日産エクストレイル20Xハイブリッド“エマージェンシーブレーキ パッケージ”(4WD/CVT)
ハイブリッドでも「タフギア」 2015.04.22 試乗記 「日産エクストレイル」に待望のハイブリッドモデルが登場。テストコースでの試乗を通してその実力に触れ、ライバルに対するアドバンテージを探った。悪路走破性能にもメリットはある
タフギアへのこだわり。日産エクストレイルに追加されたハイブリッド仕様の特徴のひとつは、初代以来のコンセプトを守り抜いていることだ。市街地での燃費・環境性能を引き上げるハイブリッド車だからといって、街乗りメインにシフトしてはいない。
それを象徴するのが、日産が昔から使ってきたモーターアシスト方式の4WDではなく、プロペラシャフトを用いたメカニカル4WDとしていることだ。4WDシステムのチューニングもガソリン車と変わらないという。
駆動用リチウムイオンバッテリーが置かれているのは、ガソリンエンジンの3列車では3列目シートがあった位置。つまりエクストレイル ハイブリッドは2列シート5人乗りしかない。でもスペアタイヤは積んでいる。シートよりタイヤが大事。これもオフロード重視の表れだ。もっともこれまでの販売実績を見ると、3列車の販売比率は約25%と、こちらが考えるより少なかった。それなら2列車オンリーとしても問題ないかもしれない。
最低地上高は10mm減って195mmになったが、これは空力対策のカバーを装着したためで、バッテリーがかさばったせいではない。逆に荷室の床は少し高くなったけれど、手前にはちゃんと床下収納スペースが残されている。フロアがウォッシャブルボードではなく一般的なカーペット張りになったのは、ユーザーが荷室を水洗いし、感電してしまうのを防ぐためだ。
でもハイブリッド車はオフロードでもメリットを生むのだろうか。開発を担当したエンジニアに聞いたら、こんな答えが返ってきた。
「最初のひと転がしが違います」
言葉の使い方からして土の匂いがする。要はモーターの特徴である超低回転大トルクが、滑りやすい路面での発進を楽にしてくれるというわけだ。でも試乗の舞台となった日産のテストコースは残念ながら舗装路のみ。ひとまずはこのステージでどんなメリットを発揮してくれるのか、チェックしてみた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
クリーンディーゼルを思い出す
その前に、国内では初登場となる新開発の横置きハイブリッドシステムについて説明しておこう。考え方は「フーガ」や「スカイライン」と同じで、2枚のクラッチをモーターの前後に入れる。エンジン側クラッチはエンジンとモーターの切り離し、駆動側クラッチは発進停止に使用することも共通だ。
ただし、トランスミッションが遊星ギアからCVTに変わっている点は、縦置きハイブリッドシステムと違う。2リッターエンジンには、エアコンのコンプレッサーを電動とするなど、ハイブリッド車にふさわしい変更が施されている。
注目の加速は多くのハイブリッド車と同じように、発進はモーターのみで行い、その後クラッチがつながってエンジンが始動。モーターがアシストする。減速時はモーターが発電機となってエネルギー回生を行う。停車時はもちろんエンジンは停止するが、エアコンは作動したままだ。
つまり多くのハイブリッド車と同じように、状況に応じてエンジンをかけたり切ったりを繰り返しながら走るわけだが、一連の動作をあまりにスムーズにやってのけるので、ハイブリッドシステムの仕事ぶりはほとんど分からない。遮音性が優れているためもあるが、それ以上にエンジン起動時のショック軽減に半クラッチを使うという、フーガなどと同じ技を駆使していることが大きい。「技術の日産」というフレーズを思い出す。
しかもエンジンの出番がかなり少ないので、その点でも静かになったと感じる。状況が許せば100km/h走行をモーターだけでやってのけるのはフーガやスカイラインと同じ。それでいてアクセルペダルを大きく踏み込んだ際の加速はガソリン車より明確に力強い。旧型にあったクリーンディーゼル車を思い出す押し出し感だった。
ドライブトレインに見るこのクルマの“決め手”
CVTの性格は、ガソリン車とあまり変わらなかった。急加速では回転が先に上がり、あとから速度が追い付いてくるという癖がまだ残っている。とはいえ、このCVTはモーター走行時にも変速を行うので、超低回転域から最大トルクを発生するモーターの性格を、中高速域で走る際にも活用しやすくなったという。たしかに“電動100km/h巡航”は、トランスミッションをかませているからこそできる業かもしれない。
ガソリン車にもあるECOモードスイッチは、基本的にスロットルやCVTを制御するものだが、スロットルの開け方が少ないと自動的にエンジンの始動タイミングが遅くなるので、結果的にモーター走行が増える。ただし、いわゆるEVモードはない。モーターがあることの美点は、エンジニアが語っていたオフロードでのメリットのみではない。早朝や深夜の住宅地など、エンジンを止めて走りたいシーンはあるので、追加してほしい。
ガソリン車のエクストレイルの乗り心地は、細かい上下動が目立ち、イマイチだと思っていた。それに比べるとハイブリッドは130㎏の重量増のせいか、テストコースでの印象では、落ち着きが増していたように感じられた。バッテリーを固定するステーが、ボディー剛性のアップに貢献していることも関係しているようだ。
一方、ハンドリングについては重さによる悪影響は気にならず、コーナーでの足取りも安定していた。コンパクトなリチウムイオンバッテリーを低く、後車軸に近い位置に積んだことが功を奏しているのかもしれない。
4WD仕様で約300万円という価格は他の2リッター級ハイブリッドSUV、つまり「トヨタ・ハリアー」や「三菱アウトランダー」よりは安いが、20.0km/リッターというJC08モード燃費はこの2台に及ばない。ではエクストレイル ハイブリッドにとっての決め手はあるか? 最初に書いたメカニカル4WDであることだ。なぜエンジニアがタフギアぶりを強調していたのかが分かった。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
日産エクストレイル20Xハイブリッド“エマージェンシーブレーキ パッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1820×1715mm
ホイールベース:2705mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:147ps(108kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:21.1kgm(207Nm)/4400rpm
モーター最高出力:41ps(30kW)
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)
タイヤ:(前)225/65R17 102H M+S/(後)225/65R17 102H M+S(ダンロップ・グラントレックST30)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:301万1040円/テスト車=359万8411円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール>(4万3200円)/NissanConnectナビゲーションシステム+ETCユニット+ステアリングスイッチ<オーディオ、ナビ、ハンズフリーフォン、クルーズコントロール>+アラウンドビューモニター<MOD(移動物検知)機能付き>+インテリジェントパーキングアシスト+BSW<後側方車両検知警報>+ふらつき警報+クルーズコントロール(32万7240円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンエアバッグ(7万5600円)/リモコンオートバックドア<ハンズフリー機能、挟み込み防止機構付き>(5万4000円)/ルーフレール(5万4000円) ※以下、販売店装着オプション デュアルカーペット<フロアカーペット(消臭機能付き)+ラバーマット>(3万3331円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。