BMW 225iアクティブツアラー(FF/8AT)
遅れてきた本命 2014.08.14 試乗記 BMWがプレミアムコンパクト市場に投入するニューモデル「2シリーズ アクティブツアラー」の国際試乗会が、オーストリアのリゾート地、ゼルデンを中心に開催された。「BMWがつくったFF(前輪駆動)車」の注目の走りと、そこから広がる同社の戦略をリポートする。標高2174mでのプレゼンテーション
BMWが今回のテストドライブ用に設定したコースのうち、最も距離の長いインスブルック空港からゼルデンまでの約200kmをドライブする。空港近くに設けられた試乗会場には、真新しい2シリーズ アクティブツアラーが20台近く用意されていた。日本から向かったジャーナリストやメディア関係者は12人。往路ではほぼ全員が、日本にも導入されるであろう本命の「225i」に乗り込んだ。
今回の試乗会は、前述したゼルデンと空港の往復が基本ルートである。往路で到着した日の夕方には、ロープウェイで標高2174m地点の乗換駅に向かい、そこに特設された会場でプレゼンテーションが行われた。さらにプレゼンがスタートすると、先ほどのロープウェイに載せられて、ステージに2シリーズ アクティブツアラーが登場。この演出には度肝を抜かれた。
なぜこんなことをわざわざ書いたかというと、この地が試乗会場に選ばれたことからも、BMWの新しいファミリーである2シリーズ アクティブツアラーの世界観と、同社のこのクルマにかける意気込みがひしひしと伝わってきたからだ。
この時期、イタリアとの国境近くに位置する巨大リゾート地のゼルデンは、アウトドアレジャーやアクティビティーを楽しむ観光客でにぎわう。プレゼンテーションで語られた「コンパクトでも室内が広いクルマがほしいと思っている新しいファミリー層には、このクルマがピッタリくる」という話からもわかる通り、この新しいBMWのターゲットは、すなわち彼らなのだ。
FF化は「当然の選択」
今回の試乗で筆者が注目したポイントは大きく3つ。1つ目は、BMWブランド初となるFF方式の採用について。2つ目は、いわゆる「プレミアムコンパクト」市場に後発ながら打って出る理由と、その勝算。そして最後が、ベースとなる「MINI」との味付けの違いである。
まずFFを採用した理由だが、このセグメントは先行する「メルセデス・ベンツAクラス/Bクラス」や、世界的なFF車のベンチマークである「フォルクスワーゲン・ゴルフ」など、手本かつライバルとなるクルマが数多くある。BMW本社でパワートレイン関連のマネジャーを務めるローランド・ヴェルツミューラー氏によれば、「アウトドアやスポーツなどをアクティブに楽しみたいユーザーは、道具や人を乗せる機会も多い。今まで以上に広い後席や、効率的なユーティリティーを確保するためには、FF化は当然の選択である」とのこと。同時にMINIとの関係について、「パワートレインこそ共通している部分はあるが、走りの味付けなどはまったく異なる」と付け加えることも忘れなかった。
2シリーズ アクティブツアラーのボディーサイズは、全長4342×全幅1800×全高1555mm、ホイールベースは2670mmとなる。全高1555mmでは日本の多くの立体駐車場に入らないのではという不安がよぎったが、今回の試乗車にはオプションの「Mスポーツ・パッケージ」が装着されていた。これを選択すると車高が10mm下がるので、この問題はクリアされる。すでに日本に導入済みの「BMW i3」も同じような手法で対応しているので、このクルマも問題はないだろう。ちなみに足まわりに関しては、「ノーマル」「Mスポーツ」、電子制御の「ダイナミック・ダンパー・コントロール」の3種類の仕様が設定されている。
このボディーサイズに一番近いライバルといえば、メルセデス・ベンツBクラスだろう。一方で、現行の「フォルクスワーゲン・ゴルフVII」は全高が90mm前後低いことや後述するラゲッジルームの広さなどからも、直接の比較対象とはしづらい。もしあえて、というのであれば「ゴルフヴァリアント」あたりか。もしくは「プジョー2008」のような、BセグメントのSUVのほうが、ライバルとなりうる存在だろう。
走りもスペックもMINIとは別物
ドライバーズシートに腰掛けると、目に飛び込んでくるのはBMWの一連のデザインテイスト。エクステリアは最初、ボテッとした印象だったが(それも乗っているうちに慣れてくる)、SUVの「X1」より10mm高いヒップポイントや、ウィンドウの面積、三角窓(ただピラー自体はやや太い)から見える視界の広さなどによって、車両感覚はつかみやすい。
エンジンを始動し、アイドリング状態を確認したところで、前出のヴェルツミューラー氏の言葉を少し思い出した。ステアリングに伝わる振動の少なさ、またこの状態での静粛性から、MINIとは違うベクトルで開発されたことがわかるのだ。
誤解のないように言っておくが、MINIのほうがレベルが低いということではない。オンザレール感覚で元気に走るクルマにはそれなりの演出が必要だろうし、その気になればアクティブツアラー並みに静粛性を上げることもできるはずだ。しかし、MINIとアクティブツアラーではクルマの性格や使命自体がそもそも異なる。新しい(プレミアム)層を獲得するために2シリーズ アクティブツアラーに施された“しつけの良さ”はなかなかのものといえよう。
走りだせば35.7kgm(350Nm)の最大トルクをわずか1250rpmで発生することもあり、その加速は力強くかつスムーズそのもの。225iのユニットは「MINIクーパーS」と同様の2リッター直4 DOHCターボだが、スペックはMINIクーパーSが192ps(141kW)/5000rpm、28.6kgm(280Nm)/1250-4600rpmなのに対し、225iは231ps(170kW)/4750-6000rpm、35.7kgm(350Nm)/1250rpmと、車重増に応えるため、またワンランク上の走りを実現するために高出力化している。追記すると、オートマチックトランスミッションはMINIの6段に対して225iは8段。アイドリングストップ機構やコースティング機構により、燃料消費率は6.0リッター/100km(約16.7km/リッター、欧州複合モード)となかなかの低燃費ぶりだ。
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駆動方式は問題ではない
何よりも気になるのは、FF化によって「BMW伝統の走りがどう変わってしまうのか」という点だろう。しかし、そこに関しては心配無用だった。
もともと駆動と操舵(そうだ)を一緒にするFFは、確かにハンドリングの点ではFRより自然なフィーリングに欠ける……クルマも多い。しかしこのクルマに関しては、路面からのインフォメーションや操舵に対するボディーの追従性は、従来のBMWと比べてもそん色なし。さらに言えば、鼻っ面が重くなるFFのクセをここまで見事に打ち消しているのには驚きである。また空力の良さ(Cd値は0.26)も手伝って、高速道での路面に吸い付くようなフィーリングも好印象だ。もちろん、旋回中にアクセルを余計に踏み込んだ際など、「あ、FFだ」と感じる部分があるのは事実。しかし、このデキを前にすると、正直「それがどうした!」である。
それでも「BMWはFRじゃないと」と思っている人や、前後バランス50:50にこだわり続けてきた同社の姿勢に共感を持っている人にとっては、FF化は納得できない部分もあるだろう。しかし、ことハンドリングに関しては、FFとかFRとかを論じる前にステアリングを握ってみてほしい。
ちなみに、2シリーズ アクティブツアラーはニュルブルクリンクでのテストも行っており、ベストタイムは8分45秒とのこと。320psのハイパフォーマンスエンジンを搭載する「M135i」でも8分18秒なのだから、そうした点からも「このクルマはFFだから……」という議論は不毛なものになっていくのだと思う。
狙い通りの快適性と利便性
試乗車には、前述した通りMスポーツ・パッケージが装着されており、タイヤも標準よりワンサイズ大きい18インチが装着されていたが、前席はもちろん後席でも非常に乗り心地が良かった。路面からの突き上げをうまく吸収しているのは当然として、特に後席がFF化の恩恵をしっかりと受けており、乗降性が良いばかりか、足元と頭上のクリアランス、さらにショルダー周りの空間が見た目よりはるかに広く、2クラスくらい上の高級セダンにも劣らないレベルである。この点でも、冒頭で触れた「ファミリーを含めた新しい顧客層」が納得できる仕上がりになっている。さらに、BMW車とは思えないほど(失礼)収納類が多い。まるで日本車のようなホスピタリティーである。
さらにラゲッジルームに目を移すと、これが5ドアハッチバックのレベルを超えて、ステーションワゴンに迫る容量と使い勝手を得ていることがわかる。リアシートの分割は40:20:40。サスペンションの出っ張りをうまく抑えており、実用性も高い。容量は5人乗車時で468リッターの容量。ちなみにフォルクスワーゲン・ゴルフは380リッター。さすがにゴルフヴァリアントの605リッターには届かないが、それでも広さは十分以上。助手席まで倒せば、2.4mの長尺物も積めるという。
日本への導入は2014年秋を予定しているとのことだが、ライバルとなるメルセデス・ベンツBクラスとうまく競合できるプライスタグを付けてくることは間違いないだろう。特に1.5リッター直3ターボエンジンを搭載する「218i」は、Bクラスのエントリーモデルより魅力的なプライスになる可能性が高い。
BMWの新しい戦略が始まる
今回は2リッター直4ディーゼルを搭載する「218d」にも試乗。「本国仕様はこれが標準」という6段MTを操りながら、1000rpmも回っていれば十分走行できるトルクの太さや、ディーゼルとは思えない静粛性、制振性など、その走りの良さを十分に堪能させてもらった。燃費に関しても、225iより約3km/リッター程度は良かったことを報告しておく。導入自体がそもそも未定なのだが、昨今のディーゼル人気にBMWが乗らないわけがない。もともと「3シリーズ」を中心にディーゼルエンジンでは定評のある同社ゆえ、若干遅れてでもAT仕様が日本へ入ってくるはず……と期待を込めて言っておこう。
今のところ2シリーズ アクティブツアラーのラインナップは、2つのガソリンエンジンと1つのディーゼルエンジンの3種類。駆動方式はFFのみだが、欧州ではこの冬にも「xDrive」(4WD)を導入する予定だという。さらにはプラグインハイブリッド車や、このプラットフォームを使った7人乗りモデルの開発も視野に入れているそうだ。
ここ数年の動静を見ると、同社はとにかく横方向への展開、つまりラインナップの拡充が早い。さらに言えば、「あのBMWがつくったFF車」というのは“i”や“M”に通じるある種のブランドでもある。BMWは当面のメインマーケットとして欧州と中国を想定している。もちろんこれは正しいし、成功するだろう。しかしこのクルマ、日本市場にもジャストミート(古い)ではないのか。何よりもメルセデス・ベンツがBクラス、そしてAクラスで成功した市場を放っておくのはもったいない。国産車からの乗り換え、高級セダンなどからのダウンサイザーなど、BMWが提供するブランド力と走行性能、そして国産車をも凌駕(りょうが)するユーティリティーや環境性能などを持ってすれば、割って入るチャンスは十分にある。
世界的に見ても、大きな需要があるプレミアムコンパクト市場の勢いは、このクルマの登場でさらに加速することだろう。
(文=高山正寛/写真=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW 225iアクティブツアラー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4342×1800×1555mm
ホイールベース:2670mm
車重:1430kg(DIN)
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:231ps(170kW)/4750-6000rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1250rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:6.0リッター/100km(約16.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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高山 正寛
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