BMW X4 xDrive20d Mスポーツ(4WD/8AT)
中庸にして王道 2020.11.17 試乗記 BMWがスポーツアクティビティークーペと呼ぶ「X4」に、ディーゼルモデル「xDrive20d Mスポーツ」が追加された。スタイリッシュなクーペフォルムと最高出力190PSの2リッターディーゼルターボが織りなす、走りの印象は?待望のディーゼルモデル
1年ほど前に「BMW X4 M」には乗ったことがある。それは「コンペティション」というグレードで、510PSのハイパワーを誇るスポーツモデルだった。今回試乗するのは新たに設定されたxDrive20dで、X4としては初のディーゼルモデル。最高出力は190PSと控えめなのだが、ディーゼルエンジンは思いのほかこの大きなクロスオーバーSUVにマッチしていて、好感の持てる仕上がりとなっていた。
X4は2018年に2代目となったが、これまでディーゼルモデルの設定がなかった。試乗車は上位グレードのMスポーツで695万円のスタンダードモデルより79万円高いが、それでも以前のエントリーグレードだった「xDrive30i Mスポーツ」より64万円安い。「X3 xDrive20d Mスポーツ」との価格差はわずか29万円である。エコカー減税も適用されるので、かなりお買い得な印象だ。
1339万円のX4 Mコンペティションより565万円安いが、見た目が大きく変わるわけではない。マフラーが4本出しではなく2本出しだったり、ドアミラーの形状が異なったりするものの、違いがわかるのは詳しい人だけだろう。ちょっと気になったのは、グリル形状。内側に備えられたハの字型の補強パイプが丸見えなのだ。Mコンペティションのグリルのほうがもう少し目立たないようになっていたように思う。
トレンド最先端のクーペSUVスタイルは、やはり都市に似合う。リアに向かって強く絞り込まれていく形状は、先代モデルよりもナチュラルなラインを描く。SUVにもスポーティーさが求められるようになり、デザインははっきりと進化している。流麗なフォルムでもしっかりと後席の室内空間が確保されているのは立派だ。ただ、ドライバーの後方視界はあまりいいとは言えない。
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ガラガラ音はシャットアウト
運転席に座ると体が少し右に向いてしまったのは、極太のセンタートンネルのせいだ。これはMコンペティションに乗った時も気づいたことで、当然ながらディーゼルモデルでも事情は同じである。インテリアの上質さも変わらないが、心なしかシンプルだ。ステアリングホイールを見ると、Mコンペティションにはあった「M1」「M2」と刻印された2つの赤いボタンがない。ドライブモードの設定をワンタッチで呼び出すためのものだが、どうしても必要な装備ではなかった。
セレクターレバーの先端に備えられていた「ドライブロジック」の操作ボタンもない。シフト特性を変更するスイッチだったが、これも通常の運転で使う場面は考えにくいものだった。Mコンペティションはサーキット走行も視野に入れたモデルなので特別な装備がトッピングされていたが、多くの人にとってSUVは快適な移動空間としての意義が優先する。
エンジンをかけると、クルマの外では結構大きめなガラガラ音が響く。もちろん防音は万全で、室内の静粛性は高い。発進は滑らかで、もたつきを感じることはなかった。低速でのコントロールはしやすく、日常での使い勝手はよさそうだ。もちろん、1920mmの横幅に慣れることが求められる。全長は4760mmあるので一般的なコインパーキングではどうしてもはみ出してしまうが、バックモニターが高精細なので駐車にはそれほど手こずらなかった。自動駐車システムのパーキングアシストが装備されているが、今回はうまく作動させることができなかった。なにかコツがあるのだろうか。
低速で路面の荒れた道を走っていると、豪快な揺れに面くらうこともあった。穴ボコの上を通ったりすると、大きなクルマらしい挙動が生じてしまう。しかし、スピードを上げていくと乗り心地は改善し、段差を乗り越えた際もすぐに収まるようになった。買い物グルマではなく、長距離移動に適した乗り物なのだ。
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ワインディングロードでも実力を発揮
高速道路では堂々たる王者の走りを見せる。風切り音も気にならず、音楽を聴く環境としても申し分ない。ゆったりと左車線を走っていたが、遅いトラックがいると追い越し車線に移ることになる。そうすると、前のクルマがあわてた様子で道を譲るのには閉口した。Mコンペティションの時はそれも仕方ないと思ったが、xDrive20dはたけだけしい性格ではない。大きめのキドニーグリルが威圧的に見えてしまうのだろう。立派な面持ちなのも痛しかゆしである。
高速巡航はディーゼルエンジンの得意科目なのだからソツなくこなしたのは当然だが、ワインディングロードに持ち込んでも意外な実力を発揮した。190PSという数字は2tに迫る車体には少々物足りない感じがするが、実際には力不足という印象はない。ツイスティーな道でも機敏に走り、巨体をもてあますことはなかった。ロールも十分に抑えられていて、後席にいても不快な揺れは感じないはずだ。
箱根の山の中で試乗していると、前に2台のSUVが連なって走っていた。ノロノロと走ることはなく、それなりのペースである。大きくて背の高いクルマでも、山道を元気に走るのは当たり前のことになった。SUVの運動性能は飛躍的に進歩したのだ。
ただ、山道をシャカリキになって走るためのクルマではない。シフトパドルが装備されているが、使う気にはならなかった。ドライブモードの差はそれほど大きくないものの、「SPORT」を選ぶと少しだけシフトダウンがアグレッシブになる。スポーティーな気分で走りを楽しみたいのなら、それで十分だ。
アグレッシブにさせるフィール
このところ連続して、2リッターディーゼルエンジン搭載車に乗る機会があった。すべて輸入車である。このぐらいのエンジン排気量が標準的なのかもしれないが、味わいはそれぞれ違う。最高出力204PSの「アウディA7スポーツバック」は、ひたすら穏やかでジェントルな振る舞いを見せた。最優先されているのが、心地よさである。「フォルクスワーゲンTロック」は小さめのボディーサイズで重量も軽いことから、最高出力は控えめの150PS。オールラウンドの優等生で、18.6km/リッター(WLTCモード)の燃費を誇る。
X4は、その中で最もスポーティーな印象だった。190PSという最高出力は前述したA7の204PSに比べると低いが、ドライバーをアグレッシブにさせるフィールがある。コンパクトなTロックより、山道で活気があった。14.0km/リッター(WLTCモード)という燃費は3台のうちで一番低いが、実燃費の歩留まりがよかったのはほめていい。
ハイパワーなX4 Mコンペティションのほうがさらにスポーティーだったことは当然である。ただ、かなり特殊な目的のクルマだと感じた。SUVというジャンルは進化の途上にあり、さまざまなチャレンジが行われている。視点の高さからくる運転のしやすさ、広い室内空間、デザインの多様性など、メリットが多い。何を優先するかが開発陣のセンスの見せ所である。
X4 xDrive20dは、中庸を行くクルマだ。王道と言ってもいい。刺激より心地よさを重視する、保守的な志向の人間にとっては、ベストな選択となる。過剰感をまとったX4 Mコンペティションには心引かれたが、どこか居心地の悪い思いもあった。SUVが主流になった今では、これまでになかった新しいアイデアが試されるべきなのだろう。それは重々承知なのだが、SUVには程よいパワーのディーゼルエンジンが似合うんだな、という平凡な感想を持ってしまった。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X4 xDrive20d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1920×1620mm
ホイールベース:2865mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190PS(140kW)/4000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)245/50R19 105W/(後)245/50R19 105W(ピレリ・チントゥラートP7)※ランフラットタイヤ
燃費:14.0km/リッター(WLTCモード)/17.6km/リッター(JC08モード)
価格:774万円/テスト車=835万8000円
オプション装備:ボディーカラー<ファイトニックブルー>(9万5000円)/BMWインディビジュアル エクステンドレザーメリノ<アイボリーホワイト>(15万8000円)/BMWインディビジュアル インテリアトリム<ピアノフィニッシュブラックトリム>(2万8000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/BMWジェスチャーコントロール(3万5000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(9万6000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1975km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:611.2km
使用燃料:45.9リッター(軽油)
参考燃費:13.3km/リッター(満タン法)/13.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。