BMW X4 xDrive35i Mスポーツ(4WD/8AT)/X4 xDrive28i Mスポーツ(4WD/8AT)
隠せぬ血筋 2014.09.12 試乗記 BMWが「X6」で先鞭(せんべん)をつけた“クロスオーバークーペ”が増殖! ひとまわり小さな「X4」が登場した。箱根のワインディングロードを舞台に、そのフットワークをチェックする。「X6」が“縮小進化”
メルセデスにBMWにアウディ……と、ドイツのプレミアムブランド発のニューモデル攻勢が、このところ何ともすさまじい。それはまさに「隙あらば新車投入」と表現したくなるほどの勢いだ。
実際にはどうやっても、ニューモデルを投入するまでには数年の開発期間が必要になる。このタイミングで世に生を受けるモデルたちは、少なくとも数年前には“仕込み”に入っていた計算だ。
けれども、3Dプリンターなるもので実用に耐え得る成形品がアッという間に完成してしまうのが今の時代。それだけに、こうして次々と姿を現すニューモデルたちを見ていると、それと同様のお手軽さで出来上がってくるのではないか? と錯覚しそうになる。
ここに紹介する「X4」というモデルが、兄貴分の「X6」の成功に味をしめ、その“縮小コピー”という方向性で進化を遂げたものであろうことは容易に想像が付く。巨大なアメリカ市場に的を絞ったフルサイズモデルに対し、その他の多くの市場への適応性も意識してダウンサイズを図ったモデルをリリースするのは、これまた冒頭に掲げたジャーマン3メーカーの、昨今の常とう手段である。
かくして誕生したX4は、X6と同様に“スポーツ・アクティビティー・クーペ”の一員と紹介される。そもそも「X5」や「X3」など、Xシリーズ中の基盤モデルさえもBMWは「それはSAV、すなわちスポーツ・アクティビティー・ビークルである」と強調している。タフではあるが鈍重なイメージが付きまとう、そんじょそこらのSUVとは一緒にしてほしくない! と主張をするSAVのさらなる発展系が、X6やX4などの“偶数系”が属するスポーツ・アクティビティー・クーペであるということだ。
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フル4シーターか2+2か?
前述のように、X4のプロポーションは、一見ではX6と“相似形”とも思える。そのサイズは、ネーミングからも明らかなように、当然X6よりも小さい。
そうはいっても全長はおよそ4.7mで、全幅もあと2cmで1.9mの大台。これでもX6よりは20cm以上短く、幅も10cm近く狭いのだが、それでも決して“小さく”は見えないX4を目の当たりにすると、むしろX6がいかに巨大であったかを、あらためて教えられることになる。
X6の最小回転半径は6.4mという“とんでもない”値だったが、そこから5.7mにまで縮小されたことも含め、X4が「日本市場への適応性をより高めたモデル」であることは間違いない。SUVの下半身に4ドアクーペの上半身を載せたような独特のルックスに魅力を感じつつも、「日本では、余りに巨体に過ぎる」というのが、多くの人がX6に抱いた感性であったはず。となれば、なるほどX4が狙えるマーケットは、X6よりも大きくなる可能性は大きい。
実際にインテリアを見ていくと、X4の前席がそれなりにゆとりのある空間であろうことは、ボディーサイズからも予想がついた。その一方で、後方へとなだらかな下降線を描くルーフラインが後席のヘッドスペースにもたらす影響は、心配ごとのひとつだった。
しかし、意外にもこの心配は巧みにクリアされていた。数字上でもX4の後席ヘッドスペースはX6のそれよりも35mmも大きく、まずは大人でも無理なく着座に耐えうるスペースが確保されているのだ。
もっとも、ヘッドスペースを稼ぎ出すためにシートが低くセットされているので、ヒール段差が前席よりもかなり少ない。結果、クッション部分への臀部(でんぶ)の体圧分布が不均一となり、それが長時間の着座時には疲労の原因になるかもしれない。
やはり、このモデルのパッケージングは、しょせん“2+2”が基本なのだ。その上で、「ドアを4枚持つクーペの中では、わりと座れるほう」と紹介するのが適切だろう。
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ストレート6の甘美な魅力
日本仕様のラインナップは、ターボ付きの2リッター4気筒直噴ガソリンエンジンを搭載する「28i」、もしくはやはりターボ付きの3リッター6気筒直噴ガソリンエンジンを搭載した「35i」という2グレード。このところ、ディーゼルモデルの導入に積極的なBMWだが、「よりラグジュアリー志向の強い“偶数モデル”に関しては、それにふさわしい心臓としてガソリンユニットを推していく」というのが、現在のインポーターとしての方針だという。
これら2つのグレードにはそれぞれ、例によって専用のボディーキットやインテリアのコスメティック、スポーツサスペンションなどが与えられた「Mスポーツ」が設定される。全モデルにオプションで電子制御式の可変減衰力ダンパー「ダイナミック・ダンピング・コントロール」も用意されるが、今回テストドライブを行った2台は、いずれもそれを装着しない仕様だった。
「『3シリーズ』の骨格がベース」とは言いつつも、それとは比較にならない高さにあるシートへと身を委ね、アクセルペダルを踏み込む。すると、「ああ、やっぱりビーエムはエンジンだな」と心底感心させられたのは、まずは35iでスタートした時だった。
トルコン式のATを採用するおかげで、微低速時のスムーズさはパーフェクト。そのまま、アクセルを深く踏み込めば、それが1.9トンの重量の持ち主とは思えない勢いで速度を増していく。その一方で、そこまでは急がないシーンでも、滑らかな回転フィールと自然なトルクの盛り上がり感が超一級品だ。
加えて、通常であればターボチャージャーを装着すると減衰してしまうサウンドまでもが、いかにもスポーツ派ドライバーを喜ばせる周波数でしっかり耳に届けられるというプレゼントまで用意されていた。
積極的にダウンサイジング/レスシリンダーの戦略を進めるBMWだが、やはり直6ユニットは“プレミアムエンジン”として残すに違いない――。秀逸な仕上がりの8段ATと組み合わされたことで、甘美さを増した35iの心臓は、そんな感情を新たに抱かせてくれた。
乗ればやっぱりBMW
そんな35iから28iに乗り換えると、こちらのパワーパックも非凡であることに気付かされる。すでに他のモデルで散々経験し、“いまさらなエンジン”ではあるが、1.9トン近い重量を持ったモデルに搭載されても、その魅力が少しも色あせないところはさすがだ。真の実力に満ちた会心のパワーパックであることを、あらためて認識させられた。
そうはいっても、もちろん35iとの差は小さくはない。中でも、“完全バランス”を誇る35iの直列6気筒ユニットがもたらすような、甘美さや官能性までは提供してくれないことは事実ではある。
けれども、アクセルペダルを踏めば踏んだだけ、必要にして十分なトルク感が得られるため、動力性能について不足を感じることはない。こちらもまた、出来のいい8段ATがそんな魅力をさらに盛り上げていることも付け加えておきたい。
思わずパワーパックに対する賛辞を続けてしまったが、X4の魅力はもちろんそれだけではない。いかにもBMWらしい、その自在なハンドリング感覚も注目に値する。
ワインディングロードに差し掛かると、そのライントレース性が抜群に高いことに感心させられる。さすがに1.9m近い全幅の持ち主であることは、道幅の余裕が少ないことで常に意識をさせられるが、1.6mを超える全高や、1.9トンに近い重量というのは、脳裏から消し飛んでしまう。あの、独特のスタイリングからは想像ができないほどに、X4は体の一部になりきってくれるのである。
今回のテスト車がいずれもMスポーツ仕様であった点は、こうした部分に関してはもちろんプラスに働いているはずだが、それにしてもこの“人とクルマの一体感”の強さは、こうしたカテゴリーのモデルにあっては、やはり常識ハズレとさえいっていい。
といった具合に、走らせてみればどこまでもBMWテイストが強いのがこのモデルである。もはや“パッと見”では即座に車名を言い当てられないほどに、バリエーションが多彩化をしているBMW。それでいながら、大所帯のモデルのどれもこれも、乗れば即座にBMWと分かる走りの味付けが見事に実現されていることが、このブランドならではの強みになっているのは間違いない。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
BMW X4 xDrive35i Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1880×1625mm
ホイールベース:2810mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306ps(225kW)/5800rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1200-5000rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y/(後)275/35R20 102Y(ピレリPゼロ<ランフラット>)
燃費:12.1km/リッター(JC08モード)
価格:790万円/テスト車=855万3000円
オプション装備:アドバンスド・アクティブ・セーフティー・パッケージ(18万5000円)/電動ガラスサンルーフ(17万5000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)/Mライト・アロイ・ホイール・ダブルスポーク・スタイリング310M(14万5000円)/メタリックペイント(8万7000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1885km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
BMW X4 xDrive28i Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1880×1625mm
ホイールベース:2810mm
車重:1890kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245ps(180kW)/5000rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1250-4800rpm
タイヤ:(前)245/45R19 98Y/(後)275/40R19 101Y(ミシュラン・プライマシー3<ランフラット>)
燃費:13.7km/リッター(JC08モード)
価格:705万円/テスト車=784万2000円
オプション装備:アドバンスド・アクティブ・セーフティー・パッケージ(18万5000円)/電動ガラスサンルーフ(17万5000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)/アダプティブLEDヘッドライト(14万5000円)/ネバダ・レザー・シート+フロント・シート・ヒーティング(22万6000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2590km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。