メルセデス・ベンツGLA45 AMG 4MATIC Edition 1(4WD/7AT)
超一流のアスリート 2014.10.29 試乗記 メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLAクラス」に追加された600台の限定モデル「GLA45 AMG 4MATIC Edition 1」。専用の内外装をまとったモンスターマシンの実力を試した。ただ者ではないすごみ
子どもの頃から「能あるタカは爪を隠す」と教わってきたので、爪を隠すどころか牙をむいているメルセデス・ベンツGLA45 AMG 4MATIC Edition 1の外観は、いまいちなじめない。
同社の「Aクラス」にも使われるプラットフォームを元にしたコンパクトSUVが、「GLA」で、そのGLAに世界最強の2リッターエンジンを搭載した高性能バージョンが「GLA45 AMG」。そのGLA45 AMGの発売を記念して設定された600台限定の特別仕様車がメルセデス・ベンツGLA45 AMG 4MATIC Edition 1で、専用のエアロパーツやボディーサイドのデカールなど、内外装が特別な仕立てとなっている。600台のうち300台のボディーカラーが今回試乗した「カルサイトホワイト」で、残りが「コスモスブラック」となる。
マットなブラックに塗られた20インチのアルミホイールも、ボディー各部にこれでもかとちりばめられた赤の差し色も派手だけれど、一番目立つのはやはり立派なリアスポイラーだ。見るからに、ただ者ではないすごみを放っている。
インテリアもエクステリアと同様に、赤い色がアクセントに使われている。基本的なデザインはノーマルのGLAに準じるけれど、シートやステアリングホイール、シフトセレクターなどがAMG専用のものとなっていて、ぱっと見た印象は随分と違う。ありていに言えば、スポーティーで高そうに見える。
見るからにしっかり体をホールドしてくれそうなシートに腰掛けると、このシートが見かけ倒しではないことがすぐにわかる。体のどこか一部を支えるのではなく、肩から腿(もも)までを包むようにホールドするのだ。見た目はレーシーだけど、座るとラグジュアリー。同じく、ステアリングホイールやシフトセレクターのレザーの感触も、実に滑らか。
これはスポーティー仕様というよりプレミアム仕様か? と、思ったけれど、エンジンを始動した瞬間にその考えを取り消すことになる。ずんと腹に響く、ヤル気スイッチをオンにする重低音が伝わってくるからだ。パワフルな鼓動を感じながら、シフトセレクターをドライブに入れて発進する。
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気はやさしくて力持ち
2リッター直列4気筒エンジンとしては世界最強のパワーという前評判から、荒々しいエンジンだと想像する方もいらっしゃるかもしれない。けれども、音こそ刺激的であるものの、エンジンのマナーは実に洗練されている。霊長類最強とうたわれたロシアのレスリング選手アレクサンダー・カレリンが知的な紳士で、国会議員を務めたというエピソードを思い出す。
街中を走っている限り、たっぷりとしたトルクでストップ・アンド・ゴーの連続を涼しい顔でやりすごす、金太郎エンジンだ。気はやさしくて力持ち。うれしいのはタウンスピードで走っていても、微妙なスロットル操作に繊細に反応してくれることだ。これには「AMGスピードシフトDCT」と呼ばれる、7段のデュアルクラッチ式トランスミッションが効率よくパワーを伝えていることも寄与しているのだろう。
ひとたびアクセルペダルを踏み込めば、360psが炸裂(さくれつ)して背中がシートに強力に押しつけられる。ふわっと浮かんでからダイソンの掃除機に吸い込まれるように感じる加速感に、目が点になる。
ただしこれを繰り返していると免許証が何枚あっても足りないし、大体において疲れる。宇宙戦艦ヤマトのワープと同じで、続けてやるものではない。「1日1回まで」とか、自分で制限したい。子どものゲームか。
1日1回しか全開にできないんじゃ810万円も出したかいがない、という方がいるかもしれない。でも実は、全開加速の時よりも、中間加速やアクセルの踏み方を微妙に調節して加減速するシーンのほうが、このエンジンのすごさがわかる。
まずパーシャルスロットルでの加速時は、乾いた排気音とともに滑らかにエンジン回転が上昇して、気持ち良くトルクが盛り上がる。全開にしちゃうとわからないけれど、エンジンの回転フィールも加速感も、感性を心地よく刺激するようにチューニングされている。マイスターがエンジンを手で組んでいます、というフレーズはただの宣伝文句ではないのだ。
その印象は、乗り心地やハンドリングについても同じだった。
一見派手そうだけれど……
これだけのパワーとトルクを受け止めて車体を安定させなくてはいけないから、乗り心地はやはり硬い。けれどもそれが不快だと感じないのは、「AMGスポーツサスペンション」が硬いけれど繊細であるからだ。
イメージとしては、不整を乗り越える瞬間にしなやかに膝を曲げてショックを吸収、そこからは強靱(きょうじん)な筋肉が体を支える感じだ。
どんな車もそうした動きを狙っているのだろうけれど、この車の場合は超一流のアスリートというか、しなやかなところは人一倍しなやか、強くて硬いところは誰にも負けずに強いという印象だ。
超一流のアスリートの真価は、もちろん乗り心地ではなくて曲がりくねった山道で発揮される。
何より感心するのは、ハイスピードで安定して走るのに、しっかりとドライバーには自分が操っているという実感を与えてくれることだ。車に乗せられている感じがしない。ステアリングホイールはタイヤと地面の関係を正しく伝える。タイヤからの情報伝達ルートはもうひとつあって、タイヤ→サスペンション→ボディー→シート→お尻と、こちらも正確な情報が上がってくる。
だから、ボディーの四隅のタイヤまで手中に収めているように感じるのだ。
「4MATIC」が前後輪のトルク配分を変えたり、コーナーでスピードが出過ぎると内輪にブレーキをかけて軌道を修正したりと、水面下の白鳥の水かきのようにさまざまなメカニズムが慌ただしく働いて大パワーの手綱を引いているはずだ。けれどもそれをドライバーには悟らせず、あくまで自分の力で走らせているように感じさせる。一見派手そうに見えるけれど、実は山内一豊の妻である。
スペックと価格から判断するとモンスターで、もちろんそういう使い方もできる。でも、その実はモノのわかった大人が愛(め)でる対象で、たとえばベントレーやレンジローバーのセカンドカーだと聞けば、あぁなるほどと納得するだろう。
いやぁ、いいものに乗せてもらった、と思いながら車から降りて、もう一度リアスポイラーを見ると、こんないい車に付いているんだから何かしらの意味があるんだろうと思う。……、でもやっぱりなじめないですね。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLA45 AMG 4MATIC Edition 1
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4465×1805×1495mm
ホイールベース:2700mm
車重:1620kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:360ps(265kW)/6000rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/2250-5000rpm
タイヤ:(前)235/40ZR20 96Y(後)235/40ZR20 96Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 P)
燃費:--
価格:810万円/テスト車=810万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2134km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:139.5km
使用燃料:15.6リッター
参考燃費:8.9km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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