第83回:シェルビーGT500が90分間カーチェイス!
『ゲッタウェイ スーパースネーク』
2014.09.19
読んでますカー、観てますカー
あの銀行強盗映画とは無関係
スティーブ・マックイーンが青い「シボレー・インパラ」で砂ぼこりを巻き上げながら疾走する。妻とともに自由の地を目指すのだ。鮮烈なガンアクションは、今も銀行強盗映画の名作として語り継がれている……。いや、それは1972年公開の『ゲッタウェイ』だ。『ゲッタウェイ スーパースネーク』は、まったく別の話である。銀行強盗は出てこない。ちなみに、『ゲッタウェイ』の原題は『The Getaway』で、今作は『Getaway』である。
“純度100%のカーチェイス・スペクタクル”というキャッチコピーが付けられていて、なんとも大げさだと思ったら本当にそうだった。制作意図もストーリーも、まさにカーチェイスありきの仕立てなのだ。“平均45秒に1台が大破するハイパー・リアル・スタント”とも書いてあって、これも本当だった。心配になるほど、クルマを壊しまくる。
カーアクションの主役は、「シェルビーGT500」である。すご腕の自動車泥棒であるニコラス・ケイジはこのクルマをエレノアと名づけ、愛する女性のように扱う。警察に追われて繰り広げたカーチェイスは超絶技巧の連続で……いや、これは2000年の映画『60セカンズ』だった。あの作品にでてきたのは1967年のモデルで、今回のは2005年に6代目となった「フォード・マスタング」をベースにしたマシンである。
5.4リッターV8エンジンを搭載していて、最高度のチューンを施された「スーパースネーク」のパワーは725馬力に達する。プレス資料には最高速度191.25km/hと書いてあったが、まさかそんなに遅いはずはないのでマイルの間違いだろう。
妻の命を守るために走り続ける
イーサン・ホークが、主人公のブレント・マグナを演じる。彼がクリスマスに帰宅すると、家は何者かに荒らされ、妻がいなくなっていた。携帯電話に知らない男から電話がかかり、「妻を返してほしければ、指示通りに行動しろ」と告げられる。言われたとおりに駐車場に行くと、「シェルビーGT500SVT」が停められていた。
謎の男は電話で指示するだけで、姿を現さない。スクリーンにも口元しか映し出されないが、その形を見ればジョン・ヴォイトかアンジェリーナ・ジョリーのどちらかだということはわかる。ヒゲが生えているので、観客は多分ジョン・ヴォイトだろうと推測するわけだ。彼が顔を見せるのは、ラストシーンである。そこで、この映画の秘密も明かされることになる。
GT500には車内と車外にいくつものカメラが取り付けられている。ブレントの行動はすべて監視されていて、逃げるのは不可能だ。警察に通報すれば、妻の命はない。謎の男から届けられる指令は、明らかにむちゃぶりだ。クリスマスでにぎわう公園に行き、暴走して露店をすべて破壊しろというのだ。次はスケートリンクに突入し、楽しんでいるカップルやファミリーを蹴散らす。よほどリア充に恨みがあるらしい。
指令には制限時間が付けられていて、時間内にミッションを完了しないと妻が殺される。派手に爆走していれば当然パトカーに追いかけられるが、捕らえられれば終わりだ。ブレントはGT500のポテンシャルを最大限に引き出し、街を破壊し、追っ手から逃げ続けるしかない。
ブルガリアはカーアクションの穴場?
八方ふさがりのなか、さらに面倒が飛び込んでくる。このクルマの本当のオーナーが、銃を持って取り返しに来たのだ。まだ若い生意気な女のガキだ。セレーナ・ゴメスがこの役にハマっている。この間もジャスティン・ビーバーとドライブデート中にパパラッチのクルマと事故を起こしたりしていて、プライベートでもトラブルに縁がある。
上映時間は90分だが、そのうち70分ぐらいはカーチェイスシーンだったような印象だ。ブレントは指令に背くわけにはいかないので、指定された場所に時間通りに到着するためにGT500で限界の走りをするしかない。まわりはいい迷惑で、たくさんのクルマが巻き込まれてクラッシュする。「オペル・アストラ」のパトカーは、何台壊れたことか。1980年代から90年代にかけてのメルセデス・ベンツ、BMW、アウディなど、ちょっと古めのセダンが盛大にぶつけられていた。
撮影にはマスタング9台を含む130台以上のクルマが使われ、22人のスタントマンが集められた。イーサン・ホークも、実際にGT500を運転している。撮影では、最大70台のカメラが同時にクルマを追った。GT500に取り付けられた小型カメラの映像も使われている。
物語の舞台はブルガリアの首都ソフィアで、撮影もほとんどがブルガリア国内で行われている。ハイウェイや市街地で行われたカーアクションのためにソフィア市内の大半を通行止めにしたというから、驚くほど映画撮影に協力的だったということだ。日本でこんな撮影が可能なところは、どこを探してもない。アメリカでも、これほどの規模のロケはさすがに難しいだろう。最近の映画がCGを多用するのも無理はないのだ。
どうやら、ブルガリアは例外的にロケのやりやすい国のようだ。11月公開の『エクスペンダブルズ3』も、ブルガリアで撮影している。カーアクションどころか、廃虚ビルのまわりに戦車やヘリコプターを持ち込んで大規模な戦争シーンを撮っている。
日本映画も迫力あるカーアクションを取り入れたかったら、ブルガリアを目指すのが早道かもしれない。ただ、あまりに条件がよくて何でもできるという状況では、いささか制作に緊張感を欠いてしまう危険性もあるのだけれど。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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