第355回:さすが世界遺産の国!? イタリア式速度取り締まり機
2014.07.11 マッキナ あらモーダ!設置が進む旅行時間測定型
イタリアでは毎年7月下旬から大きな企業や工場が夏休みに入る。それを待ちきれない人たちは、毎週末海へ向かうので、アウトストラーダはすでにレジャーグルマでごった返している。
高速道路といえば切り離せないもののひとつが、自動速度取り締まり機だ。今回はそのイタリア事情をお話ししよう。
「太陽の道」をはじめとするイタリアの主要幹線で2004年から設置が進められてきたのは「Tutor(チューター)」と名付けられた自動速度取り締まりシステムである。10km~25km間隔で設置されたカメラで通過車両のナンバープレートを読み取り、区間平均速度を計測している。日本の旅行時間測定システム(Tシステム)を取り締まりに使っている、と考えればよい。
チューターの設置された道は総延長2500kmに達している。車線をまたぐ頭上のセンサー+カメラとともに「Controllo elettronico della velocita con sistema Tutor」と書かれた緑の標識があるので、すぐにわかる。管理会社の「アウトストラーデ・ペル・イタリア」によれば、この設備によって死亡事故は51%、負傷事故は27%減少したという。
代わって、従来型の自動速度取り締まり機は、固定型も、警察官が臨時で設置する日本でいうネズミ捕り型も、総じて「アウトヴェロックス」と呼ばれている。調べてみると、ある取り締まり機製造会社の登録商標だったが、同社の商標が一般名詞化してしまったらしい。「ばんそうこう」と「バンドエイド」の関係である。
高速道路と国道のアウトヴェロックス設置場所は内務省/交通警察のウェブサイトで公表されている。臨時の取り締まりの場合でも、数十メートル手前に、必ず「取り締まり中」の告知立て看板がある。
注意すべきは中世街道そのままの一般道で、村を通過するときだ。村の中は、制限速度が低く設定されていて、自動取り締まり機が設置されている場合が少なくない。取り締まり機設置の看板だけで、実際には取り付けられていない場合も多いが、法令順守は言うまでもない。
参考までに反則金の課金に関しては、各道路の制限速度によって許容範囲が決められている。現行では制限速度が100km/h以下の場合はプラス5km/hまで、110km/hはプラス6km/hまで、120および130km/hはプラス7km/hまでがセーフで、課金の対象とならない。
越境違反に注意!
ところで国境を越えた交通違反はどうなるのか?
速度違反の話ではないが、ボクが知るスイス人はある年、イタリアにバカンス中、ワイパーに挟まれていた駐車違反切符をボクの目の前で破って捨ててしまった。そして「過去にも、スイスまで請求が届いたためしがないから」と言い放った。
イタリアの街中で駐車違反を取り締まっているのは、各市役所の管轄である市警察だ。処理が到底追い付かないためであろう。
一方、彼の国、スイスでカントン(州)ごとに組織され、幹線道路や高速道路の取り締まりにあたっている交通警察は、かなり厳格だ。たとえイタリアナンバーのクルマであろうと、反則金請求書とクレジットカード決済を含む支払い方法の説明書が、1カ月とあけずに送られてくることは、つとに知られている。
しかし読者の皆さんは、イタリアでスイスの知人のまねをしてはいけない。どこまで処理するかは各自治体の市警察次第で、正確に処理しているところだってあるからだ。また、同じイタリアでも、国家警察の交通警察隊が監視する道路の交通違反は、たとえ外国ナンバーでも、より厳格に反則金の徴収が行われている。
レンタカーの場合も同じだ。かつてある営業所では、「これは、すべて“要請求”だよ」と、警察から事務所に届いた反則切符の束をボクに見せてくれた。彼は営業所では違反した顧客に、イタリア国内・外に関係なく納付用の振替用紙をこつこつと送付していた。この営業所のお客だったわけではないが、日本にいるボクの知人は、イタリアでクルマを使用してから、なんと1年後に東京へ書類が送付されてきたという。
また前述の「イタリアに速攻で届くスイスの反則金」のように、EU加盟国や周辺国の警察が情報共有を密にしている今日である。たとえ別の国に旅行した場合でも、反則金を延滞したことで思わぬ不利益をこうむるかもしれない。したがって、これまで以上に安全運転が求められる。
古い取り締まり機が遺跡に!?
最後にもうひとつ情報を。
アウトストラーダでは、冒頭のように最新の区間速度計測式の導入が進む一方で、すでに使われなくなった自動速度取り締まり機も撤去されず、放置されている場合が少なくない。最後のイラストのような形状をしたものが代表例といわれる。今のような金属の箱ではなく、しっかりとしたコンクリート製で、ふたつ穴が空いているが、そこにはめられたガラスがやたら汚れたり割れたりしていて、明らかに使用されている状態ではない。
この旧型が残っているのは、太陽の道で早くから開通した区間である。その風化した外観に「初めて設置された頃、それまでわが者顔に飛ばしていたフェラーリやランボルギーニのドライバーたちは、かなりビビったんだろうな」などと思いをはせたくなる。
今も蒸気機関車時代の給水設備がホームに残っていることが多いイタリアである。緊縮予算で撤去費用の捻出が難しくなるなか、古いスピード取り締まり機は道端に放置されてゆくに違いない。
世界遺産の数、ナンバーワンの国イタリア。街を掘り返せばローマ遺跡が出てくるのは日常茶飯の話であるが、やがてアウトストラーダも、遺跡のような歴代取り締まり機の林を走るようになるのだろう。
(文と写真、イラスト=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
NEW
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
NEW
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。 -
第343回:おやじ、涅槃で待つ
2026.8.31カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない? -
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.8.31試乗記フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。