スバル・レガシィB4/レガシィアウトバック 開発者インタビュー
今度のスバルは“味自慢” 2014.11.13 試乗記 富士重工業スバル商品企画本部
上級プロジェクトゼネラルマネージャー
内田雅之(うちだ まさゆき)さん
初代誕生から25年を経た、スバルの基幹車種「レガシィ」。その最新型となる6代目にかける思いを、開発責任者に聞いた。
考えぬいての2車種体制
――真っ先にうかがいたいのは、やはり、これまで日本で“レガシィの顔”とされてきた「ツーリングワゴン」がなくなってしまった背景なのですが。
そうですね……まず、クルマの姿形は時代とともに変わっていくということがありますね。過去の歴史を振り返りますと、ツーリングワゴンが世の中で支持されてきたのは、その時代の先端を行く人たちが、スキーなどのレジャーで「これはいいぞ」と使ってくれたからなんですね。
では、これからの(レガシィの)お客さまは何を望まれるのかというと――年齢も上がってきていますし――「ゆっくり走って、出掛けた先で何かをすることで充実感を味わいたい」わけです。その目的には、ツーリングワゴンよりもマルチパーパス性で勝る「アウトバック」のほうが適している。あとは、走りをさらに気持ちよくできれば……と考えました。
――市場からも求められていることだと。
この動きはアメリカで先行して見られるもので、現地では先代(5代目)の早い段階からツーリングワゴンをなくしています。日本でも、同じ流れが予想される。さらに日本市場には「レヴォーグ」がありますので、そのすみ分けとして、「レガシィのワゴン系はもっとSUV色を強めたほうがいい」と判断したのです。
もともとアウトバックはワゴンなのかSUVなのかハッキリしないところがありましたから、ここは勇気を持って(イメージの近い)ツーリングワゴンを廃し、アウトバックのキャラクターを際立たせることにしました。
「ユニバーサルな価値観」を形に
――とはいえ、5代目レガシィでは、ツーリングワゴンの国内シェアがダントツの6割。「B4」とアウトバックは2割ずつだったと聞いています。そのうえで“一番人気”を落とすとは、それだけ新型ワゴン、レヴォーグの存在が大きいということですか。
そうですね。発売はレヴォーグが先でしたが、実は開発・企画のスタート時期は6代目レガシィも同じです。これらの商品ラインナップは、両モデルをあわせて検討した結果なのです。
いまはまだ欧州で5代目ツーリングワゴンを展開していますが、6代目になるとこちらも、というか世界中でB4とアウトバックの2車種体制になります。
――なんでも、レガシィの市場シェアは75%がアメリカだとか……圧倒的ですよね。そのメイン市場を基準にラインナップを決め、車両を開発、世界に展開するという構図をイメージしてしまうのですが。
いえ、それはありません。台数はもちろん大事ですが、企画のうえでは、われわれは“ユニバーサルな価値観”を前提に世界戦略車を作っているんです。その価値観がアメリカから生じて他の地域に広がるという傾向はあると思いますが。
――ボディーサイズの大型化も、そうしたユニバーサルな価値観から導かれたものでしょうか。
デザイン、そして質感の向上もそうです。「もっとデザインや質感に配慮してほしい」というユーザーの声に応えた結果が、このボディーサイズですから、許容いただけるものと考えています。
輸入車とも比べてほしい
――結果的に、日本におけるレガシィのユーザーは変わってくるような気がします。
変化はあるでしょうね。ただ、急にガラッとは変わらないはずです。レガシィは、初代から3代目にかけて「走りのよさ」を前面に打ち出しました。4代目では「デザインや質感のよさ」。5代目では「室内のゆとり」を掲げ、もう少し長い距離を楽しんでいただくことを提案しました。
このまま全部をカバーしようという考えもありましたが、レヴォーグや「WRX」という“走りに振ったクルマ”を開発したことで、新型レガシィは少し乗り心地・上質感を意識したグランドツーリング的なクルマとしたわけです。
――既存のレガシィユーザーの中からも、レヴォーグに流れるひとが出てきますね。
代わりに、レガシィに関しては、アウディやBMW、メルセデス・ベンツを検討されるお客さまにも良さが伝わってくれないかなぁと期待しています。レヴォーグとのすみ分け、輸入車を意識される方の乗り換え……その結果、ユーザー像の変化は生じると思いますね。社内的には、半数の新規流入が期待されています。
――半数とは、大変な数ですね!
ええ。新型レガシィって、いままでになかったジャンルじゃないかと思うんですよ。大きいけれど、キラキラしていない。何かをするためには、過度にきらびやかでないほうがいい。
例えばアメリカだと、B4は「アコード」「カムリ」「アルティマ」の“日本御三家”に加えてシボレーの「マリブ」や「インパラ」がライバルと考えられているのですが、多くはFFですから、4WDであるB4に期待される方もいらっしゃいます。一方、アウトバックは、ダイレクトな競合車種がいません。強いて挙げればアウディの「オールロード」なのでしょうけど……直接のライバルはいないのです。
「感じる部分」にこだわった
――基本的なメカニズム以外に、今回は“感性領域”のドライブフィーリングを強くアピールされていますね。開発の過程で参考にしたクルマはあるのですか?
どんなクルマも個々には参考になりましたが、いま振り返ると……「アウディA6」は印象的でしたね。クラス的に近い「A4」も乗りましたが、やや硬い。トータルでいいと思ったのはA6でした。
――フィーリングといえば、エンジンが2.5リッター水平対向4気筒、1種類だけなのは気になりますが……。
気持ちの良い加速感、質の良い走りを味わってもらうためには、この自然吸気の2.5リッターをおすすめしたいんです。もっとも、(「アウディQ5」などと張り合う)中国市場では2リッターのDITターボも展開しますし、アメリカ市場には(もともと約2割の需要がある)3.6リッターの6気筒も投入します。
日本でも、この先5年間エンジンが1種類だけというのは、あるいは甘いかもしれませんね。どこかのタイミングで……という気持ちもありますが、まずはこの“味の良さ”を出せるように作り込むことが大事と思っています。
――デザインと並んで苦慮されたという、味ですね。走りの「動的質感」。
数値に出ない、感じて、理解して、作り込む部分ですからね。従来もやらなかったわけではないんですよ。ただ、あくまで数値目標のクリアが中心だった。今回のように、「ステアリングも、乗り味も、加速応答性も、すべて数値の指標にとらわれず“気持ちの良い乗り味”にするんだ」というのは、スバルとしては初めてのはずです。
セールスマンを対象とした事前試乗会では、みんな、この味を「よくわかった!」と言ってくれました。次はぜひ、お客さまにわかっていただきたいと思っています。
(インタビューとまとめ=webCG 関 顕也/写真=峰 昌宏、webCG)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。