ボルボXC90 T8(4WD/8AT)/XC90 T6(4WD/8AT)/XC90 D5(4WD/8AT)
ボルボの新時代、ここに始まる 2015.04.07 試乗記 新世代ボルボの鏑矢(かぶらや)、新型「XC90」がいよいよ公道に現れた。デザインはもちろん、基本骨格、パワーユニット、そして挑戦するマーケットまで見直されたフラッグシップSUVの実力はいかに?引き継いだのは車名だけ
2リッターの4気筒エンジンに8段ATを組み合わせた新世代パワーパックは、すでに一部のボルボ車に先行搭載されてきた。しかし、ボディー骨格はもとより、シャシー、サスペンションなど、あらゆる要素に新開発のアイテムがフルに搭載されている――。
2014年のパリサロンで全容が明らかにされてから、テストドライブの機会を心待ちにしてきた新しいボルボ車に、ついに触れられる時がやってきた。そのボルボ車とは、もちろんXC90だ。
XC90というのは、これまでもボルボのフラッグシップSUVに与えられてきたおなじみのネーミングである。初代モデルである現行型の登場は2003年だったから、それはボルボきってのロングセラーモデルだったことにもなる。
ヨーロッパでは間もなく、そして日本ではおそらくは2016年に市場投入されると見られる新しいXC90は、そんな初代モデルから名前を除いて「何もかも」が一新されたと言っても過言ではない内容となっている。
まず、すべてのハードウエアが大きく変わった。そして「何もかも」に含まれるのは、そうしたメカニズム部分だけにとどまらず、ボディーのディメンションに始まり、販売価格帯や車両そもそものキャラクターに至るまで、およそすべての領域に及んでいる。
長年にわたって販売され、特に北米マーケットでは販売の核となってきた従来型の実績を踏み台にして、これまでのボルボが手がけてこなかった真にプレミアムかつラグジュアリーなカテゴリーに挑戦しようともくろむニューモデル。それが新しいXC90ということになる。
基本骨格を一新
新型XC90の、これまでのボルボ各車とは明確に異なる真の新しさを顕著に示すのは、まずはそのスタイリング……というよりも、たとえシルエットを目にしただけでも「これは今までのボルボ車とは違うナ」と、誰もが感じるはずの、新しいプロポーションだ。
全長とホイールベースが延長された一方で、フロントのオーバーハングは短縮された。それにより、相対的に前輪の“前出し感”が強調されて、ノーズの長さが目に付くようになった。これが第一の特徴だ。
それはフォルクスワーゲンのモジュール戦略である「MQB」と同様に、「前輪からアクセルペダルまでの寸法以外はフレキシブルにしたこと」と、「差し当たり、搭載するエンジンはすべて2リッターの4気筒と限定したこと」によって、大きなパワーパックをフロントオーバーハングに搭載する可能性から解放したという事情が、大きな影響を及ぼしているに違いない。
キャビンのショルダー部分のワイドさが強調される一方で、後端部分の絞り込みを生かした、独特のグラフィックを描く縦長のリアコンビネーションランプを筆頭に、リアビューには従来型の面影が感じられる。
一方で、北欧神話に登場する雷の神、トールが手にしたとされる「トールハンマー」をモチーフとした光のシグネチャーが採用されたヘッドライトなど、フロントマスクにはこれまでのボルボ各車とは大きく趣を異にする、新しい表情が採り入れられている。
ちなみに、そんなフロントビューの新しいイメージは、今後登場するボルボ車にも展開されていくという。このあたりにも、新型XC90が「新世代のボルボ車」であることが表現されているのだ。
上質で先進的なインテリア
しかし、そんなエクステリアもさることながら、実は新型XC90の見せ場はインテリアデザインにこそあるといえる。
十分なヒール段差(フロアからシート座面までの高さ)が確保できないこともあり、欧州ではオプション扱いとなる3列目シートの居住スペースは、フロント2列よりも明確にタイトであることは否めない。それでもいざというシーンでは、大人7人がさほどの無理なく乗り込めそうだ。そんなキャビンの仕上がりは、どこをとっても上質かつ個性的であり、大いに感心させられる。
そんな中でも、ハイライトは大きなタブレット端末をそのまま埋め込んだかのような、センターのディスプレイ部分である。ナビゲーションシステムはもちろんのこと、オーディオや空調、さらには走りのモード切り替えなど、多くの機能が集約されたこのディスプレイの使い勝手は、この種の操作系の常で、物理スイッチを排除してしまったために、かえって低下してしまった部分もないとはいえない。けれども、「Sensus(センサス)」と名付けられたこのアイテムこそが、新型XC90の新しさを象徴する先進のデバイスであることもまた確かだ。
ちなみに、このカーテレマティクス機能は手持ちのiPhoneをそのまま活用できる「Apple CarPlay(アップル・カープレイ)」にも対応可能という。これも、ちょっと保守的な雰囲気の漂った、ひと昔前のボルボ車に慣れ親しんだ人には考えられないポイントだろう。
パワーと速さは十分
スペインで開催された国際試乗会でテストドライブしたのは、フラッグシップのプラグインハイブリッドモデル「T8」に、ガソリンエンジンモデルのトップグレード「T6」、およびディーゼルエンジンモデルのトップグレードである「D5」の3台。
シリーズ中に前輪駆動仕様があることは明言されているものの、今回用意されたのはいずれも4WD仕様。ちなみに、すべてのモデルに搭載されるのは、冒頭で触れたように2リッターの4気筒ユニットで、いずれもバランスシャフト付きのオールアルミ製。基本的にT6用とT8用は同じもので、メカニカルスーパーチャージャーとターボチャージャーを装備したいわゆるツインチャージ式。また、D5に積まれるディーゼルユニットは、サイズの異なる2基のタービンユニットをシーケンシャル制御するツインターボ式となる。
まずは、ヨーロッパのテストモードで約40kmの電気自動車(EV)走行が可能という、プラグイン機能付きのハイブリッドモデルでスタート。モーター出力が82ps相当とそれなりに大きいだけに、モーターパワーで発進するのが「ハイブリッドモード」を選択した場面でのデフォルトの状態だ。
ちなみに、可能な限りEV走行を行う「ピュアモード」を選択した場合、エンジン動力なしで到達可能な最高速は125km/h。逆に、「AWDモード」や「パワーモード」を選択すると、最初からエンジンが起動状態となる。
システム全体の出力が376ps、同トルクは620Nm(63.2kgm)というだけあって、アクセルペダルを大きく踏み込んだシーンでの速さは文句なしだ。“トヨタ製”に慣れきった身からすれば、エンジン始動時のスムーズさではまだボルボがトヨタの後塵(こうじん)を拝すると言わざるを得ないが、ブレーキはなかなか自然なタッチを実現させていた。
ただし、問題なのはエンジンが発するノイズで、ボリュームが特に大きいわけではないものの、負荷が増し、回転数が高まった際に耳に届くそれは、明らかに「4気筒ならでは」という印象。もちろん、それはある種、宿命ではあるはずだが、過去に8気筒ユニットまでを積んだ初代XC90の後継としては、「これでは物足りない」という声が起きる可能性は当然否定できない。
もっとも、今回テストしたモデルは「まだプロトタイプ」とのこと。発売時にはこのあたりのリファインが進んでいることを期待したい。
一番の売れ筋はディーゼルか?
そんなT8から、「ハイブリッドシステムを差し引いた上で、プロペラシャフトを介した後輪駆動系を追加」したことになるT6でも、基本的には十分満足できる動力性能が得られる。
ただ、いかにメカニカルスーパーチャージャーを装備するとはいえ、モーターパワーの助けが得られない走り始めの一瞬だけは、T8に対してやや「重さ」が感じられる。もっとも、こちらでも0-100km/h加速を6秒台でクリアするというだけあり、いったんスタートしてしまえば、後は十分な速さが味わえる。
当然こちらでも、エンジン回転数が高まれば、例の4気筒ノイズが目立ち始める。ただし、ここでゆとりある動力性能が助けとなる。すなわち、エンジン音が目立つ以前の領域を拾って走ることで、高い静粛性を確保することができるわけだ。
一方、そんなT6用エンジンのデータを上回る470Nm(47.9kgm)という最大トルクを発するディーゼルエンジンを積むD5は、実はアクセルワークに対して最も素直な加速感を味わわせてくれるモデルだった。
ディーゼルゆえのノイズや、わずかなバイブレーションが認められるのは確かだが、今回乗った3台の中ではスタートの瞬間の“蹴り出し力”が最も力強く、ある意味、XC90というモデルのキャラクターに一番ふさわしいパワーユニットと思えるのだ。
うれしいことに、そんなディーゼル仕様も日本導入の予定というから、昨今の情勢からすると、これこそが最大の売れ筋となることも十分考えられる。
ちなみに、3台のテスト車はいずれもオプション設定されるエアサスペンションを装備しており、なかなかしなやかな乗り味と、路面を問わない自然なハンドリング感覚を味わわせてくれたことを付け加えておきたい。新開発されたボディーが、軽さを追及しつつも高い剛性感の持ち主であったことも、印象に残ったポイントだ。
こうして、まさに“ボルボ版のスカイアクティブ”のごとく、生産設備までを含めてすべてを一新させた新型XC90に、ここから本格的にスタートするであろう新世代ボルボ車の実力の一端を垣間見た思いだ。
(文=河村康彦/写真=ボルボ、河村康彦)
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テスト車のデータ
ボルボXC90 T8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960*×1765mm
ホイールベース:2985mm
車重:2343kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:318ps(234kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2200-5400rpm
モーター最高出力:82ps(60kW)/100rpm
モーター最大トルク:24.5kgm(240Nm)/0-50rpm
タイヤ:(前)275/45R20/(後)275/45R20(ミシュラン・ラティチュード スポーツ3)
燃費:2.5リッター/100km(40.0km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
*=フェンダーエクステンション付きの数値。なしの場合は1930mm。
テスト車の年式:2015年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ボルボXC90 T6
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960*×1765mm
ホイールベース:2985mm
車重:2078kg(5人乗り)/2125kg(7人乗り)
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:320ps(235kW)/5700rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2200-5400rpm
タイヤ:(前)275/45R21/(後)275/45R21(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:7.7リッター/100km(約13.0km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
*=フェンダーエクステンション付きの数値。なしの場合は1930mm。
テスト車の年式:2015年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
ボルボXC90 D5
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960*×1765mm
ホイールベース:2985mm
車重:2082kg(5人乗り)/2130kg(7人乗り)
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:224ps(165kW)/4250rpm
最大トルク:47.9kgm(470Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)275/45R20/(後)275/45R20(ミシュラン・ラティチュード スポーツ3)
燃費:5.7リッター/100km(約17.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
*=フェンダーエクステンション付きの数値。なしの場合は1930mm。
テスト車の年式:2015年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。