第290回:ホンダ汎用エンジン搭載製品体験取材会から
2015.04.14 エディターから一言 ![]() |
工事現場で使われている機械はどれも独特の動きをし、子どもがその働く様子を興味深そうに眺めている光景はよく目にする。
私も小さい頃は、学校帰りにわざわざ遠回りしてでも道路工事の現場を見にいっていた。
特に、道路工事で見かける、タタタタタッと地面を踏み固めているあの機械。巨大ロボの足の部分だけが、王貞治の一本足打法みたいにバランスを保ちながら、黙々と地面をたたき続ける様子は、大人になった今でも見入ってしまう。「ランマー」と呼ばれるあの機械を、実際に操縦する機会に恵まれたのでご紹介しよう。
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プロユースではシェア世界一
ご存じの通り、ホンダはオートバイの製造から始まり、その後は世界に名だたる自動車メーカーとして発展。現在ではジェット機の製造まで手がけているが、忘れちゃいけないのが、世界トップクラスの汎用(はんよう)エンジン製造メーカーとしての顔だ。
汎用エンジンとは、その名の通り、クルマやバイクなど専用に設計されたものではなく、芝刈り機や発電機などさまざまな作業機に対応できるように作られたエンジンの事だ。
単純なシェアではアメリカのブリッグス&ストラットンに首位を譲るが、家庭用芝刈り機などを除いたプロユースの機械向け汎用エンジンでは、ホンダが世界一のシェアを誇る。
その汎用エンジンを使用した作業機のメディア向け体験試乗(?)会が、栃木県のツインリンクもてぎ内「森の自然体験ミュージアム ハローウッズ」で開かれた。
ツインリンクもてぎはホンダの子会社が所有するサーキットで、里山の自然を気軽に楽しめる森の自然体験ミュージアム ハローウッズでは、森林の管理などにさまざまなホンダ汎用エンジンを搭載した作業機が実際に使われている。つまり、ホンダ汎用エンジンの働きぶりを体験するにはもってこいのシチュエーションというわけである。
今回の体験会は、ホンダが汎用エンジンを提供するオーレック、関東農機、スーパー工業、三笠産業の4社が参加。各社が自慢の作業機を持ち込み、われわれに体験させてくれるという趣向だ。
市場でおなじみ「ターレット」
まず体験したのは、卸売市場の構内やその周辺の公道上で目にする運搬車「ターレット」。
道路運送車両法上では「ターレット式構内運搬自動車」に分類されるクルマで、運転台の前方にある円筒の中に、エンジン、駆動輪、操舵(そうだ)装置がすべて収まっている。
試乗車の関東農機「マイテーカーV3-CNG」は、駆動輪が1輪で、その真上に空冷4サイクル単気筒389ccのホンダGX390T2エンジンを搭載し、チェーンで駆動する。
燃料は排ガスの問題を考慮してCNGを使用し、荷台の下にガスタンクが設置される。
巨大なステアリングホイール(に相当するハンドル)は、駆動システムを搭載する円筒に固定されており、つまりハンドルを切るとエンジンとタイヤ一式が丸ごと回る事になる。
もちろんパワステなどついておらず人力で操作するのだが、据え切りでも意外に軽くて驚いた。
操舵用ハンドルの内側には、一回り小さい円形のスロットルレバーがあり、ハンドルを握る手の親指でこれを傾けるとエンジンの回転数が上がる仕組みになっている。
恐る恐るスロットルレバーを倒すと、静かに、かつ力強く前進していく。
エンジンの出力は10.7ps(7.9kw)。公道での最大積載量は500kg、構内など公道以外では1000kgだというから、空荷の状態で力強さを感じるのは当然だが、それにしても「よく走る」というのが第一印象だった。
足元にはブレーキペダルがあるが、立った状態で操作するため、コントロールにはやや慣れが必要かも。
そしてなによりも特筆すべきなのは、ターレットならではの独特な操舵感の気持ちよさだ。タイヤとハンドルが同軸上にあるため、比喩ではなくそのままの意味で、切った分だけ曲がっていく。この上もなくダイレクト。
ハンドルを90度切れば、後輪の車軸中央を中心にしてクルクルとその場で回転する。
築地市場で、狭い場内を縦横無尽にターレットが走る様子を「楽しそうだな」と思って見ていたが、実際に乗ってみて確信した。これは間違いなく楽しい乗り物だ。
ああ、あこがれの「ランマー」
続いてご紹介するのは三笠産業の「タンピングランマー」だ。
記事の冒頭でも触れたが、道路の舗装工事などで使われる、振動で地面を固めるこの機械が、幼少のミギリよりあこがれの的だった。
子どもが興味を持つ機械は、だいたいどれも「おもちゃ」になっている。パワーショベルも、クレーン車も、コンクリートミキサー車も、そのミニチュアがおもちゃとして売られており、それで遊ぶ事で大まかな仕組みが理解できる。けれども、ランマーのおもちゃには、私は触れた事がなかった。
なので、どういう仕組みで動いているのか、ずっと気になって仕方がなかったのである。
学生時代、工事現場のアルバイトでランマーに接近する機会はあったのだが、ランマーを操作するのはこの道何十年といった年季の入った作業員さんで、入ったばかりのバイト君はランマーに触れる事さえできなかった。
そんなあこがれのランマーを、ついに操縦できるのだ。
三笠産業の方に言われるままゴーグルと安全靴を装着し、冷たいハンドルを握る。説明通りスロットルレバーを開くと、ランマーは「タタタタタ」と力強く足踏みを始める。
プレートが地面をたたくバイブレーションが両足に響くが、手にはそれほど振動が伝わらない。機械の振動を押さえつけるように操作しなければいけないのかと思っていたが、驚くほどスムーズでフラットだ。手を添えているだけで、ランマーはしっかりと働いてくれる。
このスムーズさは、作業員の振動障害を防ぐために、改善が重ねられた結果だという。
エンジンはGX100と呼ばれる2.1psのものが搭載されている。製品重量は64kgで、想像していたよりも軽い印象だった。
学生時代のアルバイトでは、職人みたいなおじさんが扱っていたので、操作には熟練技術が必要なのかと思っていたが、ちょっとコツさえつかめば使いこなせるようになりそうだ。これはもう少し練習してみたい。
ちなみに、この「MTX-60FE」のお値段は、39万9600円。店頭では二十数万円で売られているようだ。
自分へのごほうびとして「手が届かない金額ではないな」と考えている事に気付き、わが物欲の強さをあらためて思い知った。
(文=工藤考浩/写真=工藤考浩、本田技研工業)
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工藤 考浩
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