BMW 428iグランクーペ ラグジュアリー(FR/8AT)
粋筋のクルマ 2014.07.14 試乗記 2ドアクーペとカブリオレに続いて、「4シリーズ」のラインナップに加わった4ドアモデル「グランクーペ」。「3シリーズ」とは異なるその魅力を味わった。エンジンがイイ
曲率の大きな長尾峠の登りを、「428iグランクーペ」はスイスイ登っていく。2リッターの直4ガソリンターボエンジンは3.5リッター並みの大トルクを生み出し、1630kgの車重をためらうことなく押し出す。
エンジンがイイ。6000rpmを軽々と超え、7000rpmまで気持ちよく回りきる。全域トルキーで、出力特性にドラマがある。普段は静粛で雑音を発しない。高回転域になると、乾いた野太い音が控えめに聴こえてくる。
アクセルオフ時にエンジンブレーキはまったく利かない。高効率をモットーとする現代では、エンジンブレーキという概念自体、忘却という名の川に投げ捨てられた。ときどき思い出して、懐かしむ人がいるのみである。
外寸、ホイールベースは2ドアと同一だけれど、4ドアはルーフが112mm長くて、12mmだけ高くなっている。その分、リアのマスが大きくなっている。見た目がデカイのはそれゆえだろう。セダンの「3シリーズ」より大きく感じるのは、実際にセダンより、わずかに長く、幅が広いからだ。
操るとコンパクト
2世代前のE39型「5シリーズ」に近い、つまりアッパーミドルクラスの体躯(たいく)にもかかわらず、「1シリーズ」……、いや1シリーズ以上にコンパクトなものを操っている感がある。ひとつには、オプション装着の「バリアブル・スポーツ・ステアリング」の恩恵だろう。操舵(そうだ)量に合わせてステアリングのギアレシオが連続的に変化するこれは、ステアリングを大きく切るほど前輪の切れ角が大きくなる。だから、小さなRが連続する長尾峠を苦にしない。ごく自然で、人車一体感がある。
セダンより広げられた前後トレッドも、奏功しているのだろう。ロールは軽微で、乗り心地は硬めではあるけれど、鋼鉄のボディーが路面からの攻撃をはね返す。ブリヂストンのランフラットタイヤはもはやサイドウォールの固さを片時も誇示したりしない。
鼻先の軽さは、ステアリングが軽いことに加えて、車検証の数字が証しを立てている。前荷重が790kg、後ろが840kg。大型テールゲートが加わったことで、リアが重くなった。セダンの「328i」より、車重は70kg増えている。おかげで、分厚いトルクを255/35R19の巨大なタイヤに伝達するに十分な荷重が得られる。
シフトパドル付きの8段オートマチックは、選択肢が多い分、つねに適切なギアを選ぶことができる。隔靴搔痒(そうよう)の反対、靴の上からも痒(かゆ)いところに手が届く。
「便利と環境」だけではないクルマ
BMWの真骨頂は、後輪駆動のスポーツサルーンである。「4シリーズグランクーペ」はまさしくそれだ。クーペを名乗る分、ご本家筋の3シリーズ セダンより、スポーティーであろうとした。そのことが結果として、清新な運転感覚をもたらした。
「いかにもBMWらしいスポーツセダン」という表現は、当然すぎることを述べただけであり、いたずらに言葉をかさねて形容する同語反復で、なにも語っていないに等しい。それでもBMWらしいと表現せざるを得ないのは、それが簡単で、一番わかりやすいからだ。
……というくだりは、『小津安二郎の反映画』(岩波現代文庫)で吉田喜重が書いている文章にインスパイアされてマネしました。
「むしろ親しみをこめて小津さんらしい、あるいは小津作品らしいと口ずさむことによって、その映像が漂わせる限りない曖昧さを楽しみ、ともに戯れることが、小津さんの映画を見ることの歓びにほかならなかったからである」
閑話休題。4シリーズグランクーペは、こんにちのBMW隆盛の礎である3シリーズセダンに比べると、後席のヘッドルームまわりが若干不足する。なだらかに降下するルーフラインがそれを強いる。座高の高い筆者の場合、後頭部が天井にくっつく。ただし、胃腸の短い西洋人であれば、おそらく、これを問題としないであろう。2810mmのホイールベースはセダンと同一で、足元は十分広い。
運転席は、3との区別がつかない。当初、Aピラーの角度が寝ているように思われたけれど、高低を調整できるシートを低くすればするほど、頭上に余裕ができる(当たり前ですね)。3シリーズ同様、着座位置はピュアスポーツカー並みに低くなる。
バイエルンのドライバーズカーが後席住民に我慢を求めるのは伝統である。つまり、たいした問題ではない。ドライバーズカーとはそういうものだ。
ご本家筋の3シリーズに対するアドバンテージとして、4ドアのクーペは巨大なリアゲートを持っている。ボディーパネルの隙間を巧妙に隠しているため、知っている人でも、そのことを忘れそうである(本当に忘れたら、ココナツミルクを飲むといいらしい)。
480リッターのトランク容量はセダンと同一で、後席を倒せば、1300リッターに拡大できる。使い勝手は4の勝ちかもしれない。
リアガラスの面積が上下に狭いのは、クーペの宿命だ。そのかわり、後ろのクルマのドライバーを瞠目(どうもく)させることができる。張り出したリアフェンダーとキャビンのバランスに、私はしばし見とれた。便利と環境に明け暮れる、近頃にはまれな、粋筋のクルマなのだ。
対「A5スポーツバック」戦略兵器
3シリーズは、日本のBMW販売の全体の40%を占める大黒柱である。この大黒柱をさらに成長させるべく、昨年「グランツーリスモ」を導入した。ご存じのように、クーペのようなルーフラインと実用性を兼ね備えた、新コンセプトとされるモデルだ。
加えて、かつての3シリーズ クーペを「4」に改名し、独立させた。4シリーズは、インゴルシュタットのライバルに対する対抗策でもあろう。あっちは4がセダン、5がクーペである。
バイエルンの4は、2ドアクーペ、同カブリオレときて、今回、4ドアクーペを新たに加えた。今後、4のグランツーリスモやツーリングが出てくるやも知れぬ。BMWを選ぶ21世紀の人々は、わずかな違いに敏感に反応する繊細な人々である。
パワートレインは、いまのところガソリンのみの3種で、3リッター直6ターボの「435i」を頂点に、2種の2リッター直4ターボがある。直4は、184psの「420i」と245psの「428i」である。ギアボックスはすべて8段ATで、モデルによってはパドル付きとなる。
豪雪地方向けに四輪駆動のxDriveの設定もある。対「A5スポーツバック」戦略兵器、であれば必然だ。
ちなみに、「A5スポーツバック 2.0 TFSIクワトロ」は、211psで597万円。「420i xDriveグランクーペ」は547万円からである。どっちがいい、とは軽々には申し上げられない。BMW対アウディは、アントニオ猪木対モハメド・アリ戦にも似て、甲乙つけ難い。
試乗車の428iグランクーペは、ぜいたくなレザーシートを備える「ラグジュアリー」で、車両本体価格は670万円。「電動ガラス・サンルーフ」やら「レーン・チェンジ・ウォーニング」やら「アクティブ・クルーズ・コントロール」やらの各種装備を満載して、オプション価格だけで117万1000円。計787万1000円に達する。このような見積書を見て、涼しい顔でハンコを押し、「この中身なら安い!」と断言したりすることを、「いき」というのである。
(文=今尾直樹/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
BMW 428iグランクーペ ラグジュアリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640x1825x1395mm
ホイールベース:2810mm
車重:1630kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245ps(180kW)/5000rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1250-4800rpm
タイヤ:(前)225/40R19 89Y/(後)255/35R19 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:15.2km/リッター(JC08モード)
価格:670万円/テスト車=787万1000円
オプション装備:パーキング・サポート・パッケージ(11万3000円)/バリアブル・スポーツ・ステアリング(28万5000円)/電動ガラス・サンルーフ(17万5000円)/スルーローディング・システム(2万9000円)/パール・ウォールナット・ウッド・トリム<象牙細工>・パール・グロス・クローム・ハイライト(3万円)/アダプティブLEDヘッドライト(17万円)/レーン・チェンジ・ウォーニング(7万7000円)/アクティブ・プロテクション(5万1000円)/アクティブ・クルーズ・コントロール(9万8000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)/メタリック・ペイント(8万2000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1102km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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