグナセカレースウェイで試した。
日本向けはすでに完売
ブラックシリーズ――何ともおカネの匂いに満ちたサブネームじゃないか。メルセデスの乗用車のプレミアム ハイパフォーマンスラインナップであるAMGの、さらに「上」をいく存在。いささかの嫉妬をこめて、「屋上屋を架する」とついつい皮肉りたくなる。
最初は、2006年の「SLK55」だった。120台限定で400psのスーパー「SLK」だ。そして2007年の「CLK63」(700台、507ps)、2008年の「SL65」(150台、670ps)と続いた。今回の「C63AMGクーペ ブラックシリーズ」は、言ってみればCLK63の生まれ変わりである。台数限定車ではなく、2012年いっぱい生産される。
とはいえ、日本市場への割り当ては50台プラスアルファで、残念ながら予約注文時点で完売となってしまった。聞くところによると、何でもディーラーの見込み注文も含めて、200件前後の申し込みがあったらしい。東京モーターショーでも展示されたから、問い合わせの電話はその後も鳴り続いていることだろう。
つまり、多くの人が試乗はおろか、現物を見ないで注文をしたわけである。これまでの実績があり、信頼されているからこそのビジネス。これぞプレミアムスポーツブランドの神髄だ。もちろん、写真で格好くらいは確認したことだろう。そして、「SLS GT3」由来のド迫力スタイリングに圧倒され、心を揺さぶられたその勢いで判をついてしまった、という感じではないだろうか。
ギンギラエアロでさりげなく!?
ボディーをぐるりと取り巻くエアロデバイスは、すべてノーマル「C63クーペ」とは異なるデザインだ。穴や出っ張りやデカい羽根は、いずれも性能と空力によって導かれたものである。特にフェンダーの張り出しは、「ハコ」のスポーツカー好きにはたまらないのではないだろうか。トレッドを前40mm、後79mmワイドにしたため、フェンダーも前28mm、後42mm(いずれも片側)ずつノーマルモデルよりもフレアしている。
写真で見た時は「ちょっと子供っぽいかな」と思ったカーボンパーツ類も、実物を見てしまうとその仕上がり質感の良さに驚き、とりこになってしまった。ちなみに、フロントの両端に2本ずつ備わるカナードや、調整が可能なハイリアウイングは、本国仕様の場合、「AMGエアロダイナミクスパッケージ」というオプション品である。
SLS由来の巨大な軽量鍛造アロイホイールと、フロントコンポジット ディスクブレーキの組み合わせもまた、レーシーなスタイルに華を添えている。極めつけはエンブレムだ。トランクリッドのAMGロゴには、さりげなく「ブラックシリーズ」の文字が輝く。
一方、インテリアはエクステリアほどモディファイされていないように感じられるかもしれない。確かに、ダッシュボード周りのデザインはそうだ。けれども、よく目を凝らしてみれば、赤いシートベルトやステッチ、AMGパフォーマンス ステアリングホイールなど、細かく変更されているのが分かる。そして、ダッシュボードにもAMGブラックシリーズ専用のバッジが装着される。
インテリアにおけるノーマルモデルとの最大の違いは、2シーターであることだろう。フロントシートはフルバケットのスポーツタイプとし、リアシートは取り払って棚状になっている。とはいえ、そこは「おもてなし」のプレミアムブランド、4シーター仕様も選ぶことができる。ただしその場合、フロントにはフルバケットシートではなく、ノーマルと同様のデザインのスポーツシートが装備される。
さらに、「SLS AMG」に搭載されたのと同じ「AMGパフォーマンスメディア」も採用された。これは、各社のスポーツモデルで流行中のテレメトリーディスプレイシステムで、エンジンデータや前後左右Gなど、走行中のさまざまな車両状態を表示し、記憶するというものだ。試乗会はコークスクリューで有名なラグナセカ“MAZDA”レースウェイで開催されたが、お土産に自分の走りと、かのベルント・シュナイダーの比較データが渡された。
恥ずかしくてお披露目できないほどの差があり、がくぜんである……。現実を見つめてこそ、進歩がみえる? 可視化のメリット(というか不幸?)はここにもあった。
コレクターズアイテム化は必至
ほぼ全員がせいぜい写真を見ただけで注文したわけだから、ブラックシリーズ最大の見どころはデザインにあると言っていいだろう。けれども一方で、それに見合ったパフォーマンスが十分に期待できるからこそ、派手なエクステリアも歓迎された、と解釈することもできるはずだ。
その期待は裏切られなかった。アルミニウムフードの下に収まるのは、AMGオリジナル開発ユニットの6.2リッターV8自然吸気エンジンだ。ドライサンプ式専用チューンのSLS AMG用M159エンジンと区別して、こちらはM156と呼ばれる。
そのパワースペックは517psに達した。M156ユニットはM159と同様の作法、すなわち鍛造のピストンやコネクティングロッド、軽量設計のクランクシャフトで仕立てられたハイスペック仕様のエンジンである。しかし、このエンジンは現行モデルのC63をもってお役御免となるから、これがおそらくファイナルスペックとなるだろう、などと聞かされた。そうなると、注文しなかったことがますます悔やまれる方も多いはず。コレクターズアイテム化は必至である。
組み合わされるトランスミッションは、ご存じ「AMGスピードシフトMCT7段スポーツ」。7Gユニットにすっぽり収まる多板クラッチ式のセミMTシステムだ。そのほか、ワイドトレッド化された足まわりには、新開発の「AMGコイルオーバースポーツサスペンション」が装着される。好みに応じたさまざまなセッティングが可能だ。また3ステージESPや、リアデファレンシャルロックなども標準装備である。
巌のごときスタビリティー
前述したように、試乗会はラグナセカで行われた。一行を先導するのは、ベルント・シュナイダーの駆るSLS AMGだ。
順番待ちをしている間、ストレートをカルガモ走行するSLSとC63ブラックシリーズのサウンドにじっくり耳を傾ける。基本的に、アメリカンマッスルを意識したSLSサウンドと同じ方向性の音である。盛大に空気を吸い込み、ためらうことなく後ろへ吐き出す音、といった感じである。
乗ってみても、SLSの車高(重心高)を上げてサルーンにすればきっとこんな感じだろう、というライドフィールだった。とにかくステアリングフィールがビビッドでカッチリしており、ノーズは気持ちよくコーナーの内を向く。ノーマルの「C63AMG クーペ」よりも明らかにフラットで安定しているのだ。
そして予想どおり、リアのスタビリティーが恐ろしく高い。C63クーペはどちらかというと楽しげにオシリを振るタイプのクルマだったが、ブラックシリーズはその領域が高く、しかも狭い。正直、マトモなテクニックがなければ、ノーマルのC63クーペのようには楽しめないだろう。
というわけで、マトモなテクニックに欠ける筆者はというと、「待ってろ、シュナイダー!」と意気込んで走りだしてはみたものの、1コーナーで早くも「待ってよ、シュナイダー……」と泣きが入った。ラグナセカ名物の「コークスクリュー」には、もうラインも何も分からない状態で突入して、あやうくコースアウトしそうになった。
結論。ブラックシリーズは、いまC63ではやっているらしい「サーキット遊び」を極めつつある人のための、ステップアップマシンである。なので、ぜひ2シーター仕様でお楽しみください。
(文=西川淳/写真=メルセデス・ベンツ日本)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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