ホンダ・インサイト エクスクルーシブXLインターナビセレクト(FF/CVT)【試乗記】
燃費よりもゆとりの時代!? 2011.12.04 試乗記 ホンダ・インサイト エクスクルーシブXLインターナビセレクト(FF/CVT)……267万5500円
ホンダのハイブリッドカー「インサイト」に、より排気量の大きな1.5リッターエンジン搭載車が登場。「エクスクルーシブ」を名乗る同モデルの走りを、市街地で試した。
CR-Zと同じエンジン
「CR-Zを搭載した、インサイト」。カタログの見出しをそのまま借りると、それが「インサイト」の新グレード「エクスクルーシブ」である。「CR-Z」のパワーユニットにそんなにステータスがあるのかな? という気もするが、CR-Zの価格は「226万8000円より」、エクスクルーシブは「208万円より」だから、“降臨”系のありがたいニューモデルには違いない。
ハイブリッドシステムはCR-Zと共通。4バルブSOHCの1.5リッターi-VTECエンジンには、出力で1ps、トルクで0.2kgmの差がつけられているが、それはCR-Zのステータスを守るための“最適化”に思える。
変速機はCVTのみ。新たにパドルシフトが付き、7段CVTとして使えるようになったのが1.3リッターインサイトとの違いだが、CR-ZのようにMTは選べない。
「フリード ハイブリッド」の試乗会に用意されていた「インサイト エクスクルーシブ」は最上級グレードの「XLインターナビセレクト」(256万円)1台だけ。当然、競争率は高く、試乗時間は正味30分ほど、それもお台場の島の中だけだったチョイ乗りインプレッションの印象は、「フツーに速いホンダ車」だった。10kW(14ps)のIMAシステムは1.3リッターインサイトと同じだから、ますますエンジンの存在感が増したわけで、アイドリングストップしなければ、普通のガソリン車と乗車感に差はない。最近は普通のガソリン車もアイドリングストップするようになってきたから、その意味でもますます普通に感じる。
見えるところもグレードアップ
インサイトは「走りがものたりない」という声があったのが、エクスクルーシブ追加の大きな理由だという。ホンダの社内データでは、0-100km/hタイムで1.3リッターモデルより約2秒速くなったそうだ。ゼロヒャクで2秒違ったらまったく別のクルマに感じるものだが、残念ながら、少なくともお台場チョイ乗りだとそんな大差は感じなかった。エクスクルーシブに乗る前に、最新型の1.3リッターに試乗したのだが、正直言って、これでなんの不満があろうかと思った。だから1.3リッターオーナーが悲嘆にくれる必要はない。1.5リッターのアドバンテージを強く感じるのは、高速域の追い越しやインターでの合流など、ここ一番のときだろう。
エンジンパワーが3割近くアップしてパドルシフトが付いても、仕立てが特にスポーティーというわけではない。1.3リッターも初期型と比べると、ボディーの剛性感が増し、乗り心地がよくなったが、その好印象は1.5リッターも同じだ。ただし燃費(10・15モード値)は1.3リッターモデルの31.0km/リッターから25.5km/リッターにドロップしている。
1.5リッターの内外装はたしかになかなかエクスクルーシブ(高級)だ。助手席ダッシュボード下縁はヘアラインフィニッシュのアルミ風パネルで飾られ、ドア内張りやフロントコンソールにはメルセデスのアバンギャルドみたいなブラックの木目調パネルが入る。
パッと見の外観でいちばん目立つ違いは、「XL」以上のモデルに新意匠のアルミホイールが標準装備されたことだろう。街ゆくハイブリッド車を見ていると、ホイールを替えているクルマはごく少ない。最初からカッコいい"アルミ"が付いているのは歓心を得そうだ。
プリウスか、インサイトか
1240台対1万8400台。なんの数字かといえば、2011年(1〜9月)の「インサイト」と「プリウス」の月平均販売台数比較である。
今のインサイトが出たのは2009年2月。その100日後に現行型にモデルチェンジしたプリウスとは、デビュー直後こそいい勝負をしたものの、続かなかった。2010年10月、インサイトと同じパワーユニットの「フィットハイブリッド」が登場してからはさらに台数を落とし、一方、プリウスは2011年5月にミニバンタイプの「α(アルファ)」を加えて、独走態勢を強化した。かくして、インサイトの販売台数はプリウスの15分の1になってしまったのである。
たしかに筆者のまわりを見渡しても、プリウスオーナーはすぐ片手に余るくらい思い浮かぶが、インサイトに乗っている知人は……、ガーン! ひとりもいなかった。「プリウスとインサイト、どっちか買えと言われたらどっちを選ぶ?」と聞くと、インサイトと答える友人のほうが優勢であるにもかかわらず、だ。そして、心情的インサイト派はたいてい輸入車に乗っている、というところに、インサイトの、ひいてはホンダの抱えるひとつの問題点があるように思うのだが、それはともかく、そんなインサイトの苦境を打破すべく投入されたカンフル剤がエクスクルーシブである。
「ハイブリッドでも、燃費よりゆとりを求める人が増えてきている」とは、新型インサイトの開発者の言葉だ。同じクルマなのに、あとからエンジンの大きいモデルが出るなんて、まさに普通のクルマと同じじゃないかと思うが、その言葉を信じれば、マーケットはあるということか。乾坤一擲(けんこんいってき)の効果が期待されるニューインサイトである。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。