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第21回:新型「ナバラ」試乗&日産タイランド社長直撃!
タイはなぜにASEANのデトロイトになったのか?

2015.04.17 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ 小沢 コージ

なんだかんだでよく話題になる国

みなさん、タイにいっタイどんな印象ありますか? ムエタイ? それとも一時自動車業界でも話題になった洪水問題!? 実は不躾(ぶしつけ)オザワ、先日初めてマトモにタイ取材に行って参りまして、日産タイランドで超基本的なことから学んできましたっ!

いまさらですが、時代はやっぱりアジア、特にASEANだったりする。着実に高コスト国になりつつある中国に比べ、ASEANはその点まだまだで、しかも人口はインドネシアが2億人! タイランドが6000万人、ASEAN全体では6億人!! の超ビッグ市場である。しかもしかも、国民1人当たりのGDPが3000USドルを超えているのに、例えば2014年のタイの新車販売台数は90万台前後しかない。もう少し見ていくと、2014年のタイの1人当たりGDPは5500ドル、インドネシアは3400ドルに達しているのに、人口1000人当たりの普及率はタイが208台で、インドネシアも77台にとどまっている。

本来もっと自動車が売れててもいいわけで、しかもASEANは中国・韓国のような反日ならぬ親日体質の持ち主。日本も積極的に頑張っており、現在タイにタイする投資の65%が日本企業だとか。え? ダジャレがクドいってか(笑)。

小沢にとって祝・初タイランドとなった今回の取材。訪問先は、最近新興国での攻勢を強めている日産の現地法人、日産モータータイランドである。
小沢にとって祝・初タイランドとなった今回の取材。訪問先は、最近新興国での攻勢を強めている日産の現地法人、日産モータータイランドである。
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どこまでも続くタイの渋滞。こういう光景を見ると、自動車の普及がかなり進んでいるように思えるのだが、2013年の普及率は人口1000人に対して208台と、自動車生産量がはるかに少ないマレーシア(397台)にも負けている。(出展:OICA 2013年)
どこまでも続くタイの渋滞。こういう光景を見ると、自動車の普及がかなり進んでいるように思えるのだが、2013年の普及率は人口1000人に対して208台と、自動車生産量がはるかに少ないマレーシア(397台)にも負けている。(出展:OICA 2013年)
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街中を走る自動車の主役は、ズバリ日本車。こちらは「トヨタ・カムリ」のタクシー。
街中を走る自動車の主役は、ズバリ日本車。こちらは「トヨタ・カムリ」のタクシー。
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タイを待ち受ける「中進国のワナ」とは?

しかし、なぜ数あるASEANの中でもタイなのか? うらやましいことに(笑)不躾オザワとほぼ同い年で日産モータータイランドの社長を務める吉本浩之氏は言う。
「まず、タイは他のASEANの国に比べてサプライヤーベース(パーツ供給体制)が違います。なにしろ1960年代から自動車を造ってますから。ほかの国にはマネできないんですよ」

実は、地元のサイアムモータースが日産車を売り始めたのが1952年。1日4台の工場での組み立て生産も1960年から始まっており、これはASEANではダントツに早い。現在、日産はタイとインドネシアとフィリピンに2カ所ずつ、マレーシアとベトナムに1カ所ずつ工場を持っているのだが、中でもタイは最大拠点で、2012年には23万台以上を生産した。

タイには日産以外の日本メーカーはもちろん、欧米メーカーの工場も数多く存在しており、毎年約200万台の自動車を生産。その内の半分を国内で消費し、半分を輸出している。まさしく「アジアのデトロイト」なわけだ。一時は、日本向け「マーチ」がタイ生産になったってことでも話題になったしね。

しかし、なぜそんなに条件がそろっているのにタイは伸び悩んでいるのか。それは、去年クーデターが起こり、今も軍事政権が続いているという事情(しかし意外にムードは安全)もあるし、いわゆる補助金制度である「ファーストカーバイヤープログラム」が去年途切れたこともあるが、それ以上に「これは中進国のワナなんです」と吉本社長。

簡単に言うと、まだ工業やサービス業が主体の先進国になりきれてないということだ。実際、かつては対GDP比率が50%を超えていた農業部門は、2000年には10%程度になったらしいが、それでも農業就労人口は全体の約40%。依然、農家へのバラマキ政策も多いという。ひょっとしたら、日本でいう農協の巨大なのがそのまま残っているイメージかもしれない。それと、古くからの富裕層である財閥系も残っているので根本的に体制が変わりづらかったりする。

また、いまだにコメ、トウモロコシ、サトウキビ、ゴムの世界的輸出国として知られていることもあり、なかなか「先進国体質」になれないのだ。

小沢コージ(左)と、日産モータータイランドの吉本浩之社長(右)。
小沢コージ(左)と、日産モータータイランドの吉本浩之社長(右)。 拡大
日産は現在、タイのサムットプラカーン県に隣り合う形で2つの工場を持っている。このうち2014年7月に稼働した新工場は、「NP300ナバラ」の生産に合わせて開設されたものだ。
日産は現在、タイのサムットプラカーン県に隣り合う形で2つの工場を持っている。このうち2014年7月に稼働した新工場は、「NP300ナバラ」の生産に合わせて開設されたものだ。
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日産の世界戦略コンパクト車「マーチ」。日本向けのものはタイ工場で生産される。(写真=日産自動車)
日産の世界戦略コンパクト車「マーチ」。日本向けのものはタイ工場で生産される。(写真=日産自動車)
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工場の駐輪場にギッシリと駐車された従業員のバイク。タイの交通の主流は、今でもバイクのようだ。
工場の駐輪場にギッシリと駐車された従業員のバイク。タイの交通の主流は、今でもバイクのようだ。
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難しいお話が続いたのでちょっと一息。こちらはココナツミルクで炊いたもち米にマンゴーをトッピングした「カオニャオ・マムアン」。タイでは定番のデザートだ。
難しいお話が続いたのでちょっと一息。こちらはココナツミルクで炊いたもち米にマンゴーをトッピングした「カオニャオ・マムアン」。タイでは定番のデザートだ。
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なぜピックアップが売れるのか?

それと同じく、良くも悪くも特徴的なのが自動車のマーケットだ。タイではよくピックアップトラックを見かけるが、あれは日本における「カッコ良くて使える軽自動車」のようなもの。普及率は約45%と圧倒的で、「トヨタ・ハイラックスヴィーゴ」「いすゞD-MAX」「三菱トライトン」と日本車がざっくざっく売れている。ちなみに乗用車はトヨタとホンダが圧倒的に強く、日産、三菱と続き、トラックはトヨタといすゞが強い。

ピックアップは「半分トラック」であるがゆえに、通勤はもちろん農業にも遊びにも使えるというオールマイティー性は確かにある。だが本質は税制にあって、負担額がまるで違うのだ。
調べて驚いたのだが、タイでは自動車に物品税がかけられており、普通の乗用車の税率は排気量2000cc以下で30%、2000~2500ccで35%、2500~3000ccで40%とバカ高い。が、ピックアップのシングルキャブ、キングキャブでは、ななんと3%! ダブルキャブですら12%で、まさしく日本の軽自動車以上に優遇されている。(編集部注:物品税の税率は、2016年に排気量ベースからCO2排出量ベースに切り替わる予定)

よって、今回テストコースでチョイ乗りした日産期待の新型ピックアップトラック「NP300ナバラ」もスゴかった。見てもらえれば分かるが、トラックとしてはかなり乗用車ライクでカッコいい。その本質は乗るとさらによく分かる。要するに「実用的高級車」なのだ。

日産の新型ピックアップトラック「NP300ナバラ」。優遇税制もあり、タイではピックアップトラックが人気を博している。
日産の新型ピックアップトラック「NP300ナバラ」。優遇税制もあり、タイではピックアップトラックが人気を博している。
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「NP300ナバラ」のリアビュー。日産は同車を世界180以上の国で販売するとしている。
「NP300ナバラ」のリアビュー。日産は同車を世界180以上の国で販売するとしている。
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「NP300ナバラ」のベアシャシー。タイでは自動車に物品税がかかるが、エコカーや代替燃料適合車でさえ17~25%の税率がかかるのに対し、ピックアップトラックの税率は3~12%に抑えられている。なお、「PPV(乗用ピックアップ車)」と呼ばれるピックアップトラックベースのSUVについても、税率は12%に抑えられている。(写真=日産自動車)
「NP300ナバラ」のベアシャシー。タイでは自動車に物品税がかかるが、エコカーや代替燃料適合車でさえ17~25%の税率がかかるのに対し、ピックアップトラックの税率は3~12%に抑えられている。なお、「PPV(乗用ピックアップ車)」と呼ばれるピックアップトラックベースのSUVについても、税率は12%に抑えられている。(写真=日産自動車) 拡大

将来、このクルマがメルセデス・ベンツになるかも?

エンジンは2.5リッター直4ディーゼルと、同じく2.5リッターの直4ガソリンだが、やはり燃費と力強さからディーゼルが売れるそう。ギアボックスは7段AT(!)か6段MTが選べる。
これだけでもずいぶん高級車っぽいことが分かるが、乗ればさらに歴然とする。

エンジンをかけると確かにアイドリングはディーゼルっぽい音。排ガスもユーロ4対応でしかないから、メチャクチャキレイなわけじゃない。だが、一度走りだすと気にならない上、パワフルで乗り心地はやけに滑らか。なにしろ、ディーゼルエンジンの最大トルクは40kgm以上あるのだ。実際、コミュニケーションイメージは「タフ&スマート」。走らせてもギクシャクが気になりはしなかったし、路面のザラつきを感じたりもしない。ステアリングフィールに滑らかさと重厚感があったのも印象的で、新型が明らかに乗用車らしいパーソナル感や、高級感を狙ったものであることが分かる。

それは内装を見ても明らか。インパネはハードな素材ではあるが見た目は高品質で、デザインも乗用車的だ。それとリアシート向けに専用のエアコン吹き出し口があるのもポイント。この機能はライバルにないもので、トヨタやホンダに比べて販売力でイマイチ劣るという日産タイランドだが、取りあえずは商品力でリードしようというわけだ。
ちなみにこのナバラ、今後メルセデスブランドで売られるというウワサもある。ガワは変わるが、中身はほとんどこのまま(?)なのかもしれない。

しかし、行ってみないとわからないのが各国クルマ事情。日本も高度成長期に農業から脱却できず、どこもかしこもあぜ道ばかりだったら、もしやピックアップが普及していたのかもねぇ……なんてね(笑)。

(文と写真=小沢コージ)

「NP300ナバラ」には、エンジンや駆動方式だけでなく、ボディーについても標準とワイド、シングルキャブとダブルキャブなどのバリエーションが用意されている。
「NP300ナバラ」には、エンジンや駆動方式だけでなく、ボディーについても標準とワイド、シングルキャブとダブルキャブなどのバリエーションが用意されている。
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エンジンには2.5リッター直4のガソリンとディーゼルを採用。後者には、163psと190psの2種類の仕様が用意されている。
エンジンには2.5リッター直4のガソリンとディーゼルを採用。後者には、163psと190psの2種類の仕様が用意されている。
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「NP300ナバラ」のインテリア。複雑な意匠のインストゥルメントパネルやアルミ調の加飾パーツなどにより、乗用車ライクな雰囲気でまとめられている。
「NP300ナバラ」のインテリア。複雑な意匠のインストゥルメントパネルやアルミ調の加飾パーツなどにより、乗用車ライクな雰囲気でまとめられている。
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「NP300ナバラ」に装備される、後席用のエアコン吹き出し口。ライバルに対するアドバンテージのひとつだ。
「NP300ナバラ」に装備される、後席用のエアコン吹き出し口。ライバルに対するアドバンテージのひとつだ。
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ルノー・日産とダイムラーは、「NP300ナバラ」のアーキテクチャーの一部を利用したピックアップトラックを共同開発し、メルセデス・ベンツブランドから発売すると発表している。「設計とデザインはダイムラーが行う」とのことだが、生産は世界各国の日産やルノーの工場が担うようだ。
ルノー・日産とダイムラーは、「NP300ナバラ」のアーキテクチャーの一部を利用したピックアップトラックを共同開発し、メルセデス・ベンツブランドから発売すると発表している。「設計とデザインはダイムラーが行う」とのことだが、生産は世界各国の日産やルノーの工場が担うようだ。
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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』

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