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第379回:ボルボがモーターショー出展を3都市に集約 他メーカーへの影響は?

2014.12.26 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ

ジュネーブ、デトロイト、中国のみに

スウェーデンのボルボ・カー・グループは2014年12月15日、今後の世界的マーケティング政策について発表した。
「ボルボ・ウェイ・トゥ・マーケット」と名付けられたこの政策には、ボルボ車のオンライン販売強化などが示されている。オンライン販売は、すでに2014年9月に1927台の限定車「ボルボXC90 スペシャルエディション」で開始されている。

加えて、モーターショー出展について、今後段階的に欧州、北米、アジアの3地域で、それぞれ毎年1回に集約するとしている。
ボルボは「モーターショーは限られた期間のなかで、数々のメーカーが他社よりもより人々の注意を引こうと努める、極めて伝統的なイベント」と分析。そのいっぽうで、「ブランド、製品、そしてイノベーションを、顧客や報道陣に公開する必要は認識しているが、ショーが最善の方法とは考えていない」と説明する。

ボルボは、順次ショー出展を減らしてゆき、最終的にはジュネーブ、デトロイト、そして北京/上海の各ショーのみにする計画だ。

2014年9月のパリモーターショーのボルボブース。
2014年9月のパリモーターショーのボルボブース。 拡大
「ボルボ・コンセプト・エステート」。2014年3月のジュネーブショーで。
「ボルボ・コンセプト・エステート」。2014年3月のジュネーブショーで。 拡大
ボルボ の中古車

欧州でショーが低調な理由

自動車史をひもとけば、かつて米国でゼネラルモーターズ(GM)は、「モトラマ」と称するショーを自社単独で催し、大都市を巡回していた。そこではGM全ブランドの新型車展示だけでなく、コンセプトカーさえ発表していた。それからすると、メーカーにおけるショーの重要性は、かなり変化したものだ。

市場の成長が見込まれる新興国では、引き続きショーは重要性を保つと思われる。いっぽうヨーロッパでは、ボルボの「脱モーターショー」宣言が他メーカーに波及するかもしれない。「飛躍的伸びが期待できない地域のショー出展に予算を掛ける必要があるのか。かといって、欧州ブランドとしてのイメージ発信も大切。長年にわたる慣習や、政界・労働界の目もあるし」と悩んでいたブランドは少なくないと思われるからだ。

イタリアやフランスを例にとれば、一般ユーザーのモーターショーへの関心は、明らかに低下している。その影響をもろに受けているのは、リージョナルなショーだ。トリノは2000年にその幕を閉じ、昨2013年にはボローニャとリヨンが中止に追い込まれた。ボローニャは2014年12月に復活したが、入場者数30万人は過去最低で、2006年度のたった4分の1にすぎない。

現象には、いくつかの背景がある。
ひとつは、外国ブランドでも発表からデリバリーまでの期間が短くなっていることだ。少し待てば地元販売店にやってくる。例えば最近では2014年3月のジュネーブショーで公開された3代目「ルノー・トゥインゴ」は、同年9月頭にはイタリアの販売店にやってきた。目当てのクルマをじっくり見るなら、地元ディーラーのほうがよい。

ある名ワイナリーに勤務するイタリア人醸造学者はボクに「ヴィーニタリー(毎年ヴェローナで開催されるイタリア最大のワインショー)でワインの味などわからない。クルマも同じ」と指摘した。
社会全体の高齢化も、「わざわざ混んでいるモーターショーに行くのは面倒」というムードを後押しする。ちなみにイタリアの高齢化率は日本に次ぐ世界第2位だ。

モーターショー名物といえばコンセプトカーだが、今日の欧州ユーザーのマインドとしては、「未来のクルマよりも、今お買い得なクルマ」である。クルマ好きにしても、欧州では「トヨタ・ミライ」だけで驚きだ。いや「プリウス」でさえまだ十分に新鮮で、いうなれば“走るコンセプトカー”なのである。

2014年4月の北京モーターショー。関係者公開日でさえ、ご覧の盛況。ボルボにとっては中国・吉利の傘下にあること以上に、この市場でショーを続けることの意義は大きいだろう。
2014年4月の北京モーターショー。関係者公開日でさえ、ご覧の盛況。ボルボにとっては中国・吉利の傘下にあること以上に、この市場でショーを続けることの意義は大きいだろう。 拡大
2014年4月の北京モーターショーの北京現代ブース。
2014年4月の北京モーターショーの北京現代ブース。 拡大
GMが1956年の「モトラマ」で公開したドリームカー「ビュイック・センチュリオン」。
GMが1956年の「モトラマ」で公開したドリームカー「ビュイック・センチュリオン」。 拡大

ショーに代わるものは?

では、モーターショーの代わりに、自動車メーカーは将来どうやってブランドイメージをアピールしてゆくのか。
ひとつは、既存のディーラーをより魅力的なものにしてゆくことだろう。今回ボルボもそれを考えていて、世界各国でショールームのリニューアルを進めてゆくという。アップルはエレクトロニクス関連ショーに出展しなくても、スタイリッシュな内外装のアップルストアにお客が絶えない。自動車メーカーとしては、まさに理想のモデルに違いない。

もうひとつ、高級車ブランドが強化するとボクが読んでいるのは、「工場渡し」である。ファン垂涎(すいぜん)の“聖地”で引き渡すことによって、ユーザーの満足感をより高いものにする。

その先駆けは、メルセデス・ベンツのジンデルフィンゲン工場の一角に長いこと設けられている車両引き渡しセンター(クンデンセンター)だが、近年はフェラーリも、よりエクスクルーシブ性が高いデリバリーブースをマラネロ本社内に設けた。そこではレストア部門「フェラーリ・クラシケ」がガラスを通して見渡せるようになっている。いま引き取るクルマが往年の名モデルの末裔(まつえい)であることを、オーナーに感じさせる演出だ。

いっぽう、こちらは筆者の無責任な予想だが、昔を懐かしむ、日本の自動車ファンのためにいつか東京に出現しそうなのは、往年のコンセプトカーが月代わりで展示されていて、コンパニオンが歩き回っている飲食施設だ。撮影も自由。名付けて「モーターショーパブ」。なかなかいけると思うんですけど。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真:=Akio Lorenzo OYA、General Motors)

筆者が住むシエナのルノーディーラー前にて。3月のジュネーブで発表された「ルノー・トゥインゴ」がやってきた。(2014年9月1日撮影)
筆者が住むシエナのルノーディーラー前にて。3月のジュネーブで発表された「ルノー・トゥインゴ」がやってきた。(2014年9月1日撮影) 拡大
フェラーリのマラネロ本社工場内に設けられた車両引き渡しブース。(2013年5月撮影)
フェラーリのマラネロ本社工場内に設けられた車両引き渡しブース。(2013年5月撮影) 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。

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