第268回:FCVはいずこへ?
ロサンゼルスオートショー取材記
2014.12.05
エディターから一言
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ホンダが燃料電池車(FCV)「FCVコンセプト」を披露すると、その翌日にトヨタが「ミライ」を発表し、そのまた翌日、11月19日に始まったロサンゼルス(LA)オートショーではフォルクスワーゲングループが2台のFCVを出展し……と、11月の4週目は海を挟んで“FCVウイーク”の様相を呈した。そうなると、LAショーはさぞかし環境づいていたのだろうと思うかもしれない。しかし、実際はそうでもなかったのだ。11月30日に閉幕したLAショーを総括する。
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お台場からLAへ直行
お台場の日本科学未来館から成田空港に行くなら、ゆりかもめ線で新橋まで出て、そこから都営浅草線エアポート快特に乗り換えると最短で1時間30分少々、料金は1699円で移動できる。
なんでそんなことを知っているかというと、トヨタが日本科学未来館でFCV、ミライの発表会を行ったその日に、私は成田からロサンゼルスに向けて飛び立つ飛行機に乗る予定になっていたからだ。
ロサンゼルスではLAショーを取材するほか、フォルクスワーゲンとアウディが開発したFCVの試作車に試乗し、アウディの新デザイン体制に関するプレゼンテーションに参加する予定になっていた。
さらに言えば、この前日にはホンダがFCVコンセプトカーの説明会を実施していた。つまり、わずか3日間に、私はトヨタとホンダのFCV発表会に参加し、フォルクスワーゲンとアウディのFCVに試乗するという、実に濃密なFCV体験をする日程になっていたのだ。
サプライズを期待
すべての鍵を握っているのはLAショーである。私はそう確信していた。カリフォルニア州は、ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)を一定比率以上販売することを大手自動車メーカーに義務づけるZEV規制を実施している。これほどZEVの普及を厳格に求めた国や地域は世界中探してもほかにない。つまり、カリフォルニア州は次世代自動車の振興に関して世界の最先端に位置しているのだ。
そのお膝元であるロサンゼルスで開催されるLAショーで、次世代自動車の切り札ともいわれるFCVが続々とデビューするのはある意味で当然のこと。トヨタとホンダが狙いを定めたかのようにLAショー直前にFCVの発表会を行ったのは、こう考えると実にすんなりと納得できるというものだ。
だから、ロサンゼルスに向かう機内で、私はトヨタやホンダがどれくらい華々しくFCVを発表するのかと楽しみにしていた。もしかしたら、彼ら以外にもサプライズでFCVを発表するメーカーがあるかもしれない。そういえば、メルセデス・ベンツの開発統括役員であるトーマス・ウェーバー博士は、「S500プラグインハイブリッド」の国際試乗会において「私たちはFCVの開発を継続している」と明言していたし、ゼネラルモーターズ(GM)は2020年前後に発売される次世代FCVをホンダと共同開発している。こういったメーカーがLAショーに突然FCVコンセプトを持ち込んでいたりはしないだろうか? 私の妄想は果てしなく膨らんでいった。
環境話はむしろ脇役に
11月19日、LAショープレスデイ初日。会場のLAコンベンションセンターをくまなく歩いて回った私は軽い失望感を味わった。前日の11月18日にお台場であれほど大規模な発表会を行ったトヨタは、たしかにそれなりのスペースを割いてミライを展示していたものの、それはどちらかといえば目立たないブースの隅のほうで、ステージ中央に陣取っていたのはスポーツコンセプトカーの「FT-1」だった。
いや、ミライを何台も持ち込み、カットモデルも展示したトヨタはまだいい。ホンダは、全米に水素ステーションを設置している企業に1380万ドル(約16億円)を供出すると発表したものの、せっかく直前に公開したFCVコンセプトをロサンゼルスには持ち込まなかったのである。
一方、フォルクスワーゲンはFCVコンセプトの「ゴルフ ハイモーション」を、そしてアウディは同じくFCVコンセプトの「A7 h-tron」をメインステージにディスプレイしたが、それ以外のメーカーでFCVを大々的に発表したメーカーはひとつもなかった。
ちなみに、メルセデスの展示は先ごろ公開したばかりの「メルセデスAMG GT」がメインで、これを「C63 AMG」と「メルセデス・マイバッハS600」が脇から固める構成。GM系ではキャデラックがC63 AMGのライバルというべき「ATS-V」を発表したものの、環境話は一切なし。ポルシェは「GTS」のオンパレードで、あとは発売したばかりの「カイエンS E-ハイブリッド」などを展示したが、環境イメージを強く打ち出したというイメージは希薄だった。
本能の勝利か?
カリフォルニアは、1970年に史上初の排ガス規制であるマスキー法を制定し、極めて先進的な環境意識を持つ地域であることを世界に向けてアピールした。地形の関係で有害な物質が滞留しやすく、だからこそいち早く排ガス抑制策を打ち出さなければならなかったという事情はあったにせよ、この思想は現在にも受け継がれ、ZEV規制という新たな取り組みを推進していることは前述のとおりである。こうした影響もあって、数年ほど前のLAショーは環境ショーといわれるほど、数多くの次世代自動車で賑(にぎ)わっていたようだ。
一方で、カリフォルニア州は高所得者が多いことでも全米屈指の存在であり、このため高価なスポーツカーやハイパフォーマンスカーの需要が傑出して多いとされる。こうした観点から捉えれば、今年のLAショーは、人間の理性が本能に敗れ、ハイパフォーマンスカーが次世代自動車を会場の隅に追いやったとも総括できる。
それでも、と私は思う。地球温暖化を抑制するには、2020年までにわれわれ人類が有効な対策を講じ、それが効果をあげるようにしなければならない。つまり、CO2削減に向けた動きには一刻の猶予も許されないのだ。そうした時代の流れを敏感に反映した方向性をLAショーが取り戻すことは、私たちの未来を考える上でも極めて重要なはず。今年の状況はあくまでも一時的なもので、LAショーが再び環境ショーと呼ばれる日が遠からずやってくることを強く期待したい。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=大谷達也、webCG)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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